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私、乙女ゲームのモブですから、好きに生きていいですよね?!  作者: 春香奏多
A面 ~ルーファリスの災難~
24/68

王子様に会いました。

 マハシュの洞窟を出ると、表にもずらっと兵士が並んでいた。ざっと見て100以上。一個中隊で150~200人前後と言った所か。たかだか小娘1人に大袈裟だこと。それにしても疑問が生じる。


 疑問1。どうやって私、つまりシーラがマハシュの洞窟にいるという情報が大公子へ伝わったのか?


 例えば、国境警備隊が人間2人を捕まえているマハシュを見たとして、それが誰かまでは分からなかったハズ。今の、如何にも『シーラ』という恰好ならまだしも、隣国の学園の制服姿の小娘2人。そして、ただの小娘であれば大公子へ連絡するまでもなく、国境警備か下っ端の兵士が身元を確かめに来るのが普通だろう。私が気絶している間に、誰か来たという話は聞かなかったし。


 疑問2。近衛師団の一個中隊が派遣されるというのも不思議だ。シーラが暴れると思ったのかもしれないが、もしマハシュが暴れていたら一個中隊なんてあっという間に壊滅するだろう。つまり、マハシュは抵抗しないと踏んでいたことになる。この世界が構築されてから今まで、マハシュに何があったのだろう。


 疑問3。大公子は、シーラを招いて何をさせる気か。シーラはただの正騎士でしかない。そりゃあマハシュと組んでいたから、それなりの戦績は残したけれど、それはあくまでゲームの世界での話。今のシーラは、ただの女子学生に過ぎない。それとも、人質にしてゴーハルバク侯爵家やナトゥラン公爵家を脅迫するんだろうか。でも、一介の悪党が脅迫するならまだしも、大公子の名前で脅したら国際問題だ。


 ううむ、考えれば考えるほど分からない。ま、いいや。大公子に会えば分かるでしょ。


 そ・れ・よ・り・も!どうやって山の山頂から大公子のいる城まで行くんだろうと思っていたら、なんと洞窟から200mくらい下りた所まで鉄道が来てましたよ!びっくり!


「確か、ちょっと前の新聞では、ガウラッディ山の中腹まで鉄道が完成!って書いてなかった?」

「私も読みました!落石事故があって工事が遅れているって!」

「でも、これ、どう見ても山頂どころか、もうちょっとで国境ってとこまで来てるわよね?」

「そうですね。この峰を周って行くと国境がありますから。ただ、我が国の国境からは峰の反対側になっているから見えないかも……」


 ミーナと2人でヒソヒソ話していると、マハシュが独りごとのように、ぼそりと呟いた。


「最近は、ハッパの音が煩くてかなわん」


 え?と思って振り向くが、マハシュは、何事もなかったかのように国境の方を向いていた。


「今の、何でしょう?葉っぱの音?」

「山の上だから、さぞかし風が強いんでしょうね」


 ミーナは何の事だか?といった表情をしたが、私はしかめっ面にならないよう平静を保つのが精いっぱいだった。中隊長が、用心深くこちらを伺っている。


 よく見ると、駅舎までの道中、所々に兵士が固まっている。まるで何かを隠すように。ふうん、グランパルス公国は、シルファード王国に知られたくないことが沢山あるらしい。それとも、私たちが知らないだけで、ラヴィヌス陛下は知っているのだろうか。脳裏に、人の好さそうな陛下の顔が浮かんで、ちょっと心配になった。


 そんなこんなであっという間に、駅舎に着いた。夜明け前の、薄闇の中だから良く見えないけれど、なんか、すごいキンキラキン。めっちゃ成金丸出しという感じだが、中隊長はどや顔をしている。


「うわぁ、すっごい綺麗~っ!グランパルス公国ってお金持ちなんですねぇ!」


 お、ミーナが素で興奮している。私も同意するように頷くと、隊長も満足したらしい。


「当然である。将来的にシルファード王国と鉄道が開通すれば、我が国の玄関口となる駅舎。両国の国力の違いを見せつけるのは不本意だが、事実であるならば仕方なかろう」


 むか。軽く友好国をディスってるぞ、クソオヤジ。シルファード王国うちはな、趣味が良いんだよ。金さえかければ良いってもんじゃないんだ、と内心でメッタ切りにする。


 それにしても、鉄道はまだ開通していないのか、駅員らしき人はおらず、駅舎にも車両にも兵士で溢れかえっていた。一見して蒸気機関車のようだが、どうやら運転も兵士がするらしい。私たちは、10両編成の最後尾へ連れていかれた。


「ふあああああ、すっごい豪華!ソファにテーブル、あ、こっちは寝室にバスルームありますよ!」


 ミーナが、興奮しながらあちこち開けまくっている。中隊長は、鼻高々といった感じで偉そうに説明しだした。


「この客車は大公家専用の客車である。今回、マハシュ様がお乗りになるということで畏れ多くも大公子様から使用許可が下りたのだ」


 言われてみると、大公家の紋章が随所に入っているし、マハシュは何度も乗っているのか、当然といった様子で長ソファに腰かけ、ふんぞり返っている。私とミーナは、マハシュから借りた魔獣ジラハリーの毛皮のコートを脱ぎ、クローゼットにしまった。


 ジラハリーは、狐のような魔獣で毛皮が防寒具に加工される。ふわふわの毛で軽いのに、とても暖かいのだ。マハシュの仕業だけど、着の身着のままで隣国まで連れてこられたのだ。コートでも借りなければ今頃、私もミーナも凍死していたよ、うん。


 ちなみに、マハシュはコートも羽織らず、室内着っていうか、アジアのお坊さんみたいに長~い一枚の黒い布を体に巻き付けているだけ。これは、人化を解いてドラゴンになっても服が破れる心配がないという利点がある。しかも、坊さんでもないのに、どことなく偉そうというか、神々しいような雰囲気になるのが、なんかズルい。いや、実際、国によっては神様と崇められるドラゴンだけどさ。


 さて、コートを脱いだ私はさっさとマハシュの隣に座った。これでエロオヤジの隣に座らなくていいぞ、よしよし。ミーナは侍女役が気に入ったのか、いそいそと戸棚を開けてお茶の準備をしている。私の隣に座る機会を逸した中隊長は、出発の準備が整ったかどうか確認してくると言いおいて出て行った。


 先ほどから沸々と沸き起こる疑問を、マハシュにぶつけようと思ったが、マハシュは機嫌が悪いのか、思いっきり眉根を寄せて目を閉じている。ううん、こういう時のマハシュは、放っておくに限るのだ。


 結局、私はミーナとお茶しながら、車窓の風景を眺めつつ、時間を過ごした。グランパルス公国は、シルファード王国より北に位置する。よって、四季のあるシルファード王国に比べ、冬が長く、積雪量も多い。山頂では雪があったけれど、平地ではまだ降っていないらしい。


 とはいえ、紅葉も終わり、広葉樹は冬支度で葉を落とし、ただただ常緑樹の森が延々広がっているという風景は直ぐに見飽きてしまった。


「グランパルス公国って、どんな国なんですかね。キンキラキンの駅舎があるかと思えば、全然、人家とか見えないし……ゲームでは、ざっくりとした地図ぐらいしかなかったから、どうにも勝手が掴めません」

「そうねえ。確か、家庭教師に教わった話では、シルファード王国と同じような人口なのに4倍の国土があるそうよ。でも、半分ぐらい永久凍土で人が住めないのだとか」


 正直、隣国には興味がなかったので、うろ覚えなのが悔やまれる。だって、庶民だから関係ないと思ってたし。まさか隣国で鉄道に乗るとか想像もしなかった。人生、何があるか分からないね、まったく。


 風景に飽きた私たちは、いつの間にかゲームのあるある話をしていた。ショタッ子王子は王太子より腹黒とか、騎士団長のゴータム・カマイラ様はナルシストだとか、竜王様は、女好きに見えるけれど、本当は一途だとか。


 ミーナは辛らつだけど、ゲームやキャラの核心を突いていて、感心することも多々あった。何だろう、距離の近い関係だと遠慮してしまうことも、ある程度、距離があるから気軽に話すことが出来る。こんな関係もありだし、悪くないなと思った。


 やがて、列車がゆっくりと停車した。どうやらどこかの駅舎に着いたらしい。時計はないけれど夜明け前に出発して、もう夕暮れ時だ。中隊長の指示で下車すると、またもやキンキラキンの駅舎と何もない荒れ果てた大地があるだけだった。


「普通、駅前って繁華街じゃないですか?何にもないですよ」

「鉄道って何もない土地に作るから、まだ街並みが整備されてない、とか?そもそも、鉄道だって一般客は利用できないみたいだし……」


 憶測を口にしながらも、黙々と働く兵士たちを見ると、もしかして軍事利用の鉄道ではないのかと疑念が過る。家庭教師の先生に聞いた時は、酪農とか農業が主な産業だったように思うが、今、目にする限りでは軍事国のイメージだ。まあ、ずっと兵士たちに囲まれているせいかもしれないけれど。


「馬車は、こっちだ。早くしろっ!」


 中隊長にせっつかれて、一台の馬車まで連れてこられた。え、鉄の馬車?しかも、窓に鉄格子がはまってるけど。護送車なの?


「大公家の馬車、じゃあ、ない、ですよね?」

「我が軍の装甲馬車だ。安全だぞ」


 あれよあれよと、私たちは馬車に押し込められ、外から鍵をかけられた。そうか、隔離したい訳だね。豪華客車も快適な旅というより、一車両に閉じ込めて兵士たちから引き離す目的があったのだろう。


 っていうか、やっぱり連行されて処刑コース?いや、でもマハシュが黙って私たちを処刑させる?


 ちらっとマハシュを見ると、列車の中同様、眉を顰めて目をつぶって、イライラしている。なんか、マハシュ、城に行きたくないみたい。ゲームの中では好き勝手にやってたドラゴンだけに、我慢している姿は珍しいかも。


 やがてマハシュのいら立ちが伝わったのか、ミーナも私も段々と無口になっていった。まあ、鉄格子越しに見える景色も荒れ地ばかりで、特に変化がないってこともあるんだけど。馬車は、城壁の門と思しきところで止まった。どうやら王都に入るみたいだ。ちょっとワクワクする。ミーナも私同様、動き出した馬車の窓に張り付き、街の様子を眺めた。


「……なんか、人の気配がないですね」

「建物はあるのにねぇ」


 多分、メインストリートなのだろう。広い石畳の道が真っ直ぐ続き、その両脇に八百屋さんや肉屋さんなどの商店街が並ぶ。美味しそうな商品が並んでいるのに、買い物客も店の店員も誰もいない。人間だけ忽然と消えてしまったかのようだ。


「この国では、軍隊が通る時、一般人が見てはならぬという掟がある。今正に歩兵中隊が通っているから隠れているのだろう」

「ええ~?……なに、その時代遅れな掟は!」

「軍事機密が漏れては不味いからな」


 マハシュが、憮然としたまま吐き捨てるように言った。機密って、やっぱり新薬のことかな?マジでヤバいよね。隣国が軍隊を強化しているなんて。王都を目にして初めて浮上した気分だったけど、マハシュの言葉に、私もミーナも再びテンションが下がっていった。


 とうとう馬車が止まり、回りがガヤガヤし始めた。どうやら目的に着いたらしい。外から鍵の外す音に次いで扉が開けられた。迎えに来た中隊長より、もっと偉そうな、軍服に勲章をいっぱいぶら下げた男性が立っている。そして、彼の瞳孔も縦長だった。


「大公子がお待ちだ。ついて来い」


 マハシュが先に降り、ミーナと私が降りるために手を貸してくれた。地面に降り立ち、痛むおしりや腰を伸ばしていると、早く来い!と怒鳴られた。いや、ちょっと待ってよ、こっちは予定外の長旅で疲れてるんだからね!


 私もミーナも、口にこそ出さなかったけど、心底、グランパルス公国が嫌いになった。以前聞いた王妃様の話だと、グランパルス公国は寒いけど牧歌的な国で朴訥な人柄が良いとか言ってたのになぁ。いつから変わっちゃったんだろう。


 また一つ、答えのない疑問が浮かぶ。不完全燃焼のままお城と思しき石造りの建物に一歩、足を踏み出した途端、眩しくて思わず、目を閉じてしまった。


 そう、お城の中も駅舎同様、キンキラキンだった。しかも、駅舎では薄暗くて分からなかったけど、電灯の明かりで廊下から壁、天井までいたるところがギラギラ反射している。


「シーラ様、よく見たら金箔じゃなくて、金色のペンキですよ」

「そのようね。しかも、スプレーで塗料を吹き付けたというより刷毛で塗った感じ」


 元々は、恐らく違った色だったのだと思う。けれど、今は全てが金色に塗り直されたようだった。もしかして、城中、金色のペンキで塗ったのだろうか?いや、まさかね。いくら何でも趣味悪過ぎるよね?


「多分、駅舎もペンキだったんですよ。てっきり金箔かと思ったのに、ケッ……!」

「ああっ!でも、全部キラキラしてて綺麗ねぇ!流石、グランパルス公国だわっ!」


 ケチと文句を言いかけたミーナの目は、正気ですか?と物語っていた。いや、本気じゃないから!お世辞だから!……だって、長い廊下には、私たちと先導するお偉いさん以外、誰もいないのでめっちゃ声が響くし、たった今、お偉いさんが振り向いたのだよ。悪口言っているのがバレたらマズいだろうが!


 そっと目で合図すると、ミーナも分かったようである。


「これ、幾らぐらいするんですかねぇ。すっごい、お金かかってそう!」

「駅舎もキラキラしてて綺麗だったものね」

「……ふん、ただの悪趣味だ」


 うわ、マハシュ!そこで、私たちの努力をズバッと切り捨てないでよ!ドラゴンって、KYで困るわぁ。でも、お偉いさんでもマハシュに意見は言えないみたい。苦虫を噛み潰したみたいな顔をしたけど、結局、無言のまま先を進み、警備兵の立つ扉の前で止まった。


「マハシュ様がお見えになられた!」


 お偉いさんの一言で、内側から扉が開かれる。ギイッと重々しい音がして、室内からキンキラキンの光が溢れた。ええ、想像通り、謁見室と思しき広間も金色ペンキが塗られていた。そして、天井から吊り下げられた豪華なシャンデリアの光によって、今まで以上にギラギラと反射していた。


 うう、目が痛いよぉ。


 目をすがめながら室内へと入る。促されるまま、部屋の中央、やや前よりに立たされる。マハシュは、ふんぞり返っている。私は、というと、一応、剣を持っている正騎士のコスプレなので跪かなくても良いと判断し、首を垂れるだけにした。ミーナは、私の侍女という触れ込みなので、私の背後で跪いている。


「面をあげよ」


 男性の声がして、顔を上げると、玉座と思しき立派な椅子に、黄金の髪に黄金の瞳、衣装も全身キンキラキンの男性が座っていた。


「えっ?!……竜王様?」


 ミーナが思わず口走ると、キンキラキンの男性の横に立っていた侍従が叱責した。


「無礼であるぞ!ここにおわす御方は、我が国の大公子ダヤット様である!」

「「ええ~~~っ!!」」


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