窓拭き
廊下を歩いていると脚立に乗って窓を拭いているメイドを見かけた。
しかしそのメイド、脚立の上に乗っても身長が低いためか窓の上にまで手が届かない。
脚立の上で一生懸命背伸びしているが、その度に脚立がガタガタと揺れて非常に心臓に悪い。
「おっと、危ないぞ小刀莉。無理するんじゃない」
「え? あ、あわわわ坊ちゃん!」
「こら、脚立の上で暴れるな!」
「すすすいません!」
「だから落ち着け!」
―――
――
―
「どうも、押さえててくださってありがとうございます」
「構わないよ、でもなんで新人のお前が窓拭きなんかしてるんだ?
こう言っちゃあれだけど、身長も足りてないし大変だろ」
「うぅ、それは言わないでください……。この仕事、本当は刀彌埜さんの仕事なんですけど今日は……」
「あぁ、風邪引いたんだよな。僕もさっき見舞いに行ってきた所だ。ん? それじゃその分の仕事を押し付けられたのか?」
「い、いえ、違います! これは私が自分からやらせてほしいと頼んだんです」
「え、なんで?」
「それは、刀彌埜さんには私、このお屋敷に入った時からすごくお世話になってまして。その恩返しというわけでもありませんが何か力になれればと……あ、もちろん自分の仕事は終わらせましたよ! ……ダメ、でしたか?」
「いいや全然!
素晴らしいことだと思うよ!
この屋敷には雇用主を雇用主とも思わない貧乳メイドだっているからね。それに比べたら小刀莉はまじめなメイドさ。手伝いだって自分の仕事を終わらせてるなら、褒めこそすれ怒りなどしないさ」
「おやおや、坊ちゃんが刀彌埜の部屋でおかゆをぶち撒けた後始末をしていた貧乳メイドに対してなんて言い様でしょう。沙刀祢は悲しいです」
「さ、沙刀祢!」
「さささ沙刀祢さん!」
「はい、プリティーラブリーメイドの沙刀祢ちゃんです」
「プリティーでもラブリーでも何でもいいけど少しは笑いなよ。無表情でポーズとられても反応に困るって」
「えーとえーと、さ、沙刀祢さんとってもカワイイ、ですよ?」
「坊ちゃんにはダメだしされ、後輩からは気を遣われるなんて、沙刀祢はとんだ駄メイドですね」
「あーもーイジけるなって、床に『の』の字を書くんじゃない」
「わわわわ、すいませんすいません!」
「――と、言うのは冗談で、お二人は何をなさっているのですか?」
「えーと」
「窓拭きです」
「ふむふむ、刀彌埜が休んでいるのでその代わりですか」
「お~! さすが沙刀祢さん、一瞬で見抜くなんて!」
「あ、いえ、先ほどすれ違った刀乃祈から聞いていただけです」
「……そうでしたか」
「それはそうと坊ちゃん、ちょっとこちらに」
「ん? どうしたんだい?」
「ちょっとお耳を」
「?」
フ~
「わっ! 何をするんだ!」
「いえ、坊ちゃんが素直すぎるのでちょっとイタズラ心が刺激され」
「『刺激され』っじゃない!」
「まぁいいです。本題ですが――」
「『まぁいいです』は絶対に沙刀祢のセリフじゃないと思うんだけどね……で、本題って?」
「このまま小刀莉に窓拭きを任せていたら終わりません」
「あぁ~、そうかもね」
「ですので、坊ちゃんが手伝ってあげてください」
「え? うん、それは良いけど僕なんかで役に立つのかな?」
「いえ、一芸特化の坊ちゃんに掃除の腕は期待していません。ですが、坊ちゃんが手伝うことで坊ちゃん付きのメイドである沙刀祢が手伝う名目上の理由になります」
「なるほどそう言うことね。わかった」
「では、私は反対側から掃除してきますから坊ちゃんと小刀莉はゆっくりでもいいので丁寧に掃除してきてください」
「わかった……沙刀祢、ありがとう」
「……そのお言葉だけで十分ですよ、坊ちゃん」
―――
――
―
「あれ? 沙刀祢さんはどちらに行かれたんですか?」
「反対側から掃除してくれるってさ」
「それは……やっぱり私が不甲斐ないからですかね」
「いや、僕がやりたいってワガママ言ったら折れてくれただけだよ。
ほら、沙刀祢は僕の専属メイドだから。僕が働いてたら働かないわけにはいかないんだよ」
「な、なるほど! あ……でもなぜ坊ちゃんはやる気になられたんです? やっぱり私が頼りないから……」
「うーん、頼りないって言うよりも一生懸命だったからかな」
「一生懸命ですか?」
「そ、恩返しで自分の仕事以上の仕事をやって、背が届かないのに頑張って、そんな一生懸命な小刀莉を見てたら僕も何かやらなくちゃなって思ったのさ」
「そ、そんな、恥ずかしいです……」
「恥ずかしがることなんてないさ、とても立派なことだよ。僕も見習わないといけないな」
「あ、あぅぅ~」
「まぁ、とにかくやっちゃおう。まだまだ残りは多いからな!」
「はい!」
―――
――
―
「おや、坊ちゃんどうしました? もう朝ですよ」
「うぅ~、筋肉痛だ。窓拭きってあんな重労働だったんだな。普段使ってない所が痛い」
「ふむ、私たちが日頃どれほどの重労働に就いているのかわかってくれたようで嬉しいです。
この機会に賃金を上げるのはどうでしょう?」
「今でも十分多いと思うけど、考えとくよ」
「……えい(ツン)」
「ぐわぁぁぁ! さ、沙刀祢つっつかないで!」
「……えいえい(ツンツン)」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ! 沙刀祢! 遊んでるだろ!」
「筋肉痛に呻いている坊ちゃんが可愛かったもので、つい」
「『つい』じゃない!」
「わかりましたよ。それじゃ、ちゃんと治るようにマッサージしてあげますよ」
「え~、貧乳の沙刀祢じゃマッサージに何の希望も……」
「えい(グニィ)」
「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
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2/19 沙刀祢のルビ振り忘れ修正