相対的な孤独
本当に大切な人だけとしか付き合わないとしたら、この世界から人は消滅する……。ふっとそんなことを思ったのは、高校二年生の春だった。別に苛められているわけでもなく、クラスでもクラブでも"友達"と呼べる存在はいる。それなのに私は、どうにも埋められない孤独が自分の内に存在することに気付いてしまったのだ。
若さ故に思い詰めてしまうことは多々ある話だが、私の場合もまさにそうだった。私はいつしか、心に巣食う永遠の冬を消し去るには、絶対的な人間が必要だと思うようになっていた。
例えば今交流を深めている彼女達と私との間には、果たして来年の今頃はこうして親しげな会話が成立しているのだろうか。その答えはきっと、ノーだ。たまたま同じ環境にいるからこそ生まれた、相対的な友情。それは私にとって、気休め程度にしかならなかったのである。
私はその場凌ぎの集団に属している時、度々突然襲ってくる孤独感という吹雪に晒された。きっとそれは、内面のみならず表情までも凍らせてしまっていたのだろう。他者と私の間は二十億光年程も離れていないにも関わらず、私はずっと一人だった。
そんな私にも、時は平等に訪れた。高校時代にはとうに別れを告げ、今や大学生最後の冬休みを目前に控える時分。カボチャの季節が終わる頃にはイルミネーションが先行していたとはいえ、本格的なクリスマスムードはこれからだった。
実は企業ぐるみの陰謀に乗っかって馬鹿騒ぎするのも悪く無いと思いつつ、私は今まで自分の鉄仮面を脱ごうとしたことすら無かった。だから今年も、煌びやかな場所やそれに伴う混雑とは無縁の、ただ寒いだけの日常を粛々とこなすのみ。そう思っていた。
きっかけは、同じ高校だった"友達"からの連絡。——忘年会するから、参加しない?
就職をすれば、再会の機会も減る。その前に、学年全体で集まろうという物だった。
別に会いたい人がいたわけでも、私に会いたがっている人がいたわけでも無いが私はそれに参加することにした。理由の半分ぐらいは暇だったからで、残りの半分は人が集まっているところに行きたかったから。結局私は、人との繋がりを切望している世捨て人だった。
初めから分かっていたことだが、久しぶりに再会したからといって交友関係が発展するわけでもなく。私は私で、やはり周りとは一定の距離が存在した。そんなに話が盛り上がることもなく、二次会には参加せずひっそり帰宅。辺りが熱くなっていた分、むしろ寂寥感も増えてしまってさえいた。
そこそこ遅い時間の、ガランとした駅のホーム。冬の夜空は都会にしては比較的澄んでいて、この世にはもう自分以外人はいないんじゃないかと、奇妙な気分になった。
「……」
堪え切れない溜息は、どうしようもなく白かった。
「……◯◯さん?」
突然、誰もいないはずの世界で人の声がした。軽くアルコールが回った頭で振り向くと、先程まで一緒にいたうちの一人がそこに立っていた。
「……ああ」
喋り慣れていない口から咄嗟に漏れた言葉は低く、とても知り合いに向ける声では無かった。私は慌てて咳払いをすると、自ら話しかけた。
「××君、こっち方面だったっけ?」
「そうそう。 今は一人暮らししてて」
「へえー」
「……」
「……」
当時ですら余り話した事のない相手との、中身の無い会話。沈黙を破ったのは、ホームに滑り込んで来た電車だった。それから当然の様に一緒に電車に乗り込み、隣同士の座席に座り、互いにポツポツと近況を話し合い、彼が先に電車を降りて私はまた一人なった。
たまたま近くに私達以外の知り合いがいなかったからこそ成り立った、相対的な会話。バイバイと手を振った私はしかし、不思議と孤独では無かった。
いつもより少しだけ上気しているだろう顔を窓に向け、私は深く座席シートに背を預けた。ほんの隙間から流れ込んでくる夜風が、心地良かった。
凝り固まった絶対主義を前に色褪せていた過去が、相対的に良き思い出となって再び目の前に現れた様な、一時の出会い。その短い間、私は確かに一人では無かったのだ。
相対的なパーソナル空間の中、充足感の余韻に浸る様に私は静かに目を閉じたのだった。




