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懸念

 物置を開ける。整然としていた。いや、殆ど何も入っていない。何かしらがらくたは見えるが、埃と蜘蛛の巣が酷い。


「まずはここの掃除からか」


 独り言ちると長らく使われていなかったであろう蜘蛛の巣を剥がし始めた。




 うちに蓄えは殆ど、無い。そこに休みが加わり、働き始めも教えてもらいながらだ。バイトの試用期間と一緒で給金も半分が良いところだろう。無給の可能性もある。


 贅沢を一切せずにこの家庭状況だ。次の月には行き詰まってしまう。


 家族を持っている以上、都を捨て、山でサバイバル、なんていう冒険もできない。むしろ今の境遇はこの時代の中流階級なんだ。


 家もしっかりしているし、最低限の物も揃ってるし、食事も2食、しっかり摂れている。



  *  *  *


 陰陽師に占ってもらった次の日、都を散策した。

 都の外は森に囲まれている。オオカミが日本で絶滅するのは近代に入ってからだから多分この森には生息してるのだろう。熊も、狐も。


 肉食の動物が生息しているところでの生活は危険すぎる。まだ幼い子供が2人いるんだ。


 で、踵を返し都の中を見て回ったが、都の端はこれが都の中なのかと思うくらい酷い有り様だった。


 浮浪者の様ななりをして柱に屋根を付けただけのような粗末な家に住んでいる。


 そしてその辺りの道では餓死か、病死か。死体がいくつも転がっていた。


 当たり前の光景なんだろう。誰も興味を示していない。放置されている。


 そこに護衛を付けた住職がお経を唱えに来たり何やら絵を描いてたり。


 その住職に救いを求めるように浮浪者が集まるといった状態だった。そんな異様な光景がここの日常なのだろう。


この後400年以上この光景は続く。貧乏な家庭は竪穴住居でその日暮らし。貴族が雅な生活を送っている裏では飢饉で一番に犠牲になる人達がこうして生活している。


不衛生だし、疫病の温床にもなりかねない。


 ここで追い剥ぎにあったらひとたまりもない。


 俺はそそくさとその場を後にした。




 下を見てばっかりだといけないけど、それに比べれば恵まれてる。浮浪者たちの不健康そうな出で立ちからは食事もろくに摂れていない事は容易に想像できた。


 いや、恵まれてるとは言ったが占いの結果が良かったものの、仕事を辞めさせられここに堕ちる可能性もあった。


 アラフォーの無能と言うことを考えたらその蓋然性は高かったはずだ。



 取り敢えずは感謝。でも現状は最悪。見た目は裕福だけど借金大王。そんな状況だ。

 正宣一家は助けてくれるとは言ったがそう易々と金を借りることは出来ないし、一時的に凌げても、家計が回る形態を構築しないとすぐに駄目になる。


 簡単に頼ることはできない。今回を乗りきれても風邪をちょっとひくだけでアウトだ。


 他の懸念も踏まえ、何か使えそうなものがないか、売れるものはないかと思いこうして物置を覗いている。



  *  *  *


「あなた、そろそろ陽も傾いてきたし、お風呂に行きましょう?」


 蜘蛛の巣と格闘していると梨花さんがお風呂に誘ってきた。

 結局掃除をしてるだけで物置の詮索は終わってしまった。





 この世界に来て5日が経とうとしている。ある程度の生活は見えてきた。


 風呂はおよそ3日に1回に行くようだ。町の中に公衆の浴場がある。


 風呂と言っても銭湯じゃない。


「ほらお前たち、湯気が逃げるから早く入って。扉閉めるよ」


 温い程度のサウナだ。この時代には蒸し風呂と言うらしい。きゃっきゃと騒ぐ子供たちと一緒に中に入る。


 勿論混浴。梨花さんも一緒だ。


 他の町民もいるが、皆薄い服を着ている。ゆかたらしい。湯かた? これが未来の浴衣になるのか? で、布を敷いてそこに座る。これが風呂敷。風呂に敷くから風呂敷なのか。


 で、暫くたつと汗が出てくるから、来る前にちぎってきた笹の葉で体を擦って垢を取り、溜めてある水で流して入浴終了。



 ……全く風呂に入らないのに比べれば衛生的とは言えるけど、石鹸が欲しい。



 油と灰があれば石鹸が作れるはずなんだけど、その油すら高価なんだよね。


 非常用に夜の灯り用に少し油があるけど、石鹸作成には回せない。




 現代知識チートがあるから材料さえ揃えば色々作ってちょっとは楽になれるとか思ってたけど、現代で簡単に手に入るものもここでは庶民には手が出せない。油ですら高価で夜に灯りを点けることなんて出来ない。もっと前の時代にロウソクもあったらしいんだけど、全部唐からの輸入品で、遣唐使が廃止されてからは日本には残っていない。


 ロウソクを作る技術も日本に無い。


 お金が無いと何も出来ないわ。庶民じゃやりたい事も、それ以前に生きることも厳しい。

 ため息は夕焼けに染まる都の空に消えていった。



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