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ジャクシン  作者: 初瀬川渚
夏編
6/15

「雀神、死んだとは言っても、あなたの魂はまだ依代に囚われたままで、完全に死んだわけではないの。まだ、あなたは生き返る術があるのだから――」

 和服姿の『私』が何かを言いかけた瞬間、目の前から彼女は消えてしまい私は突然のことに周囲を見回すと、同じく旅装の『私』の姿も消えていた。しかし、今度は黄色いパーカーを着たもう一人の『私』が立っていた。

「余計なことを、言われると困るんだよね。お前に生き返ってもらっちゃせっかく自由になれそうな私が、また不自由になっちゃうんだよ」

「今度はなんだ、お前は誰だ。『私』をどこに行ったんだ」

「私の名前は雀女丸さ。今の雀神……お前の依代にして私の仇敵きゅうてきだよ。彼女たちにはお前の意識世界から、ご退場願ったよ。それにしても、ここがお前の意識世界か。もっと、血なまぐさいところだと思っていたんだけど」

 雀女丸と名乗る『私』が興味深そうにぐるりと見渡すと、私の方へと視線を戻す。そんな、彼女の今の言葉の中に何か引っ掛かりを覚えつつも、彼女の存在が私を焦らせその引っ掛かりが次第に薄れて行く。彼女がここに現れたその理由はきっと――。

「お前、私の体を乗っ取るつもりか」

 私は険しい口調で雀女丸に問う。

「乗っ取るわけじゃないよ。私が自由になるまで体を借りるだけだよ。お前の体を使い続けるなんてごめんだよ。いや、でも私はずっと使われてきたんだから、私もお前の体を使い続けるのも悪くないのかな」

 私は口の中で、やはりと言いながら雀女丸は目を細めて悪戯っぽく笑う彼女を睨みつけた。

「冗談だよ。ちゃんと返すから、そんな怖い顔しないでよね。それにしても、あの毘沙門天ってヤツのおかげで、お前の意識の支配者になれたのは幸いだよ。あとは、お前の肉体の治療だけど、これは信仰の力と冬夏小太刀に宿る神気と私自身の気を使ってなんとかするんだけど、お前が自分の意識を再び掌握できないように、意識世界のお前を殺しておかないとね」

 彼女はそういうと、胸から一振りの刀が現れてそれを抜き取り、私に襲い掛かって来た。

 私は彼女の言葉を聞いて、自分にもまだ勝つ見込みがあるのだと気づくと自然と笑みを浮かべてしまう。それを見た雀女丸は向かってくる足を止め後ろに後ずさりする。

「雀、お前何が可笑しいんだ」

「いや、気にするな。口は災いの元、いや、口は禍の門と言った方が良いか。まあ、どっちでも良いか」

「お前、まさか」

「そのまさかだ。お前を殺し自分の体を取り戻す」

 私はそう言い放ち彼女と同じく胸から出てくる刀を引き抜き刃を彼女へと向ける。

 すると彼女は顔をうつむかせ小さく溜息をついた後、私をまっすぐに見合いこう言った。

「そう簡単に行かないよね。でも、私も勝算なしでお前に戦いを挑んでるワケじゃないのさ」

 彼女は大きく息を吸うと、左手を口に持っていくと指笛を吹く。すると、先ほど消えた二人の『私』が現れいずれも、刀を構え強烈な殺気を放ちながら私を睨みつけていた。この光景を見て、すぐに私は閃く。先ほど雀女丸は意識の支配者になったと言っていた。ならば、私もあの様に扱われていてもおかしくはない。つまりは、雀女丸は完全に私の意識を掌握していないに違いないのではないか。

 そもそも、この意識世界は未だに私が支配しているのではないか。そう考えていると、目の前に『太刀川の私』が突きの構えで迫って来ていることに気づき、咄嗟とっさに後ろに下がりながら、私は刀を下に構えてすぐに右手で思い切り上へと振り上げ、刺突しようと向かってきた彼女の刀は上に弾かれ大きく体を仰け反らせて、必死で体勢を整えようとするところに、一歩だけ私は踏み込むと、それを見た彼女は上から一気に刀を振り下ろす。しかし、一歩踏み込んだ私の行動は、彼女が刀をそのまま振り下ろすしかないと思わせるための陽動であり、すぐさま私は一歩下がると、案の定それに引っかかった彼女は大きく空振りをして、勢い余り地面に刀を食い込ませてしまい、すぐさま私はそれに足を置き刀が抜けぬように固定すると、置かれた足に気づいた彼女は私を見上げた瞬間に、首に刃を突き刺した。彼女は大きく目を見開き苦しそうなうめき声をあげたかと思うと、光の粒となり私の体へと溶け込んで来た。すると、彼女の思いが頭の中を駆け巡る……。

 先ほどの戦い方は、次代当主の座を賭けて決闘した時に、私が妹の鈴花に負けた時の場面と同じ戦い方であり、彼女はその時の追体験をしているような感覚だったのだ。あの時の私は長女としての誇りと尊厳。そして、太刀川家の家業への信念を誰よりも受け継いだと思っていた私は、甘やかされて育ちながらも自分より剣の才能に恵まれた妹に嫉妬し、それに殺意すら覚えていたのだ。その気持ちを彼女は私にぶつけていたのだ。そして、私は『私』に打ち勝ったのだ。

 しかし、この戦いは終わってはいない。旅装姿の『立川の私』が、そして雀女丸が未だ私の目の前に立ちふさがっているのだ。


「いやあ、自分で自分を殺すなんて滅多にない経験ができるなんて、お前は運が良いねえ」

 人をおちょくった笑みを見せながらそう言う雀女丸に私は勢いをつけて斬りかかると、それを遮るように『立川の私』が目の前に現れたかと思うと、上に構えた私を避けるかのように左から右への疾風の如く斬撃を繰り出してくるが、瞬時に後ろに下がり間一髪というところで回避する。あと一歩踏み込んでいれば確実に腹部からバッサリと斬られていたに違いなかった。

「危なかったね。でも、私としてはお前が早くやられてくれた方が良いんだけど……いや、それはそれでつまらないな」

 雀女丸が挑発めいたことを言っているのが聞こえてくるが、ヤツを斬るのはその後だ。そうでなくては、こちらが先に斬られてしまいかねない。

 冷たい嫌な汗が額から流れ落ちるのを感じながら、彼女と睨み合う形になる。お互い隙が無く動くに動けずにいるのだ。お互いにゆっくりと足を動かし様子を見合い地面と足が擦れる音が鳴り呼吸音も同じく一糸乱れずに同じ瞬間に息を吐き、そして、吸うを繰り返していると、足の動きと呼吸が少し合わなかった。その刹那、お互いがそれを機に斬りかかるが、私よりも彼女の方が一瞬早く咄嗟に受けに回るり鍔競り合いになる。そして、彼女はこう言い放つ。

「人を超え神になると、府抜けるのか。お前は私程度に後れを取るような存在ではないだろう」

 彼女が何を言いたいのかは、私にも分かってはいる。しかし、私が人間を止めたのは死を覚悟していたからであり、まさか神に祀り上げられるとは思ってはいなかったのだ。だからこそ、人間相手にましてや自分には人を超えた力を使いたくないのだ。そう思っていると、彼女はこう続けた。

「どんなに潔い戦いをしようとも、勝たなければ意味がないぞ」

 言い終わるや否や、彼女は素早く左手を刀から離し押しが弱くなったところを見計らい私は彼女を突き放し体勢を整えようとしたところに、彼女は間髪入れずに鞘を投げつけながら、走り込んで来る。

 投げられた鞘を防ぐことに気を取られている一瞬、目の前には突き出された刃が目の先にまで迫り防ぐも避けるもかなわないと悟り、私は目を閉じ気を集中させた――。

 目を開け瞬時に後ろを振り向くと、確実に私を仕留めたはずの『立川の私』が目の前から消えた私を探すように左右を見たてから、雑に刀を振りながら後ろを振り向くも、その刀は私に届かずに、彼女が私を視界に捉えた時には、すでに私に急所をつかれた後であった。

「その力、大切にしろ。さもないと雀女丸には敵わないぞ」

 一言そう彼女は告げると、先ほどと同じように彼女は光の粒になると私に吸い込まれて行く。彼女は妹の体を乗っ取った雀女丸との熾烈な戦いを後にした私であった。彼女が私に力を使わなければ勝てない。何故、そんなことを言ったのか分からない。確かに彼女は雀女丸と戦った存在ではあるが、人を超えた力を使わなければ負ける程の強さは持ち合わせてはいないはずだ。

 そこで、私はふと気づいた。彼女が言いたいことは、雀女丸が強いから気を付けろということではなく、私が剣士として弱くなっていることを危惧しているのだ。過去の自分にすら負けそうになった私が、意識世界とはいえ自身を解放している雀女丸を相手に勝てるのかということを――。

ずいぶんと更新が遅れてしまい申し訳ないです。

同時に書いてる短編に苦戦してまして。

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