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私、乙女ゲームのモブですから、好きに生きていいですよね?!  作者: 春香奏多
A面 ~ルーファリスの災難~
22/68

脱出しました。

流血があります。ちょっとだけ。誤字直しました。内容に変更はありません。

 ガタゴトと不規則な揺れを感じて目を覚ましたが、体が自由に動かない。どうやら馬車の中らしく、幌の隙間から差す陽光を頼りに辺りを見回すと、すぐ隣に、後ろ手に縛られて体育座りをしているミーナの姿があった。目を凝らすと、足も縛られているようだ。


 恐らく、自分も同じように縛られているんだろう、足首と手首がきつく縄で縛られていてビクともしない。少しでも緩まないかと手をこすってみたが、僅かに緩んだだけで、寧ろ、荒縄がこすれて痛むだけだったので諦めた。


 気絶させられた後のことだから確実ではないが、犯人たちは、スライムの核に気付かなかったハズ。とすれば、食堂で緊急事態が発生したと気付き、食事に薬が混入されたと当たりをつけるハズ、多分。じゃなかったら、イラジャール様、世界一の称号はなしだからな!


 なんて、愚にもつかないことを考えていると、呻き声がして、ミーナが目を覚ました。暫く、辺りを見回していたが、私に視線を止めると、怪訝そうに眉を顰める。


「貴女、誰?私と同じ黒髪黒目で、どういうつもりっ?!私と一緒にいたアニはどこなのっ!!」


 咄嗟にミーナの言葉が理解できなかったが、思い出した。アニの姿は学園内限定だった。黒髪黒目というとルーファリスになっているわけで、おまけに馬車は学園の外を走っているらしい。


「(うう、あー……)」


 ヤバい、声も出なくなってるよ!読唇術、分かるかな?と思い、ミーナの傍にずりずりと近寄っていく。


「なっ、なによっ!近づかないでよっ!」


 読唇術を覚えてもらうには、こちらの唇を注目してもらう必要がある。とはいえ、手が使えないし。ええい、ままよ。とばかり、ミーナの唇に自分の唇を押し当ててみた。ちゅっとリップ音が響く。


「(私の唇を見て?ゆっくり動かすから、何を言っているか分かるでしょ?)」


 女同士のキスが初めてなのか、眼球が飛び出しそうなほど見開いた眼で唇を凝視している。こほん、と咳払いして、もう一度、理解できるか尋ねると、機械人形のように首を縦に振った。


 よし。っていうか、私だって女同士のキスは初めてだよ……今世では。前世では攻略対象者のコスプレしつつ、ファンサービスで女の子たちにキスしてたけどね。はははは、忘れたい黒歴史だ。


「(私は、ルー。連れ去られる貴女たちを助けようとして掴まってしまったの。でも、安心して?貴女と一緒にいたアニ、とかいう女性は助けたから。きっと今頃、先生方に知らせている頃だわ)」

「そうなの。良かった!……それで、貴女は何故、黒髪と黒目なの?それに、これ見よがしにデカパイを強調する小さい制服を着てイヤラシイっ!そもそも何年生なの?っていうか、本当に学生なのっ?!」


 追及が激しいな~。しかし、制服が小さいというのは同意する。アニは発展途上の14歳で、ルーファリスは熟女ともいえる21歳だからな。胸を張ったら間違いなく制服のボタンが弾け飛ぶだろう。そして、仰る通り学生でもない。けど、正直に言ったらパニック起こすよね、うん。問題児のミーナは、パニクッたら何をするか全然読めないから危険だし。


「(私は文官養成クラスの最上級生。元々は茶色の髪だったんだけど、どうしたのかしら?気絶させられて目を覚ましたら黒色に変わっていたの。何か変な薬でも使われたのかしら?)」

「薬?そうか、もしかしたら、魔獣化しているのかも!」


 いやいや、そんなことないし!と思ったが、ミーナは信じたみたいでじりじりと後退していく。思ったより薄情な奴だ。問題児だって分かってたけどさ~。


「ま、魔獣化って、私、死んじゃうのっ?!」


 最上級生なんだから去年の騒動を知っていたとしてもおかしくない。ぶるぶる震えて涙を浮かべてみせると、ミーナも我に返ったのか、落ち着いて!と声をかけてきた。


「もしかした違うかもしれないし、魔獣化っていっても具体的にどんな症状が出るのか分からないし、色が違うだけなら心配しなくても良いかも……」


 後半は、自分に言い聞かせるかのように呟くミーナだった。まあ、とりあえず、私が学園の生徒だと信じて貰えたらしい。後は、一刻も早く馬車から脱出しないと。犯人たちに私の色が変わっているとバレたら誤魔化せないもんね。


「(よっと……ぐわっ!)」ぶちぶちっ!


 突然だが、前世からの特技の1つに、体が異常に柔らかいというのがある。手を組んだまま縄跳びのように体を一周できるのだ。え、分かりにくい?つまり、後ろで手を縛られたまま肩の関節をぐりっと捻ると、腕が胸の前に来るって訳だ。


 久しぶりにやってみたが、成功した。但し、制服のボタンが弾け飛び、胸の谷間が丸見えだったりする。しかも、縄が手首に食い込んで皮膚がこすれ、出血しているし!痛みで涙目になりながらミーナを伺うと、正に魔獣になったと言わんばかりに慄いている。いや、魔獣じゃないから。人間だから。


「(私の特技に関節技がありますの。魔獣化した訳じゃないから安心なさって?)」

「ああ、そうなの。驚いたわ。腕がぐにょって……う、気持ち悪っ!」


 なんか、ムカついてきた。誰のために、こんな苦労してんだよっ!とりあえず、膝立ちになり、何かないかと馬車に積まれている荷物を漁った。すると、麻袋の中から沢山の魔石が出て来た。材料を仕入れた所なのか?しかし、色とりどりの魔石があるからには、スライムもトカゲも何もかも一緒くたに入れているらしい。ずぼらだな~。


 とりあえず、大きめの魔石を取って馬車の固い所にぶつけ、半分に割った。その尖った部分を縄に擦りつけ、先ずは自分の足の縄を切り、次いでミーナの足と手の縄を切った。


「やった!自由だわ!次は貴女の手の縄を切って……って、貴女、手がっ!!」


 言われるまでもなく、自分の手だから痛いほど分かる。実際、ものすごく痛いけれど。


「この魔石、赤トビトカゲだったみたい」


 赤トビトカゲは、吸血トカゲだ。つまり、私の手首から滴り落ちた血を糧に復活した。辛うじてミーナの縄を切るまで魔石のままだったけれど、今は私の手首に噛み付き、吸血している。くそっ、食い込んだ牙が地味に痛い。


 そして、間の悪いことに馬車が止まった。ミーナの叫びを聞いたのか、それとも目的地に到着したのか、いずれにしても男たちが荷台に近づいているのは間違いない。


「(ミーナ、赤トビトカゲの尻尾を掴んで!犯人が幌を上げて荷台を覗いたら、奴らにぶん投げるのよ!)」

「む、無理よっ、トカゲなんて触ったことないし、噛まれたら……」


 実際に噛まれている私を前に言うセリフじゃないと思ったのだろう。途中で口を噤んだ。


「(大丈夫よ、今はお腹いっぱいだから動きも鈍くなってる。だから、お願い。ほら、今よっ!)」

「うぎゃあああああっ!」


 私の合図とともに、ミーナは赤トビトカゲの尻尾を掴んで思いっきり男の顔面に叩きつけた。犯人が怯んだ隙に、私は血まみれの手を魔石の袋に突っ込み、片っ端から魔石に血を塗りたくる。


「(トカゲじゃ奴らは倒せない。何か、何か、奴らがビビるような魔獣、血を吸って復活する魔獣はいないかっ!)」


 背後で、ミーナが叫ぶ。どうやら男たちに掴まったらしい。次は私の番だ。


「(早く、早くっ!お願いっ!ここがゲームの世界だったら……マハシュッ!)」

「おいっ!テメェ、その袋から手を放せっ!」


 私の肩が掴まれ、グイっと後ろに引かれた瞬間、白い閃光が迸った。本日、二度目のブラックアウトに、痛みと緊張で疲れ果て、私の軟弱な意識は簡単に仕事を放棄した。





 ぴちょん。


 やけに響く水滴の音に、ばちっと目が覚めた。むう、薄暗い。夜なのか?というか、ここどこ?


 なんか壁が岩だし、窓がない。薄暗いのは、床にヒカリゴケが光っているかららしい。自分が寝ていたふかふかのベッドから室内を見渡すと、クローゼットや鏡台などシンプルだけど手の込んだ彫刻が施され、如何にも高級家具って感じ。普通なら、どこかのお屋敷を想像するけれど、岩ってことは、洞窟?


 え、洞窟?!


 寝起きでぼわ~っとしていた頭が一気に覚醒した。そうだ、ミーナと一緒に男たちに拉致されたんだったっけ。ということは、ここは犯人のアジト?でも、体は拘束されていない。


 ふと、自分の姿を見下ろすと、いつの間にかバスローブに着替えさせられている。え、貞操の危機?!と思ったけど、特に痛みや乱暴されたと思しき痣もない。そういえば、赤トビトカゲに手首を噛まれたけど、傷が塞がっている。痕すら残っていない。


 むむむむ、いったい寝ている間に何が起こったのか?兎に角、部屋から出て、現在地を確認しなきゃ!


 1つしかないドアに向かい、取っ手に手を伸ばした時、外からドアが押し開けられ、見事に私の顔面へヒットした。


「ぐぎゃっ!」

「え、あっ!大丈夫っ?!」


 痛む鼻を手で押さえながらドアを見ると、ミーナが入ってくるところだった。


「ミーナッ!だ、じょぶ、だったっ?!ゴホッ!ここ、どこ……あれ、私、話せる?!」

「そうなのっ!怪我は、ぜ~んぶブラックドラゴン様が治して下さったのよ!しかも、すっごいカッコイイのっ!」


 え、ブラックドラゴンって、確か、めっちゃ人嫌いで、気難しいドラゴンじゃなかったっけ?!ってか、何でブラックドラゴン?!


 私の頭に、クエスチョンマークが乱れ飛んでいると、ドアの方からくすくす笑う声が聞こえた。見ると、床につきそうなくらい長いストレートの黒髪を揺らしながら、人間離れした完璧な美形が戸口にもたれかかって微笑んでいた。


「……マハシュ?!……って、ぐぅはっ!」

「シーラッ!会いたかったっ!……もう痛いとこ、ないか?ああ、ここ、怪我してる!」

「うひ、やめれ~っ!」


 マハシュは、ゲームの中で契約していたブラックドラゴンだった。馬車の中で、確かにマハシュを呼んだけれど、本当にいるとは思わなかったし、ましてこの世界では契約していないのに来てくれるとは。


 そして、マハシュはブラックドラゴンらしく、高い治癒能力を持っている。但し、その治療の仕方が患部を舐めて癒すというもの。そう、先ほどドアにぶつけた鼻を絶賛舐められ中である。ちらっとミーナを見ると、顔を赤くして眺めている。


 確かに、端から見るとマハシュが私の顔を舐めている姿はエロいかもしれない。しかし、舐められている方は大型犬にべろべろされている感覚なのだ。涎、凄いし。


「もう治った!痛くない!大丈夫!」

「そう、良かったっ!改めて、シーラッ!会いたかったっ!」

「ぐえっ!」


 マハシュは、舐めるのを止め、盛大に抱き付いてきた。今度は巨大熊に抱き付かれている感じ?マジで圧死するがなっ!ゲームの中なら剣を抜いて切りかかる処だが、今は何も武器がない。くそおっ、あ、空気が薄く……くたりと力が抜けて凭れ掛かると、マハシュは慌てて抱擁を解き、抱き留めた。ふう。


「だからね!私は人間なんだから、あんたが力いっぱい抱き付くと死んじゃうの!分かった?!」

「ワカッタ、ワカッタ」


 いや、絶対バカにしているよね。もうっ!ふと視線を感じて目を向けると、ミーナが胸の前で手を組み、うっとりとした表情を浮かべている。


「やっぱり貴女は『彼の御方』だったんですね!」

「い、いや、多分、違うと……」

「またまた~っ!彼の御方のアバターが『黒の美女戦士シーラ』だって言うのは有名な話ですよ!それに、シーラの契約したブラックドラゴン様とのツーショット!竜王様も良いと思ったけど、黒と黒!ブラックドラゴン様も良いわ~!ああんっ、もう眼福ですぅ!」


 後半は自分に言い聞かせるように小さく呟き、うっとりしているミーナには悪いが、私とマハシュの間には契約関係しかない。一部、マニアックなプレイヤーは契約した魔獣と恋仲になっていたけれど、私はシャヒール公爵様オシだったし、シャヒール様の為に一通り恋愛ゲームをして、もうお腹いっぱいという感じだった。


 寧ろ、戦闘の方に興味が傾いていたので、正騎士シーラはマハシュとタッグを組み、ばすばす戦っていた。まあ、それでもっと自分の能力を高めたくて準騎士トバリを作ったんだけどね。


「それにしても、あの後、どうなったの?閃光……は、マハシュが瞬間移動した光だよね。犯人たちはどうなったの?」

「もうビックリしましたよ!突然、ブラックドラゴン様が現れて、あっという間に男たちを倒してしまったんです!」


 マハシュは、どや顔でこちらを見つめている。よしよし、良くやった。大型犬よろしくわしわし頭を撫でてやると、見えない尻尾がばさばさ振られているのが見えた。


「マハシュ、男たちは殺しちゃったの?」

「何故、気にかける?シーラを傷つけたヤツらを庇うのか?」

「違うでしょ、犯人たちを一網打尽にするために仲間とかアジトとか白状させなきゃ。いつも言ってるでしょ~。皆殺しにしたらお宝が貰えないって」


 喉の辺りをがしがし擦ってやると、嬉しそうにくんくん鼻を鳴らす。あ、ミーナの顔が段々、引きつってきたぞ。


「勿論、半殺し程度にとどめておいたぞ、褒めろ」

「あーよしよし。ミーナ、それからどうしたの?置いてきた奴らが犯人だってメモか何か残した?」


 事件に気付いたイラジャール様たちが追いかけて来ると仮定して、馬車と男たちの関連が分からなければ捕まえようがない。本来なら、ミーナが残った方が良かったんじゃないかな、と思うけど。問題児だから予想外の行動をとるのはしょうがない。


「ええと、メモは残してないです。そもそも、犯人をやっつけた後、ブラックドラゴン様が、いきなりシーラさんを掴んで飛び立ったので置いてかれまいと、私もドラゴン様の足にしがみつくのがやっとでした!」

「そっか。いきなりブラックドラゴンが現れて私を拉致したんだもんね。心配するよね」

「まあ、それもありましたけど、私、ドラゴンが好きなのに全然近づいてくれなくて……目の前まで来てくれたの初めてだったんです!もう、興奮しちゃって!絶対に離すまいと頑張りました!」


 えへん、とミーナが胸を張っている。やっぱり問題児だな。うん。


「つまり、男たちは野放しってことかな?」

「あ、でも男たちの足をリザンの剣で刺し、道具屋の足に突き立てておきました!解毒するまで痺れて逃げられませんよ」


 風紀委員に没収された以外にもリザンの剣を持っていたのか。しかも肌身離さず身に着けてるって、どんだけリザンの剣が好きなのか?ってか、ドラゴン好き?


 ふと、ミーナの視線を辿ると、ドラゴンらぶらぶ光線がマハシュに向けられている。当のマハシュは、完全スルー。まあ、人の趣向はそれぞれだよね。見なかったことにしよう。うん。


「それに、馬車からシーラの血を吸って復活した魔獣が溢れていたぞ。まあ、誰が見ても、真っ当な商人とは思わないだろうな」


 私に抱き付きながら話すマハシュの言葉に、そういえば……と自分の行為を思い出した。緊急事態だったとはいえ、魔獣を復活させたのはヤバかったかなぁと反省。うむ、ミーナのみならず私も問題児だったよ。はははは。



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