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第2話

 水に打ち付けられるであろう痛みに身構える。来るなら来い。耐えてやる。

 そう思いながら待つ。待つ。だがいつまで経っても痛みが来ない。水の落ちる音も聞こえない。ただなぜか浮遊感だけがなお襲ってくる。

 俺は疑問を持ち、目を開いた。すると景色が違っていた。


「なっ…」


 俺は驚いた。なんと周囲は暗く、滝など存在していない。俺は宙に浮いていて、見えない底へと落ちているのだ。

 しかも落ちている速度が遅い。ゆっくりと下降していっているのだ。まるで浮力が働いているかのように。

 助かりそうだ、と思って安堵したのもつかの間、なんと腕の中に抱きかかえていたクリフくんが消えているではないか。つい先刻までしっかりと腕の中に抱いていたはずなのに。

 俺は慌てて周囲を見渡す。もしかしていつの間にか抱擁から抜け、浮いているのではないかと思ったからだ。しかし、見える限りのところを探してもいない。


「クリフくーん! いたら返事をしてくれー!」


 声は反響する。だが、返ってくる言葉はすべて俺の言葉のみ。クリフくんからの返答はない。もしかして声も出せない状況なのだろうか。

 そうこうしてる内に足元に地面が見えてきた。地面には魔法陣が描かれていて、それが浮力となっているのだろう。

 ゆっくりと着地して、周囲を見渡すが光がないのでほとんどなにも見えない。なので、俺はポケットから一つの小さな玉を取り出した。そして唱える。


詠唱(スペル)。"灯火(ライト)"」


 すると小さな玉は俺の手から少しばかり浮いて徐々に光を発し始め、光量を増して周囲を照らし始めた。周囲は綺麗に加工されて垂直となっている壁ばかり、クリフくんはいない。


「どこへ行ったんだ……あの状況で逃れられるはずないのに」


 俺は光を頼りに周囲の壁を見る。なにか脱出する手段はないかと……。そう見渡しているうちに壁に文字が書かれているところが見えた。俺はその文字のところへ歩く。

 文字は、標準文字ではなく象形文字のような字体だった。書かれている文字は読めないが、書かれているところだけ出っ張っている。まるで何かのスイッチのように。

 なにか罠が発動するかもしれない。だが、押さない限り何も進展しない。


「蛇が出るか鬼が出るか……」


 俺は望みをかけてそのスイッチを押した。するとスイッチの横の壁が開いていくではないか。擦れ合う音が重く響く。

 とにかく道が開けたのは良かった。俺は光を道の方へ向けて、視界を作る。照らされた道は奥へと一直線に伸びていた。恐る恐る道へと歩みを進め始める。

 一歩、一歩ゆっくりと周囲を警戒して歩いていく。そうすること数分。目の前に扉があった。

 その扉には絵が掘られている。それは大きい渦巻きや男女が向かい合って一つの球を共に掲げていたり、球が3つ別々の方向へ飛んでいくような絵だった。

 一体何を表現しているのかわからない。きっと昔の文明の伝承かなにかだろう………。

 俺は扉に触れて開けようとした。だが、扉はその俺の行動を読んでいたかのように力を込める前に開いていく。

 扉の先にあったのは、天井の一カ所だけから光が差し込む広間だった。光が差し込んでるところは広間の中心でそこには大きな祭壇のようなものが組み上げられている。

 俺は持っていた光を消して、仕舞った。そして祭壇へと続く階段を登る。段数はそこまで多くなく、登るのはいささか楽であった。そして祭壇頂上についた時、驚くべきものを目にしたのだ。


「お、女の子……!?」


 生け贄を置く壇上になんと布一枚だけ掛けられた女の子が横たわっていた。しかも、腐ったりしておらず綺麗な姿で。少女は腰まであるであろう長い銀髪、色白の肌を持ち、衣服をまとわず、ただ一枚の布が体にかけられていた。

 俺は手首に触れ、脈を診る。弱々しいが鼓動はしっかりとしていた。生きているのだ。この謎に包まれている場所で。


「外に、出してあげるべきだよ…な」


 きっと最近、ここに迷い込んだのだろう。俺はそう思い、女の子に掛かっていた布を巻きつけて抱き上げた。

 とにかく出口を探そう。そう思い、周囲を見渡すと俺が来た方向とは反対側に別の出入り口と思われる扉があった。俺は少女を抱きかかえてそこへ歩く。

 扉の前にたどり着くと扉は勝手に開く。扉をくぐり、道を歩いて先に進むと石でできた螺旋階段にたどり着いた。ここを登れば外にたどり着くのだろうか。

 俺は螺旋階段を上る。その螺旋階段は最初はカーブが急だったが、徐々に緩やかになってくる特殊なものだった。なぜこんな作りになっているのかはわからない。きっと何かをモチーフにしているのだろう。

 俺は女の子を抱え、階段をただひたすらに上った。無限に続くのではないかと思うほど。

 しかし、ありがたいことに終わりが見えた。光がカーブの向こうから反射してきているのだ。終わりが見えれば活力も湧くもの。その湧いた活力を以て俺は急いで光へと向かって走った。

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