表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/93

開拓

 嬉々として集金係の家に行く。既に月末には家賃を払っている。滞納のお願いではない。

 手には休みを利用して作った資料を握りしめている。


「貴重な時間を割いてしまい申し訳ございません」


「いえいえ、それでお話とは?」


 唐菓子を出される。手を付けずに手に持っていた木の束を広げた。


「ここ数日家の前を通った人と車の数を数えてました」


「は、はぁ……」


「1日見続けましたが往来はこのように少数。道がごったがえすことはありませんでした」


 集金屋が資料に目を通す。


「はい……そのようですね」


「道路に余裕があるので家の前を畑にしたいのですが」





 家に庭は無い。しかし、家の前の道はとても広かった。

 歩幅で20歩。1歩60センチで12メートルも道幅がある。

 この平安京、ほぼ全ての道が広い。

 平安京の中央を走る朱雀大路は100メートル近く、その他大路と呼ばれる道は家の倍、約30メートル近い道幅があった。


 何も無いところに都を作ったから区画整備が容易だったためだ。


 小路と呼ばれる道路でも12メートル。道が広すぎるのだ。


 人で溢れかえることはまず無い。

 だから、家の前数メートルを耕し、畑にする事を考えた。


「……ええ、言いたい事はわかりますがーー」


 相手の言いたいこともわかる。

 国有地を勝手に開墾していいのかという問題があるのだろう。


「大丈夫です。お咎めがあれば直ぐに道に直します。責任も全て私が負います。そしてーー」


 懐から大豆を出す。


「育てるのはこの大豆とナスビ、大根、カブです。収穫できたら税としてこちらにお納めします」


 集金屋の態度が変わる。





 取り敢えず集金屋の許可は貰えた。多分それだけで十分だろう。

 人のうんこも死体も放置してお咎めが無いのだ。それで畑だけ駄目とは言ってこないだろうという憶測があった。


 ご近所さんに話をつけに行く。

 皆で耕し、収穫は山分け。1人でやるより管理も容易だし、盗難の被害も抑えられるはずだ。


 両隣の住人と合わせて畑を耕す。大内裏であまり見ない顔だった。畑を耕しながら仕事を聞いてみたら貴族の屋敷で奉公をしているらしい。


 俺が公務員なら2人は民間の会社員みたいなものか。





 鍬を降り下ろし畑を作っていく。

 流通量が少ない物は価格が高い。だから大豆も簡単には手に入らない。

 無理して飴を作り出せば買えることは買えるが、労力が大きすぎる。

 買ったときに驚いたが、大豆は薬として取り扱われていた。


 だからこちらは飴と違い栽培法を広め、流通量を増やす。


 価格を下げるのだ。


 今は少ないが、これで路地での栽培のうまみを知れば集金屋が動いてくれるはず。


 都の各地で栽培を始め、流通が増えるという目論見があった。


 野菜も高価だが、種は何とか買える。行商人に頼み、取り寄せてもらった。


 大豆が安くなって俺が幸せ。大豆を食べれるようになって国民が幸せ。税が増えて集金屋が幸せ。土地を有効利用できて国が幸せ。誰も困らない。



 味噌も醤油も収穫してからだ。魚を不自由なく買えるようになった今、栄養面で心配はない。


 土が掘り返される度、夢が広がっていく。鍬を持つ手は自然と力強かった。






「あーでででで! そこ! そこ押して! ぐうううううう!」

 夜、梨花さんにマッサージしてもらう。腕が上がらない。腰が痛い。

 おっさんなんだから無理するんじゃなかった。







 ーー


 燈台の薄暗い中、男達が膝を合わせている。


「遥晃の事なんだが……」


「あぁ、俺もそうだろうと……」


「しかしこのままでは……」


 夜の大舎人寮では石山正宣を囲み、その他数人で会話が交わされていた。


 筋肉痛に苦しんでいる俺には知る由も無いことだった……。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ