どうにでもなーれ
「おいおい……あの占い師、箱を見ないで答えやがったぞ」
「兼家様のお顔を見てみろ。あの驚きよう」
「まさか本当に当ててしまったのか……」
「すげえ。俺間近で法力見たの初めてだ」
後ろで野次馬のどよめきが聞こえる。
まず整理しよう。兼家が出したお題は箱の中身を当てる事。道秦がやったように法力で透視を使えって事なんだろう。
しかし……
女声のおっさんと、女の人の持っている箱からは動物の動き回る音が聞こえている。
というか、鳴き声もしている。
「どうした遥晃。答えられないか?」
道秦に嘲られる。
こいつには聞こえていないのだろうか。
箱の中から音がするせいで中身はわかってしまった。そのお陰で周りを見る余裕ができる。
みかんと答えてしたり顔の道秦。青ざめて落胆の色を隠せない兼家。唖然としている女声のおっさん。必死に道秦に何かを訴えようとしている女の人。
違和感しかない。
兼家と道秦には音が聞こえていないのか。
箱を持っている2人には聞こえているだろう。
兼家の表情から読み取れることは……当初の中身はみかんだった?
道秦にはそれが分かっていた……?
『お前には当てられまいが、ここまで容易な手合いを私が辞退するわけないだろう。精々その日になるまで震えているがよい』
当てられない……こいつには勝負の内容も、中身も筒抜けだったと言うことか。
「これで勝負は付いたようだな。私の力を見せつけるだけになってしまったが遥晃、悪く思うなよ」
汚い。さすが汚い。
こいつは絶対に許さない。
「どうでしょう兼家様。私の力を見て頂けましたでしょうか。中身は兼家様のご存知の通り。それでは……」
「ねずみ……」
「……は?」
「この箱の中にはねずみが15匹います」
「は……ははははは! 何を言い出すかと思えば! ははは。当てずっぽうにも程があるぞ」
「……」
「は、遥晃……」
兼家に半泣きで訴えられる。
「まあよい。兼家様、確かめるまでもないですが、箱を開けてみましょうか」
「う、うむ……」
ノリノリで場を仕切る道秦に気分が悪くなる。
「花さん、さぁ開けて見てください」
花と呼ばれた人は開けるのを躊躇している。
「……どうした、早よう開けろ」
諦めて投げ槍になった兼家に命令され、渋々蓋を開ける。中からねずみが飛び出してきた。
「うわああへぁあぁへ?!」
兼家が謎の鳴き声を出した。
道秦はその場にへたりこむ。
「おい、ねずみが出てきたぞ」
「あの占い師の言ってたのは何だったんだ」
「おおお! すごい! さすが遥晃だ!」
群衆の中から正宣が駆け寄ってくる。
「ま、待て!」
野次馬の騒ぎを止め、道秦が必死に声を絞り出した。
「遥晃は15匹と言っていた! 出てきたのは5,6匹だけではないか! あ、当たったとは言わせぬぞ」
道秦が異議を唱える。まぁ、昨日までの俺だったらここで手打ちにしてただろうが。
いてくれるかな。いるといいな。女声のおっさんに声をかける。
「その箱の中、まだ一匹残っていませんか?」
「え? ああ、います」
「そのねずみを避けてみてください。子ねずみがいるはずです」
恐る恐る箱をまさぐる。
「い、います! 子ねずみが……8匹!」
「これで満足か? 道秦」
そう言葉をかけると道秦は項垂れてしまった。
「遥晃!」
涙でぐしゃぐしゃになった兼家に呼ばれる。全く、兼家のせいでここまで大事になったんだぞ。
いや、今はいい。取り敢えず道秦に灸を据えなければ。
「兼家様。ひとつご報告したいことがございます」
「ふぇ?」
「この度の手合い、道秦は不正をしておりました」
場がどよめく。
「な、何を馬鹿な……」
「そこの女性、花さんと手を組み、事前に内容を把握していました」
「な、何を根拠にそんな事を! いえ、兼家様! これはこいつの妄言です」
「花さんを唆したか、以前より2人が通じていたか知りませんが、今回の事は花さんが屋敷内で探り、道秦に告げ口したのでしょう」
「口から出任せを! 止めろ!」
「女性が面前に出てくるのも不自然。道秦に何かを訴えようとする仕草も不自然。花さんの名前を既に知っていた事も不自然。総合したとき、道秦が不正をしていた事にすると全ての辻褄が合う」
「し、知らん! そんな事はしていない! 兼家様! 信じてください! 私は法力を使い中を見破ったのです」
道秦は未だにしらを切り通していた。
「花、遥晃の言うことは真か?」
落ち着きを取り戻した兼家は花さんに尋ねた。
「あ……あの……」
兼家から目を逸らせられない。
「も、申し訳ございません……!」
花さんは嗚咽と共に経緯を溢した。
やはり道秦はズルをしていた。それも彼女の弱ったところに付け込んで。どこまでも汚い奴だ。それにしてもよかった。なんとかこのインチキロリコンペド野郎から超子を守ることができた。
道秦は許せないが、こんな事が大衆に知れ渡ったんだ。懲らしめる事もできただろう。
これも道秦の自業自得……あ。
気付くのが遅すぎた。慌てて振り返る。
「う……」
「うわあああああああ!」
「何だこれ! こんなの見たこと無いぞ!」
「相手の手口まで見透かすなんて!」
「ありがたやありがたや。このお方は神さまじゃ」
「法力をこんな間近で見せてもらえるなんて!」
放心してしまう。興奮した正宣に抱きつかれるが構っていられない。取り返しのつかない現状に頭が付いていかない。
興奮してはしゃぐ人。
膝をつき手を擦り合わせて拝む人。
涙を流し卒倒する人。
阿鼻叫喚がそこにはあった。
も、も……
もうどうにでもなーれ!
4章おわりました!お読みいただきありがとうございました!