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私、乙女ゲームのモブですから、好きに生きていいですよね?!  作者: 春香奏多
A面 ~ルーファリスの災難~
26/68

牢屋に入れられました。

引き続き、ちょっとグロイです。すみません。((+_+))




―――― ほら、あの子。親を亡くして、でも、全然泣かないのよ。怖い子ねぇ。


―――― 意外に死んで良かったと思ってたりして?遺産、保険金、慰謝料、がっぽりだぜ?


―――― 案外、あの子が殺したんじゃないの?自分は軽傷で済むように計算して。


―――― いやだ、人殺しじゃない。人殺し、ひとごろし、ヒトゴロシ、ヒトゴロシ、ヒトゴロシ……






 あまりの寒さに、ぶるっと震え、意識が浮上した。辺りは真っ暗で、何も見えないが、どうやら石の床に横たわっているらしい。起き上がろうとして足が重いことにきづく。そして、じゃらりと鎖の音。


「ここは……?」

「あ、シーラ様っ、気が付きました?」


 暗闇の中、直ぐ隣にミーナが座っていて、起き上がるのを手伝ってくれた。どうやら彼女は拘束されていないらしい。ぐるっと周囲を見渡すと上方から幽かに月明かりが差し込んでいる。つまり、ここは地下一階で工場の上階、鉄格子が見えることから地下牢なのだと見当がつく。


「私、どうしたの?薬でも盛られた?」

「っていうか、大公子ってやっぱり竜王様な気がします。シーラ様、大公子と何か話していたのに、いきなり倒れちゃったんですよ。竜王様って、精神感応が得意でしたよね?」


 確かに、竜王は精神感応が得意だ。ああ、そうか。人殺しと指摘されて動揺した隙を突かれたのか。我ながら情けないなぁ。まだまだ修行が足りないねぇ。


「シーラ様、何をしているんですか?」

「んー、地下だから感度がどうかな、と思って」

「感度?」


 ラッキーなことにコートは、脱がされずにそのままだったよ。といっても、これは特殊仕様で、登録した人じゃないとイジれないんだけどね。しかも、こちらを甘く見てるのか、両手も自由だ。あ、でもマハシュのドラゴンソードと鞭は取り上げられている。まぁ、なんとかなるでしょ、うん。


 で、感度っていうのは、大公子につけた盗聴器だったりする。勿論、盗聴器なんてないから、地獄耳をもつイワトビコウモリの耳垢から作ったアイテムだ。さっき、掴みかかった時にひっつけといたんだけど……1cmほどの小型受信機をONにする。あ、聞こえる聞こえる。



「ふはははっはあっ!いよいよ我が公国が世界を支配する日も近いぞっ!」

「「「「いや~ん、殿っ!す・て・き~っ!!」」」」

「うぉっほん」

「おいっ、そんなことより、どうしてシーラを捕らえる?!大人しく連れてきたら何もしないって約束しただろうがっ!!」

「大人しくなかったじゃん。めっちゃ胸倉掴んで脅されたよね。しかも、姑息に盗聴器つけるしさ~。ねえ、聞こえてる?シーラたん。マハシュは、俺の部下なの。ざ~んねんでした~っ!地下牢のクエスト楽しんでね、バイビーッ!」



 ぶちっと音がして、音声は聞こえなくなった。大公子に見つかって潰されたのか。まあ、いいや。マハシュが無事って分かっただけでも収穫だし。


「ちょ、ちょっと、シーラ様っ!今のって、マハシュ様が裏切っていたってこと?」


 ミーナの声が震え、動揺しているようだった。あれ、そんなに驚くこと?


「裏切っていたというか、大公子が竜王だったら、マハシュが逆らえないのは当然だよね」


 そう考えると、今までの疑問にも納得がいく。どうしてマハシュの洞窟に大公子の迎えが来たのか、一個中隊が来たのか。竜王は、全ての魔獣の頂点に立つ者。しかも、魔獣の核を意のままに操る能力を持つ。公国の兵士はいわずもが、例えドラゴンであっても、命じられたら諾と頷くしかないのが魔獣族の宿命だ。そこに、個人の意思は介在しない。


「え、大公子が竜王?!まさかっ!!」

「まさかって、ミーナ、自分でも言ったじゃない。竜王は精神感応が得意だって。つまり、大公子は、竜王あるいは竜王と同じ能力を持つ者ってこと」


 竜王様がオタクだったなんてサイアク~っ!と叫ぶミーナの悲痛な感情が地下牢に木魂する。すると、地下牢のあちこちからオオオオオッという唸り声や遠吠え、威嚇する声が反響すると同時に、複数の、引きずるような足音が近づいてきた。


「ひっ、やっ、やだっ!また来たっ!こっち来ないでよぉっ!」

「……落ち着いて。ここって鍵はかかっているんでしょ?」


 涙目でこくこく頷くミーナを頭から抱き竦める。


「じゃあ、奴らは、鉄格子があるから入って来られないわ。それより、感情を出しちゃダメ。恐怖を見せると余計に興奮させてしまうから」


 一体、二体、五体、十体……どれほどの魔獣がいるのか。いや、彼らは恐らく、魔獣ではないのだろう。二足歩行で歩いている者は、全身毛むくじゃらで腕が8本あった。四つ足で尻尾を振っている者は、裂けた口の中から人の頭らしきものが生え、腹と思しき所から蛇と犬が飛び出してもつれ合う者もいた。いずれも、魔獣としては奇妙な体で、どことなく人の風情を残している。


 魔獣と一口に言うと何でもありのように思えるが、基本は動物の身体的構造を備えている。その一部、例えば牙だったり、足だったり、筋肉だったり、が突出したのが魔獣なのだ。


 だから、動物としてありえない形をしているのは、自然に生れた魔獣ではない。しかも、人間の一部があるなら、大公子が実験に使った人族だろう。そういえば、彼は実験体を殺したとは言わなかった。新しい魔獣を作り出すつもりなのか、それとも、更なる改良を加えるつもりなのか。


 恐怖でしゃくりあげるミーナを落ち着かせるため、ゆっくりと背中をさする。彼女も、しばらく震えていたが、人肌が移って安心したのか静かになっていく。やがて、実験体も興味をなくしたのか、それぞれ元居た場所へと戻っていった。


「地下牢クエスト、ね」


 ここから脱獄するには、実験体を排除しなくてはならない。ドラゴンソードの他に武器がないかコートを探るが、眠り薬が塗ってある小型ナイフが数本。メデューズネークの眠り毒だから、その辺をウロウロしている魔獣にはイチコロだけど、実験体にどれほど効果があるか微妙なところだ。


 あとは、雷が飛び出る振出式の警棒。これは、雷が強すぎて室内で使うと火事になるけど、石造りだから大丈夫かな?まあ、これも、実験体に効くかどうか分からないけど。


「これ、持ってて。1回振ると警棒が伸びるけど、2回振ると雷が落ちるから気を付けて」


 武器を何も持っていないミーナに渡す。警棒を受け取ったミーナは、興奮した様子ではしゃいだ。


「うそぉ、これ、サンヴォッキーの尻尾で作った警棒ですね!初めて見る~」


 ジャキンッ!ジャ……


「待って待って、ここで練習しちゃダメよ。しかも、雷は1回しか使えないからね」


 2回目を振ろうと警棒を持ち上げた所で、待ったをかけた。やっぱりミーナに渡したのは危険だったかな?まあ、良いわ。え~あとは、ハイデカル貝のため息、ポーションが何種類か。白ムクヘビの汗が入ったアトマイザーぐらい。


 う~ん、相手は十体以上いるのは確かだけど、正確な数が分からないし、どれほど身体強化されているのかも分からない。せめて、この地下牢の広さが分かれば……。


「ミーナは、ここに連れてこられた時、意識があったの?」

「はい。シーラ様は、エロ中隊長に背負われてました」


 うひー、鳥肌立った!!気持ち悪いこと言わないで良いから!!知りたくないからっ!!


「なんて、嘘です。私が背負ってきたんですよ~。意外に重かったです、シーラ様」

「うそっ?!ホントに?!……ごめんっ!重かったでしょ!!」


 現在の私は、ミーナよりちょっと背が高い。おまけに、このコート、意外と重かったりする。あ、私の体重が重いかどうかは内緒だ。


「大丈夫ですよ。気力でカバーしました!だって、大事なシーラ様をエロ中隊長に触られたくないですからねっ!!ふんっ!!」

「……ありがとう。ミーナがいてくれて心強いわ」


 一安心したところで、ミーナに地下牢の広さがどれくらいあるのか聞いてみた。


「ここ、手前より5つめの牢屋でした。奥にもまだあるようですが、さっきの奴ら……が、奥に詰め込まれていて……どこまで続いているのか分からないです。私たちをここに閉じ込めた後、兵士たちが奥の牢屋のカギを全部開けてから出ていきました」

「普段は閉じ込めていて今は歩き放題、というより、私たちという獲物が出てくるのを待っているのね。悪趣味だわ、ほんと!」

 

 奴らを奥へ誘導し、地下一階のドアまで行くことが出来れば脱出できるはず。問題は、地下牢を脱走した後だ。魔獣化した兵士がどれほどいるのか、それも、竜王の意のままに動く訓練された兵士たち。彼らが待ち構えていたら万事休すだ。


 いずれにしても、圧倒的にピースが足りない。ふうっと深呼吸し、コートの中から、ハイデカル貝のため息を取り出し、床に叩きつける。牢屋の中が黒い雲に包まれたのを見計らって、アラハシャ・ソワカを呼んだ。隣国までは声が届かないか危惧したものの、辺りを這っていたネズミの一匹が近づいてきた。


「呼ぶのが遅えよっ。しかも、グランパルス公国なんてさ。ここ、苦手なんだよな。あんまり制御できねえから」

「うわぁ、これって妖精さまですか?ネズミ型って初めて見ますぅ!」

「ミーナ、感想は後でね。時間がないから。所で、大公子って竜王でしょう?どうして人族の大公子を名乗っているの?」


 私の中で大公子=竜王というのは、確定事項だ。そう考えると、いくつか仮定が生じるけれど想像だけじゃ話にならない。


「そりゃ、竜王が大公の養子になったからな。あ、別に竜王が脅したわけじゃねえよ?竜王が、大公に打診したら息子になってくれて万々歳!って感じだったからな」

「大公はどこにいるの?殺されたの?あと、大公妃と娘が何人かいたわよね?」

「大公夫妻は引退して呑気に離宮で暮らしているぜ。あと、娘たちは会っただろ?」


 眉間に皺を寄せ、記憶を辿るとメイドちゃんたちの姿が浮かんだ。


「あのメイドちゃんたち、大公の姫だったの。要は、人質ってこと?」

「う~ん、彼女らは彼女らで、麗しい竜王様に骨抜きだし、大公も4人の中の誰かとの結婚を望んでるから、誰に対しての人質なのか微妙だな」


 ミーナが、本物の竜王様ならメイドになっても……とかぶちぶち呟いている。


「竜王っていうか、ドラゴンは、他の魔獣たちとは隔絶した場所で暮らしてる筈よ。どうして人族に干渉するの?」

「ゲームに熱中していた男の記憶があるから」

「私たちみたいに、竜王に転生したってこと?」


 ネズミ、いやアラハシャ・ソワカは、前足で髭を撫でながら首を振った。


「ちょっと違うな。お前らは、前世の記憶を持ちながらも生まれた時からこの世界の人間として定着しているが、奴は違う。生まれた瞬間に、前世の記憶と3千年生きた竜王の記憶があったから、魂が2つに別れてしまったんだ」

「どういうことですか?3千歳の竜王様に地球人の記憶が憑依したって意味ですか?」

「この世界は、20年とちょっと前に出来たばかりだ。だから、どんな生物でも、それ以前は存在していない」


 つまり、竜王に転生したヤツは、生まれた瞬間、3千歳の竜王の体で、3千年分の記憶があったという訳だ。例えば人間同士であれば、洋の東西はあれど基本的な生活習慣は同じなので支障はなかったかもしれない。けれど、人とドラゴンは天と地ほども違う。ゲームの知識を持った男と、ドラゴンの記憶は水と油のように混ざらないのは当然かもしれない。


「ドラゴンとしての記憶だけだったら、恐らく、設定通りに隔絶して暮らしていただろうが、煩悩まみれの人間の記憶に触れてしまった。刺激を受けて影響されるのも無理からぬ話だね。しかも、その人間の記憶が、まあ、学校でイジメにあって登校拒否、そのままゲームやアニメ三昧のニートになったヤツだ。狭い部屋の中だけで暮らし、悪いのは全部他人のせいにするようなヤツ」

「そうか!竜王のチート能力を手に入れて自分をイジメた人間に仕返しするつもりなんだ!……っても、実際には、誰がイジメたかなんて知りようがないから人間全部を標的にしてるんだ!そんなことに竜王様を巻き込むなんて最低~っ!」


 ミーナが嫌悪感も露わに顔を顰めた。


 いるよね、そういうヤツ。でも、私にも覚えがある。他人に傷付けられて自分の殻に閉じこもってた。もしも、乙女ゲームに出会わなかったら、私も大公子と同じだったかもしれない。そう考えると、彼の行動を否定できない。とはいえ、賛同して受け入れることも出来ないけど。


「なるほど。でも、竜王も止めようと思えば止められたはず。結局の所、人間に思う所があるから復讐劇に乗っかったのよ。おまけに、人族が魔獣化すれば魔獣の眷属が増えるしね」


 基本的に竜王は、人族に対して無関心を貫いている。例えるなら、象が蟻を気にしないのと同じだ。人族が死に絶えようが、どうしようが何も思わない。逆に、自分の興味を引くものなら善悪関係なく、執着する。その男の記憶は、よっぽど強烈に竜王の興味を引いたのだろう。


「魔獣化している兵士たちは、どうなるの?魔獣化を解けるかしら?」

「薬を止め、完全に核を排出すれば戻るだろうな……恐らく。ただ、前例がないから断定は出来ないぞ」

「それでいいわ。あと、彼らは、どう?」


 今は見えない実験体を思い浮かべながら尋ねる。アラハシャも察したようで、難しい顔をして首を横に振った。


「魔獣の核が蓄積し過ぎて、人としての意識を失っている。例え核を全部出しても、元に戻る確率は少ないだろうな」

「そう、酷い話ね」


 どれほど大公子の前世が、酷い目にあったのだとしても許容範囲はとっくに超えている。責任は取って貰わないとね。とにかく、ピースは揃ったと安堵していると、ネズミ、いやアラハシャ・ソワカがたしたしと尻尾を叩いている。どうやら黒猫の癖が抜けないらしい。


「あと一つ、願い事が残っているぞ。お前らをシルファード王国に転移することも、大公子を倒すことも出来るのに、どうして望まない?」

「だって、願い事を全て叶えてしまったら、会えなくなってしまうじゃない?」


 よくよく考えれば、今世において彼は一番長い付き合いだったりする。アラハシャ・ソワカは私のことを面倒な奴とでも思っているのだろうが、私にとっては、いつの間にか頼れる存在になっていた。いっそ、ずっと自分の傍にいて欲しいと願うことも考えたけれど、世界の意志を個人でどうこうするのは身の程知らずの不遜な行為な気がして止めた。


 だから、せめて繋がりだけは残しておきたいという私の答えに、アラハシャ・ソワカは、びくんと凍り付いたかと思ったら、次の瞬間、ぼわっと赤くなった。黒いネズミだから正確には赤黒くなったというのだろうか。器用なヤツ。


「おっ、お前っ、そんなだからなー、あいつがっ……くそっ!まっ、まあ、良いか。じゃあ、俺は退散するぞ」

「ありがとう。いつも助かってる」

「おっ、おうっ!あ、そうだ。イラジャールも食堂の件は気付いて対処したぞ。あと、こっちに向かう手はずを整えている」

「そう。イラジャール様が来てくれるなら心強いね!」


 3分が経ち、雲が晴れる。と、同時にアラハシャの憑依が消えたネズミは、我に返ると慌てて巣穴へ逃げ帰っていった。


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