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誤算

 超子は少しずつ良くなっていってるようだった。時間があれば様子を見に行っている。


 赤みもまだ引いていないが、膿んでいた所はかさぶたになり始めている。


 まだ今後の経過は予測出来ないが、兼家に感謝された。


 今まで祈祷をしてもらっていたが、症状は悪化していくばかりだった。進行を止めるどころか、良くなって行ってることに驚いているらしい。


 言い付けは守っているようだ。それから白粉は使っていないみたいだ。


 兼家にとっては重要な政治の駒。そりゃ大事にするだろう。




 しかし、もし完治すればまた教育が始まるだろう。起こったことも忘れて化粧をしてしまうかもしれない。


 政治利用をさせたくないけど、そこは他人の教育方針だ。こっちが何か言う権利がない。


 だから完治するまでに白粉の代用品を用意しなくちゃいけないんだけど。





「お前、兼家様の家に通ってるらしいな」


 噂好きの正宣に聞かれる。


「さすがだな。兼家様に取り入るなんて」


「兼家様はそんなにいい人なのか?妻もそう言ってたけど」


「ああ。あの方は聖人君子だよ」


 正宣に説明される。




 従五位上じゅごいのじょう 右兵衛佐うひょうえのすけ紀伊権介きいごんのすけ少納言しょうなごん藤原兼家ふじわらのかねいえ


 天皇家の護衛の副リーダー、和歌山の副知事、そして国会の議事、書類整理を兼任している右大臣の三男坊。


 質素倹約で、身分を分け隔てなく接し、文武両道。


 仕事も卒なくこなし、天皇からの信頼も篤い。


 その性格から宮廷内外に多くのファンを持つ、らしい。





 なんか、物凄い人なんだろうけど、第一印象が悪かったせいでそんなにいい人に見えないんだよな。


 権力にすがり付いて、自分の子供でも容赦なく利用してる裏側を見ちゃったわけだし。


 口外するつもりは無いけど。


 ただ、こっちが口が悪くなっても咎めることなく、逆に敬語使われるくらい身分の差には寛容なのかなとは思った。






 長男は従四位下じゅしいのげ 頭中将(とうのちゅうじょう)春宮権亮とうぐうごんのすけ伊予権守いよごんのもり藤原伊尹ふじわらのこれまさ


 天皇の秘書と護衛、皇太子の側近、愛媛の副知事を兼任している。

 性格は大人しく、兄弟思いらしい。


 やっぱり引っ掛かる。兄弟同士でいがみ合ってる風な話を兼家はしていた。

 やっぱりただの噂なのだろう。


 そりゃそうだ。誰が好きこのんでうちらは兄弟仲が悪くて互いに足を引っ張りあってますと紹介するか。


 今は右大臣の息子三兄弟、互いに出世コースをひた走るエリートだけど、将来その中で椅子取りゲームが始まるんだ。


 仲よさそうに見せかけて、水面下では既に争っている。


 兼家もイメージ戦略を成功させたのだろう。腹黒い奴だ。


「そして二男は正五位下、左近衛少将……」


 あ、も、もういいです! おじさんもうお腹いっぱい!






 やはり宮廷でも兼家の人気は高かった。

 他の兄弟は身分に合った接し方をしないといけないらしい。

 危なかった。兼家だけが特別だったのか。兄の方に当たっていたら今頃首が飛んでいただろう。物理的に。


 そこだけは認めるが、それはそれ。


 超子を苛めていることには変わり無い。





 白粉を作らないといけない。


 白い粉だよな。金属で出来てなくてもいいんだよな。植物でも作れるはずだ。片栗粉なんかでも代用できるだろう。


 ただ、俺が考えてるのはオシロイバナだ。


 実を砕いて白粉の代用品にしてたのだろう。花は赤いし、名前の理由が、まさか花が白粉を塗ったように見えるからとかじゃ無いはずだ。


 今は5月。少しずつ暖かくなってきているし太陽暦ともあまり変わらないだろう。


 そろそろ花が枯れて実が付き始める時期に違いない。超子の肌が治る頃には間に合うはずだ。


 野草に詳しい梨花さんなら咲いてる場所も知っているだろう。





「え? おしろいばな? ですか?」


 思わぬ誤算だった。梨花さんに通じない。

 この時代では別の呼び方があるのか?


 それとも……


 この時代には存在しないのか……?


 頭が真っ白になった。






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