いつもの日常3
前と同じ
モニターに映像が映し出されている。ゲーム画面である。そして、俺の手にはコントローラーがある。そう、俺達は《恋愛物語~Part1~》をプレイしているのだ。
いや、正確には俺はプレイしてそれを俺達が見ているのだ。
…なんとこのゲームは一人用だった。考えて見れば当たり前のことだが、恋愛という物は1対1でやるもの。つまり主人公は一人しかいないと考えられるのが順当である。
「…裏切ったな雅よ。」
「ん? 何のことだい? おっと、そこの選択肢は、どう考えても《君が元気なら俺はそれでいい》でしょ。」
「そうなのか? 俺はてっきり《全てを話す》だと思ったんだけどな。」
その後もプレイしながら進め、結局《恋愛物語~Part1~》を最後までプレイしてしまった。
以外にも内容のよい恋愛物で、記憶を失い自分のことを忘れてしまった好きな少女を影から助けていくものだった。
だが、なによりよかったのはゲームの世界観である。
地球という丸い惑星が舞台で現実とは似ても似つかない設定ばかりで新鮮さ感じながらも不思議と懐かしく思えてしまう設定は度肝をぬかれるものだった。
特にゲームの世界には根源たる力がなく、みんな和気藹々と過ごせる世界だったことだ。俺から見れば、その世界は魅力的で現実とは違いとても面白そうな世界だった。
「結構面白かったな。」
「そうだね。とても楽しめたよ。こんな世界に行ってみたいね。」
このゲームには人を引き付ける魅力がある。なかなか手に入らないほど出回らないのも頷ける。俺は今日という日を忘れないだろう。
もう少しゲームの余韻に浸っていたいが、時間が時間なので自分の部屋に戻らなくてはいけない。生徒は規則に乗っ取り行動しないといけない。例えば、帰宅の時間。部屋に戻る時間が門限を越えると罰則が与えられる。俺達は管理された生活を過ごしているのだ。
「今日はとても楽しかった。なんか似たようなゲームが手に入ったらまた誘ってくれ。」
「うん。似たようなゲームがあるかわからないけど手に入ったらまたやろう。」
「じゃあ、また明日な。」
そして俺は雅の部屋を出て自分の部屋に戻った。
部屋に戻った後も考えるのは今日やったゲームのことばかり。
別に恋愛物にはまったわけではないが、今の世界と違う世界観の自分と似たような環境…つまり、日常の風景を見るのはとても面白かった。
いままで、感じてきた感覚がいかに限定的なものなのかわかったからだ。
そして、俺はあのゲームをやりその世界観に触れたことではっきり言えることがある。
それは、俺が今の世界に不満を抱いているということだ。
いつでもどこでも人を分けるのは根源たる力ばかり。根源たる力を発現しているか発現していないかの二択だけ。
その人間の内面など関係ない。非発現者は常に発現者に捕食されるだけの存在。
非発現者は異端、唾棄すべき存在。
少ししか違わないのに扱いは天と地の差ほどある。
…全くもってくだらない。
少人数だから異端だとなぜ決めつけるのか。どうみても、人以上の力を使える発現者の方が異常なのだとなぜ気づかないのか。人でありながら人以上の力。どう考えてもおかしいじゃないか。
…この世界は狂っている。
そこまで考えて、自分が今何を考えているのか疑問に思った。俺は一体何を考えているんだ? 世界が狂っているだって…?
「…狂っているのは俺の方かもしれないな。」
知らずに自分の口からそんな言葉が出た。何が世界は狂っているだ。ばかばかしい。
世界がそういう風にできているんだからしょうがないだろ。現状を変えるのは難しい…いや、ほぼ無理だろう。受け入れるしかないんだ。
さぁ、今日はもう寝よう。明日があるんだ。…今日と変わらない、いつも通りの明日が。
…薄れゆく意識の中で俺は視界の端に人影を見た気がした。…あれは、誰だ? 女の子みたいに見えるけど…
しかし、俺は不思議と確認する気にはなれずに眠気に負けてそのまま眠ってしまった。
「……………………」
ゲームやる
↓
物思いに耽る
↓
眠る
↓
無言の圧力