糾弾
後ろ手に縛られ、猿轡をはめられる。
兼家の屋敷よりも一際大きな邸宅の広間に通され、屈強な男に押さえ付けられている。
現代の知識を利用して、内政を進めれると勘違いしていた。
この時代の人には理解されなくても、成果さえ上げれば讃えられ、国は豊かになると思っていた。
大舎人ごときが都を私有地にするだなんて言い出したら、こうなって当たり前だ。
今見捨ててると言っても国の領地を掠め取ろうとしてるように見えるだろう。
「遥晃様! 兼通兄、これは余りにも酷い対応ではないですか」
兼家の声が聞こえ、思わず顔を上げる。
見知った顔がふたつ。兼家と、伊尹が見える。後は同年代の似た顔が1人と、壮年の人が3人……
「おい! 何顔を上げている!」
押さえている男に顔を叩きつけられる。
ぐっ、床に額を強く打ち、軽い目眩がした。
兼家に近い歳の男。蔑むように俺を見ていたのが兼通だろう。
兼家の言ってることを読み取ると、ここに連れてきたのは兼通か?
「大舎人ごときに敬った態度を取る。尻尾を出したな兼家」
頭の先で舌戦が始まった。
「兼家、この大舎人を祭り上げ俺達を出し抜こうとしたのか」
「そんなことありません! この者は荒廃した右京を復興しようと策を出してきただけです!」
「ふむ、兼家は関係の無いことか。では一連の事はこの大舎人が仕組んだことだと言うのだな」
兼通、らしき人と兼家が言い合っている。
一連ってどういうことだよ。トイレの穴を掘ることすら許されなかったと言うことなのか?
「先の天変と賊の襲撃、病の発症はこやつが都を乗っ取る布石だったと言うことか」
え? その頃から目を付けられていたの?
「天変も預言であり、動かした訳ではありません。病も事前に察知し、都を周り処置を施していました。現に罹患も抑え、死者も少なかったではないですか」
兼家が代弁してくれる。猿轡を付けられているから、俺は喋ることはできない。
それ以前にこの人達に申し立てをできない身分。言われるがままに判決を下される状況だ。
弁護人兼家に全てを委ねるしか無い。兼家は俺を匿ってくれている。彼の弁だけが頼りだ。
「前にも言っただろう。預言が出来るというなら、なぜ賊を野放しにして都を燃やした? 病が起きてから動くのも不自然だ。それほどの力を持つというなら事が起こる前に動けるではないか」
兼通は捲し立ててくる。冤罪だ。術師の力量が分からないのをいいことに都合よく解釈をしている。
「いや、こいつが術を使えると仮定しよう。そうすると全ての辻褄が合う。
何か術を見せお前の所に転がり込んだ。そして天を動かし存在を見せつける。そして賊と病をけしかけ右京を燃やした」
暴論だ。聞き齧った話を自分の都合のいいように並べているだけだ。
「そんな。遥晃様がそのような事を……」
「今回の話で全て納得が行くだろう。どこをどう考えたら右京を開墾するという話になる。都を手中に治めたいがために策を労してきたのだ。間抜けな兼家は騙せても俺には通用しない」
くっ。行き当たりで考えてしまったせいで兼通に付け入る隙を与えてしまったのか。そもそも、超子は金属アレルギーで……いや、こいつは兼家の家に呪いをかけていた筈だ。
保憲が言っていた。
きっと兼家を蹴落とす為に俺をだしに使いたいんだ。
ここで呪いの事を打ち明ければ。都では他人を呪うことは法律で禁止されている。
それを指摘できれば打開できるかも知れない。
猿轡を外そうと試みる。しっかり食い込んでいて外せない。
噛み切ろうとしても上手くいかない。なんとかしなければ。
「……この者は右京を良くしようと動いているのです。朝廷にも放棄された土地を変えようと。このままではいずれ病が起きると言っているのです」
「……では何故今なのだ?」
「はい?」
「この大舎人は40程の齢であろう。都に仕えて10余年は経っている筈だ。何故今まで何もしてこなかった?」
「……」
兼家が押し黙る。
「右京が廃れているなど物心付く頃には分かっている事ではないか。それを今になってやろうとしている。おかしいとは思わんか」
猿轡は外れない。
「妙な力を手に入れ、都を乗っ取ろうとしたのだろう。先ずは空いている右京を手中に治め、いずれ都を奪うつもりなのだ。目を覚ませ兼家。いつまでも悪事に加担するな」
「……」
兼家は言い返せない。
完全に堕ちてしまった。
52部 貴族
53部 穴堀
遥晃の行動を一部修正いたしました




