友愛のいう名の殺し
「はぁ…はぁ…お前が、あの”フィリア”か…」
肩から血を流し、膝を地に伏せ、弱りつつある男が悲鳴を上げる。
彼の名前はマルコ=ラオ=オコーネル。
ある有名な石油企業の害虫駆除係りを取り締まる、ギャングのボスでいた男だ。
部下の数は傘下を合わせて5万人を超え、直接殺した数は100を超える。
警察でさえ怖くて手が出せない程に凶暴で残忍、そして知性に富んだ男だった。
しかし、今の彼は自分よりも10も20も若い子供に恐れ慄いていた。
厳重な警備を意図もたやすく突破し、眼前で銃口を向ける子供に。
逃げるかのように床を這いずり回り、出来るだけその子供、”フィリア”と呼ばれた殺し屋から距離を取ろうとする。
”フィリア”とは Philia -友愛- を意味する裏業界きっての殺し屋だった。
誰にも気付かれる事なくターゲットを抹殺する。
『彼女に狙われた人間は必ず殺される。』
マルコの弱り切った眼にはフィリアの靡く妖艶な黒髪だけが反射っていた。
「くそぅ!寄るな!来るな!化け物め!」
彼はそう言って、周りにあった枕やガラスコップなどを投げつける。
しかし、彼の震えた腕ではフィリアに当たるどころか掠る事さえなかった。
流血によるショックで意識が朦朧とする中、マルコはフィリアに怒鳴る。
「何故、お前のような化け物が、誰の命令で俺を狙う!俺を殺すのに見合った金は用意されたか⁉︎ ならば俺はその金の2倍!いや3倍の金額を用意することが出来る!」
彼の断末魔に、フィリアの口が開いた。
「心配するな。私は金に不自由はしていない」
果てなく濁り黒く染まったフィリアの眼光にマルコは身震いをおこした。
(こいつ、何て眼をしてやがる…)
彼はそう感じた。
そして、ゆっくりとマルコに近づいたフィリアは彼へと向けた銃口の鉛玉で彼の額を抉りとり、小さく弾けさせた。