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革命

 お前の陰謀から藤原家を守ると息巻く伊尹の言葉を、俺は静かに聞いていた。


 ふざけている。伊尹は話の繋がりに矛盾が生じている事に気付いていない。


 俺の行動から頼忠の言うことを信じるようになったのだろうが、頼忠の全てが正しいわけではない。いつの間にか口車に乗せられて九条を潰そうとしていることに荷担している。





「もうやめましょう。争いを起こすことは国を滅ぼすことになります」


 そもそもの根本は、藤原家が互いに足の取り合いをしている事なんだ。

 いつの時代も反対勢力は、何をするでもなくいちゃもんを付けるしかしない。


 それでは政治が疎かになってしまう。歌の揚げ足を取り、政策の損を声高に訴え、やれることも滞ってしまう。


「伊尹様は現在の行動を客観的にみて、ご自身が九条を潰そうとしていることにお気付きですか?」


「潰しているのではない。これは再生に必要な事なのだ。こいつら2人に任せる方が家の存続が危ぶまれる」


「誰が得するかに気付いてください。このままでは九条は消えて小野宮流を持ち上げるだけです」


「そこに私が……」


「入れてもらえないでしょう」


「何?」


「伊尹様は頼忠様に利用されているだけです。兄弟親戚で争いの耐えない中で政敵の長兄を匿う人などいるのでしょうか」


「しかし……」


「九条流は藤原家の政争を治める可能性を秘めているのです。短い間ですが、兼家様と接してこれたことで私は確信しています」





 最初は兼家を国のトップになどと考えていたが、俺も争いの波に飲まれていた。

 もし上手く兼家を昇進させたとしても、その後の息子達によって結局戦禍に引き摺り込まれていくだろう。


「兄弟で話し合う機会が無かっただけで、兼家様は伊尹様を慕っていると思いました。それに気づかなかっただけではないのでしょうか」


 兼家を見る。


「はい。兼通兄より先ん出ようと躍起になっておりましたが、伊尹兄の昇進は私も願っていたことです」


「何だと兼家!」


「兼通様、あなたも伊尹様の事は慕われている筈です」


 兼家に反発をしているが、伊尹の言うことは聞いてるのだ。

 兼通を見やる。


「う、うむ。そうだが……」


「そもそもの争いは話し合う機会を奪われて、互いに欲を満たそうとしているから起こっているのです。兼通様と兼家様も折り合いが付けば和解できる筈です」


「いや、俺は兼家の下に甘んじることは断じて許さんぞ」


「ならば位に意味を持たなくさせればいいではないですか」


「何?」


 俺は戦火を消す案を提唱する。





「争いの原因になる物を潰していけばいいのですよ。位の優劣で競っているなら位に意味を作らなければいい。家長である九条だからこそできることなのです」


「しかし、では他の家はどうなる? 遥晃の言うことは絵空事に過ぎん」


 伊尹から指摘が入る。


「他の家が何を求めているかを知れば対策できます。金が欲しいなら与え、発言力が欲しいなら聞いてあげる。皆の欲が増幅して事が大きくなっているのです。いがみ合うことが無くなれば議も円滑に進むし、他人の目に辟易することも無くなります」


「遥晃は何を望んでいるのだ? 藤原をまとめて何を企んでいる?」


「私は民の幸せを願っています。藤原家が上で争うことで、民は苦しんでいます。争いの根元を絶ち、民を豊かにしたいのです」


 不毛な争いを続けているせいで国は一向に良くならない。伊尹も周りを思いやれる人間だ。政治が上手く回るようになれば国は豊かになる。





「わ、私も遥晃の話に賛同します。久しく忘れていましたが、兼通兄と競いたくない。幼き頃に2人で誓った、国を豊かにする夢を追いたいです」


 兼家が聞いてくれる。


「それは上手くいくのか?」


「兼通様次第です」


「むぅ……」


 渋々だが、兼通も従ってくれた。


「私は、何をしていたのだろうか」


 伊尹が呟く。


「いくらでも挽回できます。伊尹様の技量はこの国に必要な物ですから」


「争いを無くす、か。弟2人さえ私には手がつけられなかったのだ。遥晃、お前に出来るというなら任せてもいいのか?」


「はい」


 3人が和解した。今は表面上だけだろうが、上手くいくようになればきっと手を取り合うようになるだろう。

 兼通も、きっと無くてはならない存在だ。いがみ合ってた兄弟は

 一応の収まりを見せた。





「この話は解決した事でいいのだな。では、こいつの沙汰に付いて聞かせてもらおうか」


 兼通が道秦を指差し、わなわなと震える。あ、忘れてた。殺しの呪では無く、後から調べたら家盛祈願の類いだったと誤魔化してなんとかやり過ごしたた。




 *  *  *


「頼忠」


「ああ、伊尹。上手くいった……な、お前達!」


「お前の策は遥晃に見破られていたようだ」


 皆で頼忠に会う。肥えた、いかにもお坊っちゃまな人物だった。


「ひっ、いや、あれは違うんだ!」


「お前を咎めに来たのではない。遥晃の策にお前も噛んでもらおうと思ってな」


 伊尹が説明してくれる。訝しんではいたが、今より地位の上がることに食い付く。

 頼忠も話に乗ってくれた。



 *  *  *


 植樹は橘を植えることに満場一致で決まった。内裏では藤原一同が閲覧している。

 いずれ、このような些細なことでも争っていた事を笑える日が来るといい。

 今日が藤原家が1つになった記念すべき日。そうなることを願って内裏に思いを寄せた。




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