いつもの日常 2
前と同じ
何やるのか、よくわからないが断る道理はない。
手を上げることで了解の意を伝えてから俺は自分の部屋に入った。
玄関で靴を脱ぎ自分の部屋を見る。いつもと変わらない自分の部屋。何時見ても殺風景な部屋。
…でも、なんだかんだで何もなくても自分の部屋ってだけで落ち着くんだよな。
いつもと変わらない自分だけの空間。それは、変わらない日常の象徴のようなもので、自分の帰ってくるべき場所である。
恐らく明日も今日と同じ。この場所に俺は帰ってくる。…でも、なんでだろう。
最近、何げない日常が非常に恋しく感じる。これからもこれまでのようにこの日常が続いていくはずなのに…
…おっと、さっさと行かないと雅を待たせてしまうな。てか、なにやるんだろうな。
まさか、今出回っている薬じゃないだろうな…出回っている薬とは、いわゆる麻薬に似たものである。
一度体内に取り込めば病みつきになってしまう中毒性の高いものである。
その上、その薬を打てば根源たる力を発現するという噂が流れていて、非発現者に対してはのどから手がでるほど欲しい代物だ。
そのため、非発現者の方が発現者より捕まった人数は多い。
…どこまで本当かわからないが、とりあえずは碌なものじゃないのは確かだな。
まぁ、そんなもんに手を出すわけないけどな。俺も雅も。
とりあえず、行けばわかることだしさっさと行くか。
そして俺は、鞄をテーブルの上に置き自分の部屋を出た。
しかし、この時俺は気づいてなかった。いつ見ても同じ部屋。
しかし、本当は今日はいつもと違っていたことを。
「………………翔」
誰もいないはずの部屋に小さな声が漏れていたことに。
日常は非日常に変わろうとしていたことに。
「それで、何をやるんだ?」
「ゲーム。」
ここは、雅の部屋だ。俺と雅の部屋は隣同士で近い。それもあってかよく一緒に遊ぶ仲になり今では親友と言える仲になった。
そんな俺達がよく遊ぶ時にするのがゲームである。俺は発現者ではないので基本的に中で遊ぶことが多い。
先生も言っていたように非発現者に対する風当りは冷たい。
外で遊んでいて俺が非発現者だと知られたら奇異の目で見られ異端者と罵られる。
大多数の人間から外れるとはそういう事だ。
人は自分のものさしでしか物事を測れない。そして、自分の基準からずれているものは異常と感じるのだ。
そういった点で、非発現者が異端と見られるのは仕方ないし、俺が発現者の方が異端に感じるのも仕方のないことだろう。
もちろん、例外というものはある。雅は発現者で俺のような非発現者とは違う。
だけど、俺と雅は親友だ。そもそも人と違うのは当たり前のことだから、いちいち他人と比べるのが間違いなのだ。他の人と違くても関係ない。そう思っているからこと俺達は親友でいられるのだ。
そして、俺達がよく遊ぶのがゲーム。ゲームは人を選ばずに平等にできるものだ。
そこには異常も通常もない。決められたプログラム内での行動しかできない代わりに平等性が保証される。そのため、俺達はよくゲームで遊ぶことが多い。
「それで、何のゲームをするんだ?」
「うん、今回するゲームはいつもと趣旨が違うんだ。簡単にいうと恋愛物かな。なんか翔ってこういうの興味なさそうだったから興味持ってもらおうと思ってね。雪那さんとのやり取り見てきたけど、このままだと進展なさそうだし、手っ取り早く気づいてもらおうってわけさ。」
ん?なんで恋愛の話で雪那さんが出てくるんだ? それより、恋愛物か。
俺は別に恋愛に興味がないわけではない…ような気がするんだよな。
「恋愛物とはまた変なの手に入れてきたな。面白いのかそれ?」
「ふっ、愚問だね。このゲームはなかなか手に入らないレアものなのさ。今回はたまたま手に入ったけど一度手放したら一生に巡り会えるかどうかわからないぐらいだよ。」
「へ~、そんなに凄いのか。なんて言うゲームなんだ?」
「《恋愛物語~Part1~》」
「え? なんだって?」
「だから、《恋愛物語~Part1~》だ。」
…なんだそのふざけた名前。何も考えずに名前付けただけに違いない。
Part1だし続きもあるのか? いや、ないだろたぶん。
根拠はないが続きはないような気がする。「続きはお前が実際にやるんだ!」みたいな感じで終わりそうだ。
「…なんか違うゲームやらね?」
「今、このゲームをバカにしただろう? 確かにふざけた名前さ。それにPart1のくせに続きはない。僕だって最初は疑ったさ。こんな名前に愛を感じさせないゲームが面白いわけがないと。でも、ゲームマニアの間では人気なんだ! だからこそめったに手に入らない。そして、やった者達は皆、口をそろえてこう言うんだ。「こんなゲームやったことない。久しぶりに懐かしい気分を味わえた。」と。」
やっぱり雅もそう思っていたのか。それに、続きないし。どう見ても面白くなさそうだろ。
こんなゲームをやるとか、地雷をわざわざ踏みに行くようなものだぞ。
…でも、雅がここまで熱く語るとは。もしかしたら面白いのか?
「雅がそこまで言うなら…やってみるか。ああ、やろう!」
俺は覚悟を決めた。それはまるで強大な魔王に立ち向かう勇者のように。気高く、恐れを知らずただ前だけを見つめて突き進む。さぁ、覚悟を決めた。やろうじゃないかそのゲーム。
「これは驚いた…凄いやる気だね。僕は嬉しいよ!」
そう言いながら雅は手を差し伸べてくる。ああ、そうだとも。俺達は親友さ。一緒にこの地雷のようなゲームをやろうじゃないか。そして、俺は差し伸べられた手を握った。
「じゃあ、さっそくプレイしよう。ちょっとまってて取ってくるから。」
普通に面白いことに越したことはないが、別につまらなくてもそれを笑い合える友がいる。
どんな内容であってもゲームを楽しむことができる。だからこそ、ゲームは止められない。
お、取ってきたようだな。さて、鬼が出るか蛇が出るか楽しみだ。雅の手にあったのは表面に手書きのような字で「恋愛物語~Part1~」と書かれたディスク。
「それが…」
「そうこれが」
「「《恋愛物語~Part1~》!」」
後書き変えるだけでも改マーク付くのね…
まとめ
麻薬こわー
↓
謎の人物が部屋に!なお、気づかない模様
↓
主人公とその友達はゲーマーだった。