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むりむり

「兼家様は国の上に立つべきお方です。超子様の事をご案じ召されますならば、なおのことです」


 心酔ってこう言うことなのだろうか。藤原一族として国の上にいる人間が国民を、家族を大事にしている。


 この人がトップに立てばきっと国は良くなる。そう思えた。


「兼家様が転任され、没落してしまうと超子様やその子孫が苦しむ事になります。どこまでできるか分かりませんが、自ら失脚されるのは良くない事かと」


「ああ、ありがとうございます。遥晃様からそのようなお言葉を頂けるなんて感謝のしようがございません」


 や、やめてくれ!そんなへりくだらないで!俺はあなたを疑ってたクズなんです。蔑んで下さい。踏み潰してください。


「できればこれからもお力添えを頂けないでしょうか」


 そんな事俺には畏れ多くて……あ、そうだ。


「あの、白粉の事なんですが……」






 白粉は準備できなかった。冬になれば葛粉で代用できるかもしれない。

 今後は水銀の白粉を使わないように説明する。


「葛……ですか。そのような方法があるのですね。いや、軽粉でなければよろしいのですか?」


「はい。水銀に反応して肌を痛めているので、まだ確証はございませんが……」


「それでは米粉ならよろしいのでは」


 米粉?!


「は、はい! 水銀でなければ問題ないかと」




 昔の白粉は米や粟の粉を使っていたらしい。鉛や水銀のほうがより白いということで使うようになっただけで、使わないことはないみたいだ。


 なんだ。つくづく滑稽だな。


 うちは梨花さんも化粧をしないし、化粧品には疎い。むしろ庶民が米を食べ物以外に使うことなんて無いんだ。


 話し合う。それだけで解決する事だったんだ。

 梨花さんに諭されていなかったらどうなっていただろう。


 1人で落ち込んでいる間に兼家様は失脚。超子様はこの家と共に没落。下手をすると乞食まで成り下がっていたかも知れない。


 ゾッとする。






 より白くということでもち米を使った白粉作りが始まった。粉にしてしまえば白粉と変わらない。


 顔に塗って問題があっても困るので、超子様の手の甲に試しに塗る。


 問題が無ければ使えるようになると告げて、俺の仕事は終わった。






 兼家様に物凄く感謝された。こっちも嬉しい。あんな人の役に立てたなんて思ったら自分が誇らしくなった。


 でも一歩間違えば国の宝を失う所だったんだ。1人で抱え込まないようにしよう。

 梨花さん、ありがとう。

 梨花さんにはどんなことでも報告しよう。もっといっぱい話そう。


「梨花さん!ありが……」


「あ……」


 家の戸を開ける。兼家様とのやり取りを報告しようと思った。

 そこには昼に作った葛粉を顔に塗った、白塗りお化けが3匹いた。






 桶で湧水を運び、畑に撒く。地味な往復作業だけど、苦痛じゃなかった。


 大豆の芽が出ていた。


 最近は雨が少ないから乾かないように、根がしっかり伸びるまでは水やりを欠かさないようにしないと。





 どんな些細な事でも報告。それを忘れないようにする。


「梨花さん! 大豆! 芽が出てた……ぷふっ」


 駄目だ。あの日の白塗りの梨花さんを思い出して吹き出してしまう。




「もー! 何日経ったと思うんですか! もう忘れてくださいよ!」


 梨花さんに怒られる。

 そんな、化粧なんてしなくてもこんなに可愛いのに。

 でも、梨花さんも憧れているんだろうな。おめかしくらいしたいはずだ。お米……は使えないけど葛粉を作ったら食べるより先に梨花さんの化粧欲……あ、駄目だ笑ってしまう。


「もー、恥ずかしくなるじゃないですか」


「ご、ごめ……ぷふふ」


「もーーー!!」


『ンモーーーー!』


 ビクッ!

 外から牛の鳴き声が聞こえてきた。放し飼いの牛が逃げ出してきたか? ざわざわと人の声も聞こえる。


 戸を開けると漆の塗った豪華な牛車が家の前に佇んでいた。護衛とおぼしき人が10人ほど囲んでいる。

 離れた所からは野次馬がこちらを見て噂を立てている。


「遥晃様!」


 牛車から兼家様と超子様が出てきた。超子様は扇子で顔を隠している。


「この度はどうも……」


「あ、と、取り敢えず中へ」


 粗末な家だけど上げて大丈夫かな。





「粗末な家ですが」


「いえ、そんな事は。この度は私と超子の為にご尽力を賜り、感謝ののしようがございません」


 兼家様が深々と頭を下げる。


「いえ、私はそこまでの事は……それよりも顔を上げてください」


「はい、ありがとうございます。あの後、問題も無く、超子も早速塗ってみたいと言うので顔に施しました所、あのようにただれること無く使うことができました。


 超子も遥晃様に大変感謝し、是非見せたいと言うことで、突然で申し訳ございませんがこちらにお伺いさせて頂きました」


「そ、そんな。わざわざお越しにならなくても私がお伺いしましたのに」


「いえいえ、そのような。さあ、超子。遥晃様にお見せしなさい」


「はい。遥晃様、この度はどうもありがとうございました」


 扇子をよける。

 薄く白粉を塗り、口に紅をさした少女だ。肌の荒れも消えている。

 人形のような綺麗な顔だった。


「とてもお綺麗です。少しでも役に立てて私も幸せです」


「それで、お礼の事なんですが」


 いや、そんなお礼だなんて。自分は殆ど何も……


「2000束程ですが、ご用意致しました。勿論これからもお贈り致しますのでどうかお納め下さい」


 ズビッ


 鼻水が出た。え? それって……え? そんなに?


「本日は100束程持参致しましたのでまずはそちらを……」


「あっ! ちょっ、まっ! お待ち下さい」


 それなら貰う! 頂きます! ごめんなさい。遠慮できません。


「その稲、もし出来るならばもみを落としていただけますか?」


「あ、はい。分かりました。申し訳ございません。そのように手配して……」


「いえ、ありがとうございます。喜んで頂戴します」


 そんなに貰えるなら! 白いご飯食べ放題じゃないか!

 やった! 兼家様! ありがとうございます! ありが……


「父上、こ、こちらの女性はどち、ど、どどちらの……」


 よ、吉平の目が変わっている! 子供っぽさが消えて襟とか直してるし……

 馴れない言葉遣いで噛みまくってるし、お前、どうした。少し落ち着け。


「これはお願いなんですが、今後も術師として私をお助け願えないでしょうか」


 兼家様が俺を頼ってくれた。嬉しい!


「すみません。その話はお受けすることはできません」


「……え?」


 でも、無理です。ごめんなさい。


3章終わりました!

ありがとうございました!

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