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貴族

 春華門に朱塗りの牛舎を停め、内裏へと向かう。門番に気さくに挨拶を済ませ、天皇に会いに行く。

 流石は政治に精力的な村上天皇。朝も早いというのに既に議場に着いていた。


「お帝、おはようございます」


「あぁ! 遥晃! 誰よりも早くここに来るとは」


「いえ、お帝こそ既におわしなさっていますよ」


「遥晃、お主に補佐を頼んでより、都に限らず国中が豊かになっておる。心から礼を言うぞ」


「いえいえ。それより、本日も近隣の郡へ出張したいのですがよろしいですか」


「もちろんである。遥晃の行く先は、たちどころに発展しておる。朕も嬉しい限りだ」


「それでは、来て早々申し訳御座いませんがまからせて頂きます」


 村上天皇と軽い話を済ませたら、きびすを返した。




 関白に就任してどれだけ経ったか。この時代では考えられない技術を広め、農業は生産性を高めている。

 国民が豊かになれば、国が豊かになる。精力的に地方を回った。


 都から程なく離れた集落に着く。秀吉ばりの改革を進めていきますか。

 颯爽と牛車から飛び降りる。


「刀狩りは順調か?」


 刀狩り。農民から武器を取り上げ、農業に従事させる。取り上げた分農具を与え、生産性をあげてもらう。測量も済ませ、年貢も安定して出せるようにし、国も民も十分な収入を……


「はぁ? 刀狩りってなんだよ」


 声をかけた役人に返される。えっ? なんで高圧的なの?


「いや、農民に農業を従事させるから刀とか要らないと思って……。一揆とかも減るし……」


「そったらもん持ってる訳ねーべ」


 振り返ると農民達に囲まれている。


「そんな大層なもん持てるわけねーべし」


「太閤様の行った穴堀りのせいで田植え間に合わなかっただ!」


「いつまで経ってもお前の言ったことやらされてたらおら達食っていけねーべ! どうしてくれんだ!」


「え? あっ、ちょっ、ちょっと」


 周りの人間に蔑まれた顔をされ迫られる。

 あれ? なにこれ。そ、そういえばなんで俺関白になってるんだ?


「父ちゃんダサい」


「はるさんは何がしたかったんでしょうね」


 牛車の方から家族の侮蔑が見られる。え? なんでいるの?


「遥晃、見損なったぞ」


 帝! なぜここに!


「遥晃は政治の足を引っ張ってばかりですね。ホホホ」


 どこからか現れた貴族が貶めてくる。止めて、なんだこの状況。


「もう、はるさんの好きにさせておきましょう。車を出してください」


 俺を残して牛車が去っていく。


「あ! 待って! 置いてかないで!」




 *  *  *


「……待って!」


 布団から体を起こし、叫ぶ。まだ日は昇っていなかった。


「……夢かよ」


 気分の悪い寝覚めだった。それでも、夢であったことに一抹の安堵を覚える。



 *  *  *


 兼家から中納言になれると言われてから、変なプレッシャーを感じているのかもしれない。

 国を変えると言った手前、上手く行くか分からない。位を妬む人間が足を引っ張って来るかもしれない。


 1度蹴落とされるともう浮上することはできない……


 いや、苦しむ人を放置したらいけないんだ。それが広がって家族にまで危害が及ぶ。

 位を持つことが大事なんじゃない。政治に携わる事こそ必要なんだ。


 兼家に教えてもらって、なんとか改善しないと。

 兼家の屋敷に着き、部屋まで通される。そこにはかつて酒の席で会った伊尹も同席していた。





「以前同席させて頂いたときは無礼を働き申し訳ございませんでした!」


「よいよい。久しいの、遥晃。無礼講と言ったではないか。顔を上げねば何もできまい」


「はい、失礼致します! この度は中納言に推して頂き、嬉しく思います」


「……う、うむ」


「遥晃様、用意ができています。早速始めましょう」


 山積みの色紙から1枚を取り、兼家が催促をしてきた。





「兼家様、ご多忙の所ご助力頂き感謝致します」


「いえ、私もまだ修行の身ですから。まずは基本からですね。歌と言うのは五、七、五、七、七の31文字で構成されています」


 ……ん?


「先の五七五を上の句、七七を下の句と呼び、季節を表す言葉と共に短い言葉で風情をおさめ……」


「あ、あの……兼家様?」


 さらさらと色紙に筆を走らせながら説明を始めた兼家を遮る。


「……どうしました?」


「それは和歌ではございませんか? 私は政をお聞きしたかったのですが……」


「はい、これこそ重要な物ですよ。政をするためには必修しなければなりません」


 詩歌や管弦、蹴鞠等を覚えていかないといけないらしい。

 へまをすると、それが失脚の原因になるという。


「遥晃様、私達北家九条流は外戚の地位を得て安泰とも言えますが、長家は左大臣の小野宮流実頼(さねより)。その息子頼忠(よりただ)も政権を狙っております。大納言の時平流顕忠(あきただ)、中納言の魚名流在衡(ありひら)、小一条流の師伊もろただ。皆、虎視眈々と出方を伺っています」


 ……なるほど、わからん。


「詩歌で恥を晒してしまうと、それに付け込まれて位を剥奪されるやもしれません。武器もなくそこに飛び込むのはいささか危険すぎます」


 要するに、藤原家でごちゃごちゃ争っていると言うわけね。官位を売って政権を安定させようとしてるのに、結局派閥を作って足の引っ張り合いをしている。

 政治よりも、社交の場での振る舞いを重視しないといけないのか。





 ……いや、国を変えるためだ。折角掴んだこの機会は逃してはいけない。

大舎人が中納言に抜擢されるなんて本来あり得ない事なんだ。


「伊尹様、兼家様。推薦して頂きまことにありがとうございます」


 国を変えるって決めたんだ。椅子取りゲームでも何でも制してやる。


「それと、また動ける方を手配して頂きたいのですが」


 位の事は兼家達に委せよう。そして後は自分に出来ることを見つけていこう。


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