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問題

 暗くなる前に食事を摂る。


 これもまた懸念の種だ。食卓に出された物にため息が出そうになる。しかし、梨花さんが作ってくれたもの。失望の態度を見せるのは失礼だ。


 食事は、インコの餌みたいな小さい豆とか、麦、玄米を混ぜたお粥。インコの餌が大部分。


 そこにアク抜きのされていない山菜のお浸し。山菜というか、そこらの雑草だな。

 そして味気の無い汁物。塩と酒粕が少し。


 塩と酒粕はそのまま舐めたり、お粥に付けたりして食べる。




 たまに買ってきた魚の干物が食卓に上がることがあるが、量は少ない。




 給料は米の現物支給。1日働くと体感で6キロくらいの米が貰える。

 しかし、全てを食事には回せない。週休2.5日で考えると現代の1週間で約30キロの米が手に入る。


 食事用にすると1週間、米だけではもたないので、安いヒエ、アワ、麦と物々交換をする。6キロの米で12キロくらいの雑穀になる。これと少しの玄米で4人の主食を賄う。


 3日に1回のお風呂、塩、酒粕、たまの干物で15キロが飛ぶ。

 あと残ったものをコツコツ貯めていくんだけど、都度必要になる生活用品と、冬場の薪、冬に食べる保存食、ここの家賃とも言える税金に充てると蓄えというのは到底出来ない。


 着るものだったり鍬だったりは年に2回支給される。ボーナスだね。

 それで衣を賄っているんだけど。


 強制的宵越しの銭は持たねえ生活になっている。


 そして食事も味気ない。というかはっきり言うと不味い。

 白米が恋しくなる。鳥の餌をふやかしたものに、エグい草、味の無いお湯。

 むりくり粥で腹を膨らませてる状態。




 これもお金が無いと改善できない。


 調味料も作れない。



 もっと問題なのは栄養バランスの偏りだ。取り敢えず食べれるものを詰め込んで腹を膨らませてるが、タンパク質が足りない。日本人の味方、畑のお肉、大豆が食卓に上がらないのだ。

 大豆はこの時代に無いのか聞いたら一応あるらしい。


 が、高級品で貴族しか口に出来ないとのこと。




 まさかの高級品ですよ。

 まだ栽培が普及してないのかな。味噌も醤油も出来ないだろう。

 今、季節は春らしくてこれから暫くは野草を食べれるけど、冬場は殆ど保存食。といってもどれも塩漬け。塩分過多。

 この時代、栄養学なんて無いからちゃんと食べてるのに栄養失調とか、免疫落ちて病気になりやすいとか理解出来ないんだろうな。

 そら小さい子供簡単に死にますよ。


 で、うちの子は吉平君4歳と吉昌君3歳。正に危険な状況。病気にかかればすぐに衰弱してしまう。


 風呂に入ってるとは言え、垢を落としてるだけ。トイレも野糞放置、死体も放置の劣悪な状況で栄養も満足に摂れない。


 現代の視点だとよくここまで持ったなあという状況だ。




 これらを改善したいのに、今の状況で限界。仕事も、もし覚えられなければすぐ首が飛ぶだろう。


 来て早々、問題はいくつも見つかるのに解決策が出てこない。

 ――頭が痛くなってくる。




「ねぇ、梨花さん。俺ってどんな人だったの?」


「え?遥晃様は遥晃様でしたよ?」


 食事を終え、暗くなる。布団に入ってふと聞いてみた。


「記憶が戻らないんだ。どんな人だったのか知りたい。梨花さんと出会ったときってどうだったの?」


「えーと……ふふふっ」


 梨花さんは出会った頃を思い出そうと上を向き、過去の出会いを恥ずかしがるようににまにましながら足をばたつかせた。


 可愛い……


「うちは粗末な家だったんです。両親と3人で酷い生活をして、私も一緒になって父の働く畑を手伝ってました。

 そしたら遥晃さん、きゃーー! 言わなきゃいけないですか?えーっと、ふふっ、ずっと見初めてたって。妻になってくれって。粗末な家なのに、行き遅れのおばさんなのに私をめとってくれました。うちの両親も生前感謝してましたよ。すごい嬉しかったです。貴族のご子息様に嫁げるなんて夢のようでした。」


 おばさんとか……けど適齢期が15歳とかに比べると行き遅れの域になるのだろうか。こんなにかわいければ関係無いけどね。

この時代、女の人の家に3日通うと結婚成立らしい。夜這いなんだけど、両親も男が来てることは気付いてて、いい家の男が来たら逃がさないように両親もあのてこの手を使って男を逃がさないようにするらしい。

 でも、遥晃さんは親に挨拶をし、正式に結婚を申し込み、親とも関係は良好。まだ父さんが失脚する前でお金もあり、梨花さんの親にも仕送りをしていたらしい。


「今の生活になって不満とかないの?」


貴族に嫁げたと思ったのにこの惨状。可哀想だ。


「結婚する前はもっと酷かったんですよ。今の生活は満足しています。何より遥晃様とこうして一緒にいれることが私には最高の幸せですよ」


 くぅ……!


 こんなことを言われてむせび泣いた。嬉しい! 萌える! ……のに!

 この世界に来て一番の問題に直面する。





 こんなに可愛い子と一緒に寝れるのに、相手も自分を好きでいてくれるのに……

 一緒にお風呂に入っても反応しなかった。遥晃の執念か、この生活のストレスか。俺は自己の持つ最長童貞記録を日々更新しなきゃならなかった。


 頭がいたい……



朝起きると絶望が待っていた。

 


……最悪だ。

 明後日は仕事だというのに……

 




 風邪を引いたらしい。



 頭が痛い……







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