非日常 2. 侵入
語彙力のなさに愕然するのであった…
同じ単語使い過ぎだろ…
さて、日常を取り戻すと言ったはいいが、どうするか?
今の現状でできることはなにもない。だからまずは、情報を集めることから始めよう。
確実にわかっていることは学校で何かが起きた事だけだ。
そして、その出来事とは生徒が死んだということが予想される。しかし、これは確実な証拠がないため正しいとは限らない。
生徒が死んだというのがただの噂話ならそれはそれでいいが、どのみち何か恐ろしいことがあったのは間違いないのだからこの事件を解決するのは日常を取り戻す上で必須。
俺の直感がそうさせるのか知らないが、なぜだかわかるのだ。この事件は間違いなく生徒が多数死んだ事件だと。それは、言葉では説明できない確信である。
最近感じる日常を守らなければならないという使命感。まるでこの事件は俺が解決しなければならないという感覚。
何かが始まってしまった気がする。きっとそれは、俺の運命を左右する重要な出来事。だから、俺はこの事件に首を突っ込まなければならない。
「…まずは、情報収集から始めよう。特に本当に生徒が死んだか確かめるのが最優先だ。やる、やってやる。俺はこの事件を解決してやる。」
「…本当にやるつもり? 基本的にゲーム以外は無気力、無関心、無感動の翔が珍しくやる気だね。」
目を開き、心底驚いたような顔をしたが、そんなに驚くことではないだろうよ…。俺がここまでやる気になることは確かに珍しいかもしれないけど。でも――――
「俺がやらなければならないんだ。」
「……やらなければね。まぁ、いいよやろう。このままほっといたら一人で首突っ込んじゃうんでしょ? でも、危ないことはしないからね。それでいい?」
手伝ってくれる人に強制なんてさせるわけがない。それに、危ないことは俺もできればやりたくない。
とりあえずは雅も手伝ってくれることだし、情報収集も楽になるだろう。
一人より二人のが早いのは当たり前である。
それに俺は非発現者だから人に聞いてもちゃんと答えを返してくれるかわからないし知っているかもわからない。
ならば、今やるべきことは自分の目で事件の現場を見るのが一番だ。
ほぼ確実に信頼できる情報が手に入り、真実にもっとも近い場所だからだ。
「学校に侵入し、現場を見に行こう。」
「それが妥当だね。それで、具体的には?」
雅も賛同してくれたことだしこれで行くか。学校の門の前には大量の生徒達がいた。
おそらく門が閉められているのだろう。また、門に見張りがいると考えるべきだ。
こんな事態になっているのに学校側が何も手を打たないってことはないはずだ。
たぶん、 あいつらがいる。つまり、正面から行くことはできない。
そして、学校は周囲が高さ3mほどの塀で囲まれており、学校の敷地内に入るための入り口は門しかない。
…つまり、逆に言えば塀を超えられれば何処からでも学校内に入ることができる。
しかし、塀によって外からは学校内の様子を見ることができない。
つまり、この異常事態に学校に侵入しようとする者を捕まえるために待ち伏せがいたとしてもその存在に気づくことはできない。もし、見つかったら事件を解決するどころではなくなってしまう。
さて…どうするか? いや、考えるまでもない。俺にはこんな所で何もせずに事が終わるのを待っているという選択肢だけは絶対にない。今、行動するしかない。
「門とは反対側の人のいない場所から塀を飛び越え校内に侵入する。」
「まさか、僕の力をあてにしてる?」
「もちろんだ。時間がない急ごう。」
時間が経てば経つほど現場の状況から得られるものは減っていく。完全に後片づけされたら情報が手に入らず手詰まりになってしまう。だから、多少強引でも行けるなら行った方がいいはずだ。
そして、俺達は門とは反対側に来たのだが…
「あれ、どう思う?」
「どうって…不思議な子だね?」
門の反対側には少女がいた。特徴的なのは腰付近まである長い髪。
髪が長いだけならば別に目を引かれるほどではないが、彼女の髪の色は白色…いや、美しい銀色であった。ちらりと見える肌は病的なはど白く、その姿は一度見たら忘れることのできないぐらいに異質であり今の俺達のように遠くから見てもその存在にすぐに気づけることだろう。それほどまでに世界から浮いていた。
「誰だろうなあの子…どこかで見たような気がする。一度見たら忘れもしなそうだけど…どこだったけ…」
「本当? 僕は初めて見たよ。」
「まぁ、見たことあろうとなかろうと俺達がやることは変わらない。あの子がいなくなったら学校の塀を越えるぞ。」
見たことある、ないなど関係ない。今関係あるのは誰かに塀を飛び越える所を見られるということである。
ここで騒がれたり、あとで怪しい奴らが門の反対側に居たと告げ口され犯人に仕立てあげられる可能性もある。
誰かのためにやるわけではないのだから誰かに見られて得することは何一つない。
なら、単純にいなくなるのを待つのがいい。この道に居座る意味などないのだからすぐにいなくなるはずだ。……いなくなる…はず…なのだが…
「何故動かない? 」
「さぁ? 僕に聞かれてわからないよ。」
さっきからピクリとも動かずにただ学校を見つめているだけ。見つめてる…?
「はっ! まさかやつも俺達と同様に学校に忍び込もうとしているのか! 」
ならば、ここから立ち去らないのも頷ける。しかし、妙だ。
もし、学校に忍び込もうとしているなら何故何も行動せずにただじっと立っている?
もしかして…このまま、学校を見続けることしかできないのか?
3mの塀を飛び越えるのは簡単ではない。何も準備してないのならまず不可能だ。
だが、その不可能を可能にすることが実はできる。根源たる力だ。根源たる力の系統によるがその力を使えば不可能を可能にできる。そして雅の力は塀を飛び越えることを可能にする。だからこそ俺達は何の準備もなしに来たのだが…
色々と考えているうちにいつの間にか少女が動き始めていた。
その足取りはとても重くゆらゆらとゆっくり塀に近づいていく。そして、塀の所まで行ってそのまま吸い込まれるかのように塀の中に消えていった。
「消えたな…」
「うん。消えたね。たぶんそういう力なんじゃないかな?」
物体を通り抜けできる力か。単純な力だがその効力は今見た通り便利そうだ。
だが、これはチャンスだ。あの少女ほど見つけやすい人が侵入できたんだ。今この時点、この場所からの侵入は成功する。待ち伏せも罠もない。
「よし。俺達も侵入しよう。」
「…ついに僕の出番か。あまり乗り気ではないのだけど…ここまで来たら行くしかないよね。」
そういって雅はバッグの中から四角い箱を出した。片手でギリギリ持てるぐらいの大きさの今は何の変哲もないただの箱。
「それじゃ飛ばすからうまく着地してよ?」
「…あ! 着地のこと忘れてた。」
高い塀を越えるのだから考えるべきことは乗り越える方法と乗り越えた後の降りる方法。…乗り越えることしか考えてなかった。普通に考えて3mからの垂直落下はまずい。何か別の方法を考えるべきだろ…。
「翔なら持前の身体能力でなんとかなるよ。」
「いやいや。御冗談でしょ?」
「それじゃ、まずは近づいてと。ほら、さっさとうつ伏せになって箱を掴んで。」
確かに時間が惜しくてここまで来たわけだが…やるしかないのか…?
雅はすでに箱を地面において近くに立って待っている。
大丈夫。俺ならうまく着地できる。…そう信じるしかない。
俺は塀に近づき、うつ伏せになって箱の側面を両手で力一杯強く掴む。
「よし。やってくれ!」
「いくよ。 予定調和の境界線!」
雅は思いっきり拳を箱にたたきつけた。たたきつけられた箱はそのまま変化はない。普通なら何も起きないのは当たり前である。しかし、今のこの箱は雅の力によって異質な箱になっている。
拳がたたきつけられて僅かなタイムラグの後に箱は何かの力に弾き飛ばされたかのように高く飛ぶ。
そして、箱を掴んでいた俺も箱の持つ運動につられて高く飛んだ。
恐ろしい力で箱の力に引っ張られる。
予想以上にきついぞこれ!
うまく調整されていたのかちょうど塀を越えるぐらいまでの高さまで箱と俺は高く飛んだ。
塀を越えれば箱など用無しだから手から離し着地の体勢をとる。
腕が痛い。引っ張る力が強すぎだろ。心の中でそう呟いた後で俺は頭を切り替える。
高い所から飛び降りても助かる方法はいくつかある。
そして俺は着地を頭の中でイメージする。
まず最初にやるべきことは体勢を落ちる時は足から落ちるようにすること。
頭や腰から落ちたら致命的である。では、手から落ちても大丈夫か? と言われればそうではない。
手から落ちた場合、手だけで衝撃を吸収できることはなく手の次に頭をぶつける。これではだめだ。
次に足から落ちた時の衝撃を吸収する。
足から落ちたとしても衝撃を吸収しきれなければ手から落ちた時の二の舞になる。
衝撃を吸収するために足は脱力。両足をそろえて軽く曲げバネを作る。
そして、つま先から地面に接地と同時に膝を左に出す。
この時、手は邪魔になるため脇を締めて後頭部を守るように置く。
そして、脛の外側で地面に着地と同時に上半身を右に捻る。そうすることで腿を地面に接地させる。
そのまま背中を体を回転させるように接地。
そうすれば自然と右肩の先を接地しながら体が回転する。
今回は水平方向の勢いは強くないからおそらく一回転で済むだろう。
このように足→脛の外側→腿の外側→背中→肩と衝撃を分散吸収し回転運動にさせる。その名も5点接地法。
こうすることで俺は3mの高さから飛び降りても無傷でいられる。
よし。いける!
まずは、足先から接地させ――――
俺が地面に足を接地させようとした瞬間水しぶきが高く上がる。
俺の全身は水でびしょ濡れになっていた。
どうやら、池に落ちたようだ。池はそこまで水位が高くなく胸当たりまでしかない。
そして、状況を理解すると同時にもう一つ水しぶきが上がる。
「下が水でも結構痛いね。」
「…雅よ。なぜ池があることを黙っていた。」
着地の心配をしてなかったことから雅はこの場所に池があることがわかっていたのだろう。
まじめに5点接地法とかやろうとしてた俺が馬鹿みたいだ。なんだよ5点接地法って…。冷静に考えれば素人が練習なしにできるもんじゃないだろう。
「わざわざ門の裏から侵入するから翔も知っていると思ってさ。でも、着地のこと心配してるからなんでかな~と思っていたけど知らなかったのね。」
…知らなくて悪かったな。
全身がびしょ濡れになってしまったのは想定外だが無事に侵入できたか。
池から出ると全身から水が滴り落ちていき足元に小さな水たまりができる。
さっさと池からでて校舎内に侵入するか。
最後に周りの様子を見る。特に様子の変わったことはないな。足跡が水により俺と雅の分の2つできてるが
少し時間が経てばなくなるだろう。
「とりあえず、いくぞ!」
そして、俺達は校舎内に入っていった。