石鹸
お湯を沸かす。集めた灰に混ぜる。
続きは明日の朝か。待ち遠しい。
待つ時間が惜しい。気が逸る。
「は、はるさん……何かあったら言ってください。何か力になれることがあれば……」
「いや、大丈夫だから。気持ちだけいただくよ」
「あ……はい……おやすみなさい」
朝が待ち遠しい……
朝、なのだろう。飛び起きる。
昨晩溜めていた液を濾す。灰と熱湯を混ぜることでアルカリ性の液を作る。鳥の羽が溶けるくらいでいいはず。
昨日拾ってたカラスの羽を落としてみる。
溶けた。大丈夫だろう。
火を起こす。起こすと言っても未だに慣れない。ライターが恋しい。
いや、出来ない出来ないじゃない。俺がやらなきゃいけないんだ。
板をこする。一心不乱にこする。
……よし、点いた。初めて一人でできた……
「はるさん、おはようございます。ふふ……火を点けますよ。任せてください」
「いや、大丈夫。できたよ。おはよう」
「……あ、そ、そうですか……よかった……」
椿油を暖める。もうここからは勘になるな。火から離して灰から濾した液を混ぜる。
油が、乳化すれば完成だけど……
かき混ぜる。
かき混ぜる。
足りてるのだろうか。
もう少し灰液を入れてみる。
「はるさん、昨日から何を作られてるんですか?」
「くっ、『石鹸』って言うんだけど……」
「せっけん、ですか?」
「そう。汚れを落とす道具。んしょ」
「……あ、はい」
かき混ぜる……
どれくらい混ぜただろう。油が白濁している。
大丈夫かな?
掬って水に溶かす。
……溶けた!やった!できた!
お椀に小分けにして固まるのを待とう。
やった、石鹸を作り出した!
……石鹸だよな?まだ固まって無い石鹸もどきを手に取り、泡立ててみる。
泡立つ!
水ですすぐ。
流れる!
よし!大丈夫だ!
「はるさん、朝御飯の準備をしたいんですけど……」
「あ、ごめんごめん!もう大丈夫だよ」
きっと超子も大丈夫だろう。
金属アレルギーだとしたら、まずは顔に残る化粧を落とさなきゃいけない。多分金属の粉だけでできているはずだから、クレンジングオイルみたいな化粧落としは必要ないだろう。
もし、必要だとしても作り方なんて分からない。
まずは石鹸で顔を綺麗にしてもらう。最悪、水洗いだけで洗顔をすませて顔に粉が残ったままになってるかも知れない。
炎症を抑える軟膏とかあればいいんだけど、分からない。肌を清潔にして、超子の自然治癒に任せるしかないか。
治ってくれればいいが……
「はるさん、仕事の時間になりますから簡単なものしか用意出来ませんが大丈夫ですか?」
「あ、今日休み取ってるからゆっくり出来るよ。そう言えば昨日食べてなかったね。安心したらお腹が空いてきた……」
「はるさん!聞いてないです!説明してください!」
「ご、ごめん……なさい」
事の顛末を説明する。
「兼家様の姫様が!」
「え?梨花さん知ってるの?」
「ええ。兼家様は有名ですよ。学問にも優れていて歌もお上手だとか。私にも噂が回ってきます。公民にも優しいって聞きました」
そうなのか?自分には娘を利用する権力に固執してる男にしか見えなかったが。
「昨日説明してほしかったな……」
「ごめん!本当にごめん!」
石鹸は夜になっても固まらなかった。
なぜだ?石鹸だよな?固まらない……うー、原因が分からない。
でも、石鹸だよな?泡立ちは弱いけどちゃんと水で流せるし、汚れも落ちる。
梨花さんに手を洗って貰う。自分も洗う。
明日、痒みとかが出なかったらこれでいこう。液体石鹸になったんだろう。
うん、特に問題は出なかった。次の日起きて確認したけど何ともない。梨花さんにも異常はなかった。
昼、兼家の屋敷に着く。
「兼家様も一緒にいいですか?これくらいの量を取って、こすって泡立てて下さい」
「は、はい」
「この泡で顔を洗います。こすって水で流す。これを朝晩続けてください」
「これで、超子は治るのですか?!」
「いえ、まだ分かりません。ですが、しばらくは化粧を控えてください。これ以上続けるとお嫁に行けなくなる危険があるので」
「はい!分かりました!ありがとうございます!」
こうでも言わないと続けちゃうでしょ。良くなってくれることを願う。よし、後は白粉だ。




