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茶番

「遥晃様、この度雨乞いの儀を執り行うのですが、お願いできますでしょうか」


 やはりと言うか、兼家様に頼まれた。


「申し訳ございません。私はただの大舎人です。まず、私は術など使える訳ではございません」


「そうは言わずに、どうかお願いします」


「超子様の件はたまたま原因が分かっただけで、天候を操るなど、私にはできません。」


「しかし、この都であなた以上の術師は……」


 兼家様は尚も食い下がってきた。


「兼家様がお困りの時は出来る限りお助けしたいと思っていますが、今回は断らせて下さい。」


「……」




 なんとか断れた。毎回骨が折れる。


 度々、兼家様に頼み事をされる。大舎人が宮中行事を取り仕切ったら陰陽師に目を付けられてしまうだろ。


 出る杭は打たれる。あまり目立ちたくないのに。





 最初は周りが持ち上げて来るのが嬉しかった。

 今まで平凡に生きてきたから、皆から注目され、頼られることにどことなく快感があった。


 でも、この時代に魔法は無い。

 術や呪いのオカルトだけが蔓延はびこってるだけで、魔法の世界ではない。RPGのような世界だったらどれだけ楽しかっただろう。

 ここには心踊る冒険も、人智を越えた力も存在しない。


 仕事だってそうだ。持て囃されても俺は一般人。もし、チートなスキルを持って異世界に来れたなら、どこまでも上を目指せただろう。


 でも、そんなものはない。出世する力も無い。


 上の人間に目を付けられたら自分を守るすべが無い。

 自分の手に負えない事に巻き込まれたら対処できない……





「もし、あなたが吉備津遥晃か?」


 帰り道、みすぼらしい割に飾りを纏った男に声をかけられた。


「いえ、人違いです」


 もう、面倒くさい。知らない人から声をかけられるのが億劫だ。


「いや、あの者から聞いたのだが」


 指差す先に正宣がいた。手を振っている。

 本当に面倒くさい!






「私はこの界隈で占卜を生業にしている芦川道秦あしかわのみちはたと申す!」


 男の前口上が始まった。


 この辺で占いをしてたが、最近客が減っている。理由を探ると、どうも近頃有名になっている術師がいるらしい。

 そいつのせいで自分の商売があがったりだ。


「私と法力比べをしてくれ!」


 法力勝負をして名誉挽回をしたいと言うことらしい。男が叫ぶ。


 だから、そんなもの持ってないんだって。

 いちいち突っかかられても……


 あ、いや、そうか。これはチャンスかもしれん。

 この人に勝たせてあげれば人の関心がそっちに移る。

 俺も助かるし、この人も人気が出る。ウィンウィンだ。


「わかりました、お受けします。……いや、する必要もないですね。私には――」


「その話、私が預かろう」


 話の途中で横やりが入った。

 振り返ると牛車が。中から兼家様が顔を出す。


「ははー!」


 その場にひれ伏す。


「まず、私の家に来い。詳しく伺おう」


 兼家様はどことなく乗り気だった。いや、あまり期待されても困るんですけど。





「なるほど。面白い話だな」


 門前で事のいきさつを説明した。兼家様はどことなく目が輝いている。


「勝負をするとなると、仲裁が必要だろう。私が請け負う。そうだな。一月ひとつき貰えるか? その間に準備をしておく」


 公平になるように兼家様がお題を決めるらしい。


「私も面白いものを見せて貰えそうだ。よし、勝った方には褒美を録らせよう。何でも願いを叶えてやるぞ」


 いや、そこまでしなくても。茶番を演じるだけだ。お寒い結果になるだけだと……


僭越せんえつながら、私は負ける気がございません。今のうちに願いを聞き入れていただけますか?」


「申してみよ」


 道秦が懇願してきた。


「私が勝った暁には兼家様のご息女の婿にして頂けませんか?」


 は? ちょ、おい! 有名になって占い続けたいだけだろ! 何とち狂ったことを……


「……よかろう。暫し待たれよ。超子を呼んでくる」


 はあ?何言ってるのこの人。断れって!


「ちょ、あの、兼家様! いくらなんでもそれは……」


「超子、話は聞いたか?」


「ええ、父様。約束した以上、私はいかような物でもお受け致します」


 バカ! バカバカバカバカ! 話をややこしくしないでくれ!

 俺が負けてそれで済むんだって! 拗らせないでくれ!


「それにしても、困りましたわね。父様

 」


「あぁ、そうなってしまうと我が家は困ってしまうな」チラッ


 棒読みで父娘の寸劇が始まった。


「私が困ったときは手を貸してくれる者がいたはずだ。私はそれに賭けようとするかのう。はぁ、困った困った」


 困るのはこっちだっつーの!



 結局、超子の婚姻を賭けた法力比べをする事になった。


 クソ兼家! 面倒を増やすなよ! 百年の恋も一気に覚めてしまったわ! 俺が負けて終わるはずだったのに! 法力なんて無いんだって! どうすりゃいいんだよ!


「なんだか面白い事になったな」


 正宣が嬉しそうに話しかけてきた。


「あああああああ!」


 俺の叫びは空しく響いた。




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