糸口
結局夜勤は寝通して終わった。
はっとして起きると既に日が昇っていた。
正宣曰く、
「遥晃も1人で行ったんだから俺も行ったら十分人手は足りた」
らしい。
給料を貰い、家に帰る。
今日のも含めて残り4束。地区の集金担当の家に話を付けるため、アポを取る。
家に着くと朝食の準備ができていた。3人が笑って出迎えてくれる。俺は、この笑顔を壊したくない。……壊したくないのに。
何も思い付かない。ただの延命になってしまうが家賃を滞納するしか今は方法がない。
問題を先延ばしにして、もう壊れている物を見せ掛けだけで維持するしか無いんだ。
朝食を貰い、横になる。集金係りとは昼に話をすることにしたのでそれまで寝せてもらった。
昼、重い足取りで屋敷に着く。立派な家だ。少しくらいお金を分けてくれてもいいのに……
つい僻んでしまう。
心が参ると惨めになる。心が狭くなる。他人を妬んでしまう。
客間に通される。いい人そうな主人だった。妬んだり、羨んだりした自分を嫌いになる。
取り敢えず話を付けようとしたら煎餅のようなものを出される。唐菓子と言うらしい。あまずらという甘味を付けている。
お菓子は高級品だ。どれだけお金を持っているのだろう。
お菓子、か。この時代、というか江戸時代まで砂糖は中国からの輸入品のみ。サトウキビから国産の砂糖を精製できるまで甘味というものは高級品だった。そんなものを平然と客に……
……あ。
ああああああああ!
その時屋根からガサリと音がする。
「雨か?」
主人が呟く。
カラスが一鳴きし、飛んでいく。
「なんだ、カラスか。で、どうしました? お話と言うのは」
……雷に打たれたような衝撃が走る。何で気がつかなかったんだ。
窮地を脱する方法を見つけた。
いや、もしかしたら巨万の富を得ることも……いや、それは……無理か。
だが……
「あの、予定していた事とはちがうのですが、……は……?」
「……ええ。……ですが」
や、やった!
家族を守れる! 皆の笑顔を見ていられる! 年甲斐もなく走って家に帰った。
家の前に梨花さんが立っていた。こちらに気付くと泣きながら走ってきた。
胸に飛び込む。
「え、な……梨花さん、何があったの?」
「はるざん! こべんなざい! ごべんなざい!」
涙と鼻水で顔をグシャグシャにした梨花さんが謝ってきた。
「雨の日に! 麦を買っだの! うっ……そのままにじでで……うぅー! お金無いのに! 私がちゃんとしなきゃいげないのに! ひっ」
「ちょ、ちょっと落ち着いて。大丈夫だから。ゆっくり説明して」
「ううぅ、ごめっ、ごめんなさい……あ、雨に、濡れたままにして、しまって、んっ、麦を駄目、にして、しまったんです。ひくっ」
「あ……」
「根っこが、生えてきて……ごめんなさい!」
「あぁ。いや、ちょうどよかったよ! ありがとう! 直ぐに取り掛かれる!」
「うぅ……へ?」
全て揃ってる。泣いてた梨花さんの顔を拭いて一緒に家に入った。