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陰陽寮

 次の日の昼、宮中に向かう途中で正宣に会った。


「じゃあ、行こうか」


 正宣は振り返り、2人宮中へ。


 てか、これは道? なのか? あまりに広い。朱雀大路と言っているが、幅、と言っていいものなのか、100メートルはある。


 まるで運動場だ。


この広さの道? 広場? が宮殿から都の端まで真っ直ぐに延びている。


 往来は激しいが、車も自転車もないこの時代、数台の牛車が見えるだけでほとんど人が歩いているだけ。

 混雑してるわけではない。


 道路というのに小屋を建てて籠や傘、簑、茶碗なんかを売っている露店がちらほら見える。

 無駄に広い。

 向かう先には豪華な建物が見えている。



 暫くすると辿り着いた。


 京都に修学旅行に行った時を思い出す。

 立派な寺と言うか、神社と言うか。

 神社だな。朱色に塗った太い柱の、屋根にも装飾を施している建物が何軒も連なっている。


 改めて過去に来ていることを実感する。3つ見える門の右から入った。美福門と言うらしい。

 入ってすぐ右手に見える建物を差し、


「ここが大舎人寮。ここが仕事場」


 と教えてくれた。


 正宣は更に先に向かい丁寧に建物の名前と仕事を教えてくれた。ごめん、おっさんは一回じゃ覚えきれないんだよ。


 内裏だいり、という、天皇が住んでる一際大きい建物まで来た。村上天皇が今の天皇らしい。うん、聞いたことない。


 正宣は内裏には向かわず、その向かいに建っている建物へ促した。

 ここが陰陽寮おんようりょう。陰陽師の仕事場らしい。



 平安時代、安倍晴明って確か実在したんだよな。もしかしたら会えるかも。でも平安って長いんだよなぁ。


 平安時代って794年から1192年まで、今は鎌倉幕府の成立年が1180年代じゃないかとか議論されてるらしいけど、おっさんたちが学校で習ったのは1192(いいくに)作ろう鎌倉幕府。だから400年くらい平安時代は続いてる。


 知ってることなんて藤原道長と頼道の親子が藤原全盛期だったってこと、枕草子と源氏物語で清少納言と紫式部がライバルだったこと。菅原道真が遣唐使を廃止したことくらい。


 年代がわからん。


 推測される954~963年の今の出来事、内容なんて分からないし、少しでもなんか知ってることに遭遇できればいいけど。


 藤原道長はいない。ただ、左大臣と右大臣が藤原家。この時代の政治の実権を握っているらしい。確か藤原氏って摂政と関白になって摂関政治をするって習ったはずだけど、まだその段階に来てないのか。

 摂政、関白って役職は無いが、今後できるのだろうか。


 枕草子と源氏物語は存在していない。

 菅原道真は50年くらい前で、死んだ後怨霊になったらしい。


  安倍晴明もいない。陰陽寮のトップは加茂忠行かものただゆきと言うらしい。うん。聞いたことない。


 陰陽師って映画で晴明のやつ見たくらいだけど、術とか使えるのかな?


 実は魔法世界で俺にもその力が宿ってる……なんて事になったりして。




 陰陽寮に入る。皆が皆、神社の神主みたいな服を着ている。俺らが色褪せた水色。陰陽師たちは真っ黒。


 奥に案内されると儀式の様なものが準備されている。陰陽師が1人。自分より少し歳の行った2人、橙色の服を着たおっさん、青色の服を着たおっさんがいた。


「父だ」


 正宣が囁く。


 橙が正宣の父さんで、青が大舎人寮の長官。


「この度はお力添えを頂き、大監物様には大いに感謝しております」


 名前は呼んじゃ駄目らしい。知られることも駄目という、新たな謎ルールを道中で教わっていた。


 貴族に対しては役職だったり、ニックネームと言うか、占いで付けてもらった名前なんかを使うらしい。


 ここら辺本当に分からない。知られちゃいけないのに、将来貴族になる正宣くんの名前知ってるし、大舎人って貴族がこの国会議事堂に慣れるための試用期間みたいなもんで、それまでは皆名前で呼びあっている。



 だから、多分知ってるけど呼んじゃ駄目って事なんだろう。


「昨日正宣から聞いたよ。記憶が無くなったらしいが占って貰ったところ手厚く匿うようにと言われた。君の進退をまた占ってもらう様に手配したよ」


 正宣パパは占いを信じるタイプらしい。神のお告げ()で言われたから力になると。いや、笑えないな。お陰で自分も占ってもらえる。


 占いは結構お金がかかる。結構ってもんじゃない。俺みたいな底辺には手が出せない。


 更に予約制で、暖簾のれん潜って「おやじやってる?」みたいに気さくに出来るもんじゃない。


 それをお貴族様マネーとお貴族様パワーで捩じ込んでくれた。



 大舎人の長官も占いを信じちゃうタイプらしくて一緒に行く末を見守ってる。


 陰陽師が全てだ。


 俺の運命はこの占い師にかかっている。

 運任せだが、俺に力がない以上これに頼るしかない。

 いいか、悪いか、2分の1に命運を託す。



 壮年の陰陽師は細い棒をじゃらじゃらと広げたり束ねたりしながら、2本取り、3本取り、まるで易者のような事を始めた。まるでもなにも易者か。


 これが未来の占いのルーツか。


 陰陽師は「む……!」とか「ほぅ……」とか思わせ振りな事を呟いていた。

 心臓に悪いから早く決まってくれ。


 冷や汗をかきながら永遠と続く棒の擦れる音に緊張する。


 陰陽師が棒を机に置き、「終わりました」と告げた。


 唾を飲み込む。静寂の中、皆に聞こえたんじゃないかと思うくらい大きな音が出た。


「大舎人寮はその者、吉備津遥晃を以後も雇うように。大監物は朝と変わらぬ。以後も家族で彼を匿うようにとの結果だ」


 との結果だ。


 何とか仕事は残れるらしい。とりあえず6日間は休んで、次の出勤から暫く正宣と共に、教えてもらいながら仕事をすると言うことになった。よし、これからは占いを信じていくようにします。ありがとうございました。



 こうして、この世界での悩みの種がまた1つ増えたのであった。

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