いつもの日常? 1
日本語難しいな…
何故だろう…意識が朦朧としている。
…俺は今何処で何をしているのだろうか。それすらもわからない。
意識をはっきりさせるためにも今自分の置かれている状況を理解しよう。
周りを見渡してみると人が数十人はいるであろう部屋で前には大人が一人立っている。そして、それ以外の人は椅子に座って前を見ていた。
ああ、そうか。いまは――――――授業中か。
学校とは教育のための建物で、子供達に知識を与える場所だ。人間を育てる場所だ。
学校に入る前は養護施設で学校に入る年になるまで生活することになっている。
学校の学年は十二年体制で一学年に四~六クラスあり、一クラスは大体四十人ぐらいで構成されている。
特に、人ならざらぬ力《 根源たる力》を発現した者(発現者)を集めた特別なクラスが大半で俺のような普通の人間を集めたクラスは一クラスあるかどうかである。
「どうしたの翔君? ちゃんと聞いてないと怒られちゃうよ?」
ふふふと唇に手を添えて上品に笑いながら話かけてきたのは隣の席の雪那さん。
顔をこちらに向けたことでストレートの長い髪がふわりと中に舞う。
まだ垢抜けていない少し幼さが残るその顔は、その上品な動きとは対照的でとてもかわいらしい。
「…あ、ああ。そうだな。」
まいったな。雪那さんの顔に少し見惚れてしまい返事が遅れてしまった。
こんな事を雅に知られたらからかってくるに違いない。あいつ俺の恋愛に対して色々言ってくるからな。
翔は少し鈍感だとか何回言われたことか…
それにしても、今は何の授業をしているんだっけ?
「雪那さん。今は何の授業しているんだっけ?」
「…翔君。ずっと寝てたからわからないんでしょ? 今は歴史の授業だよ。」
目を細めて呆れたような目で俺を見てそう答えた。いや、そんな目で見ないでもらいたい。
俺にそっちの素質はない。
それにしても歴史の授業か。先生の話を聞いてみると確かに歴史の授業のようだった。
どうせいつもと同じ話なんだろうな。それはこの世界の話。
この世界…その名もアルカディア。
誰がそう名前を付けたのかわからないがこの世界はそう呼ばれている。
広大な街の世界…らしい。らしいというのも俺達学生は行動範囲が制限されていてあまり遠い場所まで行くことができないためこの世界がどれくらい大きいのか正確にはわからないのだ。
俺達人間は根源たる力を持っていて、その力は人それぞれ違う。
しかし、中には俺のように根源たる力を発現していない人もいる。
根源たる力を持っている、つまり発現している人を発現者、逆に発現していないものを非発現者と呼ばれている。
根源たる力は使えて当たり前という風潮があるため、非発現者は迫害の対象になりやすい。
かくいう俺もよくちょっかいを出される。ちょっかい程度で済んでいるのは俺がちょっかいを出してくる奴と喧嘩して返り討ちにするからだ。
たいていの発現者は根源たる力という優位性があるため非発現者に対して隙ができやすく、また根源たる力は体に負担がかかるらしく使っている間は動きが鈍くなる。だから、俺でも返り討ちにできるのだ。
中には強い奴もいて俺では手も足も出ない時があるが、その時は雅の力を借してくれてなんとか撃退できる。
雅は俺と違い発現者で限定的な力だがその力は強く並大抵の発現者では勝てない。
俺としてはくだらない喧嘩に親友を巻き込みたくないのだが、雅は困った時はお互い様だと言ってよく助けてくれる。
いい友人がいて、毎日を普通に過ごして俺は今の生活に多少の不満はあれど満足している。
しかし、そんな日常もいつかは終わりを告げるのだろう。
何をしても、何もしなくても終わらないものはない。
アルカディア…夢の理想郷。この世界の人間は死なない。
正確には肉体は滅びても魂は消滅しない。
肉体に多大な損傷を負って活動不能になると魂だけ抜けて肉体は朽ちて滅びる。
抜けた魂はアルカディア中央に位置している施設…ユグドラシルに行き新たな肉体を手に入れて新たな生命として生まれ変わる。
記憶などはなくなるため以前と全く同じというわけにはいかないが、魂は同じなため完全に前の存在が消えてなくなることはない。
消えるのは繋がりだけだ。
そして、俺達は死に対してあまりに無頓着すぎる。
それは、大切な人を永遠に失ったことがないためかもしれない。
だから誰かを失う事を、その意味を想像することができないのだろう。
だから思うんだ。それは偽りの永遠ではないのかと。
ただ終わりを知らないだけだと。
終焉は来る。必ず来る。
だから、それまで今の生活を謳歌しよう。
今の日常を大事にしよう。
…あれ? なんで俺こんな事考えているんだろう。
真面目に授業を聞かないと。
しかし、非情にも授業を終える合図が鳴ってしまい授業を聞かずに終わってしまった。
……世界って残酷なんだな。真面目に聞こうとしたのに…