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問答

「あなたが飴を作り出せると言う話があったのですが、それは本当ですか?」


 目を見る。うまく言いくるめないといけない。いきなり核心に入ってきてるからな。小細工は通用しないか。


「はい。作れます」


 眉間が寄った。

 嘘もつかない方がいいな。


「妻と製作しました。家の者は製法を理解していますが、口外はしておりません。するつもりもございません」


「それだと矛盾が生じますね。先程術は使えないと仰ったはずでは?」


「いえ、術は使えませんよ。ご存知の事と思いますが、飴を作るのは術ではないですよね」


 住職が目配せをする。1人の僧侶が耳元で口伝てした。


「……その通りですね。どうやら奥方も口外はされていらっしゃらないようです。しかし、困りましたね」


 水飴は大事な収入源なんだろう。普及されると困るはずだ。


 製法を知りうる一般人。それを野放しにはしたく無いだろう。この寺に幽閉するか、亡きものにするか。

 それが相手の解決策なはずだ。どちらも困る。なら、生かしておくための理由を作らなければ。


「私としては今まで通りの生活が送りたいのですが」


「……」


 顔は変わらないようだが威圧感が増す。その気は無さそうだ。


「日本に伝わっていない蝋燭の製法も知っています」


「ほう、しかし知ったところでどうしようも無いでしょう」


「いえ、日本に有るもので作ることが出来ます。ウルシと『ハゼノキ』の実を使い作ることが出来ます」


 住職の目が開く。後ろの僧侶たちからどよめきが聞こえる。


「あとは、海産物を柔らかいまま都へ持ってこれるように出来ます。この技術をお教えしますので、できれば都へ帰して欲しいのですが」


 今まで買えた物は固い干物ばかりだった。多分乾燥と燻煙までさせてるのだろう。

 塩分濃度を上げれば水分があっても保存はきく。多分大丈夫だ。


「なるほど。唐に渡り、技術を習得したという噂はまことのようですね。不思議な方だ。何故大舎人に甘んじていらっしゃるのでしょう。商人にもなればいくらでも財を成せるはずでしょう」


「……」


 うーん、なんて答えればいいだろう。あまり仕事を変えたりするのって疲れるんだよな。

 今が安定してるならそのまま惰性で生きていたいんだけど……

 年齢的なものです。……うーん、違うな。


「……まぁ、いいでしょう。そちらのお話しを信じましょう。その技術以外にもいろいろご存知のようですね。」


 住職から威圧感が消える。生かして、さらに教えてもらう方を選んだか。

 もうこっちの手札は無いんだけどね。こそこそ飴を売ったりする必要も無いし、生活も困ってないから問題は無い。兼家には感謝しないとな。


「それでは蝋燭を作って頂けますか。実ができるまではこちらでお世話は致しますので」


 ……え?いや、実ができるって秋まで?無理です。ムリムリ。






「……そうですか。それでは仕方が無いですね。私共も兼家様には恩義がございます。こちらへお連れしてしまい申し訳ございませんでした」


 道秦との事を説明して何とか帰れる事になった。よかった。何とかなったみたいだ。


「すみません。それでは戻らせて頂きます」


 道秦との件が落ち着いたらまたここに連れ戻されるかもしれないが、取り敢えず今は考えないでおこう。

 梨花さんに会いたい。

 こうして5日ぶりに都へ戻った。





「梨花さん!」


 嗚呼、久しぶりの我が家。そして最愛の家族。梨花さん、一段と可愛く見える。


「あら、はるさん。おかえりなさい。早かったですね」


 え?いやいや、こんなに会わなかったのに? なんか素っ気なく無いですかね?


 聞くと坊さんから俺が修行のために寺にこもると言われたらしい。

 勝負を前に法力を高める為だと理解し、怪しむことは無かったみたいだ。


 下手をすればそのまま出家したことにして寺に入れて置く積もりだったんだろう。

 こうやって疑われもせず……


 今思えば結構危険だったな。現代の知識のお陰で何とかなったけど。


 あ、兼家のとこに……いや、明日でいいか。今日は久しぶりの我が家を楽しもう。





「兼家様にお会いしたいのですが」


 翌日、兼家の屋敷に行った。なんとか勝負を止めさせないと。女声のおっさんが応対に当たった。


「あぁ、遥晃様。私共も期待していますよ。ところで、兼家様は今ご不在です。紀伊へお出になられています。しかし試合の日には戻られると思うので安心してください」


 ……打つ手が無くなった。否応無く勝負を受けなくてはならない。


「楽しみにしていますよ」


 聞き流す。どうしたらいいんだろう。

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