戦いました。 ※グロ注意
この話は、ちょっとだけ戦うシーンがあるので一番グロイです。すみません。( ;∀;)
「ふわ~、なんかゲームの中の妖精さまと全然違うんですね~」
「普通は違うの?……そういえば、ミーナも髪と目の色を黒くして貰ったんでしょ?」
ミーナは、真っ赤になってぶんぶんと首を振った。そういえば、『彼の御方』に憧れて黒くしたと言っていたけど、本人を前に今更ながら恥ずかしく思っているらしい。元日本人からすれば、黒髪黒目なんて全然珍しくないから構わないのだけれど。
「私のは、実は染めてるんです。えへ。目はカラコン。私の兄が前世、眼医者で試作品を作ってくれて……妖精さまにもお願いしたんですけど断られちゃいました。『彼の御方』の色だからって」
「そうなんだ?大した色じゃないのに勿体つけてるわねぇ」
「そんなことないですよっ!!だって、シーラ様の色なんですからっ!」
ミーナは力説するけれど、やっぱり納得できない。だって、ゲームの中では、黒目黒髪なんていっぱいいたし、この世界だって黒目や黒髪の子供もいるって聞いたし。まあ、目と髪が黒いのはいないみたいだけど。
「う~ん、断言できないですけど、シーラ様の色なんですよ、やっぱり」
「……全然分からない」
「分からなくて良いです。あ、それより、あんなに話せる妖精さまって初めて見ました。私が会ったのは、ゲームの中の妖精さまみたいに子供のような声で喋ってましたよ。名前もなかったし」
え、そうなの?私だけ変なの?と眉を顰めると、ミーナが呆れた様子で笑った。
「違いますって!シーラ様だから特別なんですよ!だって、気付いてます?ソワカって意味?」
「うっ、……それはっ!」
ぼわっと顔が赤くなったのが分かる。ソワカという言葉なら私も勿論知っている。考えないようにしていたけれど、ソワカとは、なんていうの、え~と……。
「ソワカとは、魂の片割れ。つまり、運命の人って意味でしょ。アラハシャ・ソワカは、世界の意志が認める魂の片割れ。シーラ様の片割れって誰なんですかね~?!」
「とっ、とりあえず、妖精さまのことはおいておいて、ここから脱出する方法がないか考えてみよう!」
私は、何もない空間に手を広げ、箱をどかすような仕草をした。ミーナは良いですよぉと笑った。
「でも、私、持ってた暗器、だいぶ取られちゃったんですよね。ええと……それにしても、竜王様には幻滅したなぁ。自分の意志があるならメイドちゃんたちと、喜んでいちゃいちゃしてたってことでしょ?!やっぱ、女好きってことですよね~」
さっきの光景を思い出したミーナは、不満そうに唇を尖らせている。う~ん、最初はどうなのって思ったけど、見慣れてくると、それはそれで可愛く思えるから不思議だ。
竜王は、性格的に英雄色を好む的なところがある。でも、本当は竜王が悪いわけじゃない。竜王を作ったヤツの責任だよね、うん。ごめんなさい。以前、聞いたミーナの言葉が蘇る。イラジャール様の前世はゲームの製作者で、『彼の御方』をパートナーと言ったけれど、実際はそんな上等なもんじゃなかった。はは。
確かにイラジャール様はゲームの製作者だった。ついでに言うなら、ヴァニッシュのパーティメンバーべべとリリー、タンク、ソード、ババール、ディブクは、全員制作会社の幹部で、元々あの7人が乙女ゲームを作ったのだ。
一方の私は、ただの熱狂的なプレイヤーに過ぎなかった。とはいっても、最初の乙女ゲーム発売当初からシルファーディアンとして熱心に活動していた。そんな経緯があって、オフ会やイベント、薄い本の販売会などで顔を合わせるようになり、結果として、私たちシルファーディアンの作った緻密な資料を基に続編のゲームが次々に製作されていったのだ。
私自身、技術面でのサポートは出来なかったが、ゲームの背景、つまり、生活様式や時代設定、キャラクターの容貌や性格、生い立ちなど作るのを手伝った。だからこそ、他のプレイヤーが知らないような隠れ設定を知っていたし、準騎士トバリのような掟破りのキャラが生まれたのだ。
つまり、竜王の性格は私が作ったってことだよね。ほんと、ごめん!でも、当時は、面白かったら良いだろうとメチャクチャやってた。今は反省しているけど。だって、この世界は、こんなにもぐちゃぐちゃで混乱しているから。自分で蒔いた種は、自分で刈り取らなきゃ!
「それにしても、ミーナってほんとマニアックよね」
ミーナが制服に縫い付けていた暗器を取り出し、床に並べている。ケンディウラスの鱗、フングルドクの牙、ストールスの爪まである。
「なんか、役に立たなくてすみません。え、と、道具屋さん、が、面白くて……あ、もう会いませんよ!悪い人だしっそっ、そう考えると、これも本物かどうか分からないですけど」
そもそもは道具屋に自分たちが攫われたことを思い出したのだろう。しょぼんとするミーナだったが、私が見る限り、モノは本物だった。
「まあ、彼の道徳観はどうあれ、道具に関しては間違いないみたいよ。それに、今の私たちに、とっても役に立ちそう」
「本当ですか?!」
「ええ、こういうのは準騎士トバリが得意なの。まあ、見ててちょうだい」
私は簡単に作戦を説明すると、ケンディウラスの鱗をフングルドクの牙で砕いた。ケンディウラスとは、人魚と馬の魔獣で、その鱗に圧を加えると霧が発生する。フングルドクは、ブルドックのような見かけなのに、その牙はダイヤモンド並みに硬い。
やがて、手元からは白い霧が立ち上り、あっという間に辺りが霧で見えなくなる。それに乗じて、手元にあるポーションを全部飲み干した。これは、栄養剤、筋肉増強剤、そして、瞬発力を高める起爆剤。他の人にはお勧めしないが、一時的に超人になれる薬だ。超人といっても魔獣の核などは使ってない。自分の体力を増強し、一気に筋肉へ集めて使う仕組みになっている。
故に、あとでどっと疲労感と筋肉痛に襲われるし、鍛えてないと危険な技だが、万一、実験体と肉弾戦になった場合に備えて服用する。
お腹の中が熱くなり、ドクドクと血液が全速力で体中を駆け巡るのを感じ、足に絡みついていた鎖を引き千切る。ついで、鉄格子に手をかけると、鉄の塊が温めた飴細工のようにぐんにゃり曲がった。ミーナの驚きを目にしながら、曲がった鉄格子の隙間を抜けて外へ出る。
「シッ、シーラ様ぁ……」
「大丈夫。早くここから出よう」
案の定、突如発生した霧に、実験体が右往左往している。だが、鼻の利く一体がアンデッドよろしく近づいてきた。無駄かもしれないけれど、万が一の可能性をかけて霧の向こうの敵へと警告する。
「私の言葉が分かる者はいる?!大人しくしていれば、こちらから手は出さない。私たちは、ここから出たいだけよ。もし、外に出たい奴がいれば、後からついて来れば良いわ」
言い終わらないうちに、戦闘的な奴らが襲い掛かってきたのでリーチの長い蹴りを食らわせる。シーラの履くロングブーツもただのブーツじゃない。フングルドクの牙が仕込んであるので石壁ぐらい簡単に粉砕する。その上、身体強化のポーションも飲んでいるから、軽く踵が当たっただけで実験体が吹っ飛んだ。
その隙に、床にかがんでストールスの爪で私とミーナの周りに円を描く。その円に、アトマイザーに入っていた白ムクヘビの汗を振りかける。すると、円が炎を噴き出して燃え上がり、私たちの周囲だけ霧が蒸発していく。
「ミーナッ!」
「はいっ!」
ミーナが警棒を振ると、バリバリバリッ!!と凄まじい音と閃光に襲われた。地下牢に立ち込めていた霧のせいで、雷電が空気中を幾何学模様を描くように放電していく。実験体たちは、空気から体中に電気を浴び、悶絶した。警告しておいて全員を感電させる。
だまし討ちのようで、ごめん!だけど、こっちも必死なのだ。それに、魔獣だったら電気ぐらい足止め程度の苦痛にしか過ぎないはず。これで、大人しくなってくれれば良いのだけれど。
「出口はどっち?」
「えー、あっ、こっちです!こっちっ!」
殆どの実験体が動けなくなったものの、雷や電気に抵抗力のある実験体は、落雷などモノともしない。3体ほどが怒り狂い、雄たけびを上げながら襲ってきた。極力、致命傷は負わせたくないと思いつつ、確実に動けぬよう、実験体の腕を引き千切り、両足を折る。
手足が相手の肉片に食い込む感触があって、血肉が顔に飛び散った。鉄臭い、血の匂いは、過去の思い出したくない記憶を引きずり出す。ああ、そうだ。私はヒトゴロシだ。奴に言われるまでもなく、知っている。親を殺し、彼らの死骸の上で生きていたヒトデナシだ。
だから、私は誰にも必要とされない。誰にも愛されない。罪を償うまで、ひたすら贖罪をしなくてはならない存在。前世で犯した罪を忘れ、浮かれて暮らしていたから罰を与えられたのだ。彼らは、私の罪を裁くための生贄だ。
気付けば、私の周りに襲い掛かってくる実験体はいなくなっていた。地下牢の奥で、感電しているのか、じっとこちらを窺っているいる残りの実験体は、身動き一つしなかった。突如として現れた狂気に怯えているのか、知性が残っていて冷静なのか。まあ、こちらの邪魔をしなければどちらでも構わない。
「ミーナ、大丈夫?」
「ひっ!……い、いや…ぁ…」
無事を確認するために伸ばした手は、悲鳴と共に払い除けられた。見ると、目に恐怖の色を湛え、ガタガタと震えている。
きっと彼女はシーラの綺麗な一面しか知らなかったのだろう。けれど、私の中にはトバリもいる。卑怯な手を躊躇いもなく使い、敵を倒すトバリという戦闘狂。2つの相反するキャラクターは、紛うことなく私の中から生まれたもので、今も私の中にあるものだ。
「私は、この通り狂っているけど、ミーナには手を出さないから」
自嘲して、それだけ言うと、出口に向かって歩き始めた。ああ、失敗した。白ムクヘビのアトマイザーを残しておけば良かった。我ながら臭いが酷い。それに、実験体を倒したことは大公子、いや竜王に知られている筈だ。恐らく、地下牢の外には兵士が大勢待機しているだろう。用心しながら扉を開けると、そこには侍従さんがいるだけだった。
あら、拍子抜け。正直、助かったけど、一番の強敵、竜王の相手が残っている。やれやれ、とうんざりしていると、侍従さんが指をパチンと鳴らした。次の瞬間、私の体に飛び散っていた血肉は綺麗さっぱり消えていた。
「主がお待ちでございます」
慇懃無礼にお辞儀をするその姿は優美で、ああそうかと気が付いた。
「あなた、人族ではなくてドラゴンなのね。今ここで正体を明かすってことは、茶番はもう終わり?」
「主は茶番のつもりなど毛頭ございませんが、私、個人の見解としましては一刻も早く元の主に戻っていただきたいと存じます」
つまり、早く人族の魂を追っ払えという訳だ。こちらも同意見だ。
「こちらも同じ意見よ。侍従さんが敵ではないのなら彼女のこと、頼めるかしら?刺激が強かったみたいで、これ以上、怖がらせたくないのだけれど」
「では、一足先にシルファード王国へ送り届けましょう」
「彼女のご家族の元が良いわ」
侍従さんは、御意と頷くと、再び指を鳴らした。消える間際、ミーナの口が動いたけれど、何と言っているのか聞こえなかった。
「さ、行きましょう。最後の舞台へ案内して頂戴」
私は侍従さんについて静かに歩き始めた。自らの手で作った竜王と対決するために。