第二十七回 ポーカー
小説を書くということは、読者相手にカードのゲームをするようなものです。
駆け引きが必要です。
ルールとテクニックを熟知しなければ勝てません。
読者の心理を読むのです。
そうすると、冒頭部分に置くべき情報は何か、エピソードとエピソードの間の切り替え、物語の転換の時期、そういった事柄のタイミングも見えてきます。いつでも何でもしていいってワケじゃない事に気付くんです。
読者との阿吽の呼吸を目指すことで、読みやすいだけでない面白い作品に仕上がります。
ただし、これはギャンブルに通じる感覚が必要です。
顔の見えない相手とのポーカーゲームです。表情に代わる反応は、数値だけです。感想文が貰えるならもう少しだけ楽に読めるかも知れませんが。感想を額面通りに受け止めるなら、その人は大負けするでしょう。
相手の心理を読むのは、感想を間に受けることとは違います。
新人賞など、完成原稿を投稿する場合はもっと難しい駆け引きが必要です。
実際の相手の反応は一切、何も解かりません。最初から最後まで、作者独りでシミュレートするのです。ここをこうすれば、読者はどう考えるか? それを計算しながら、パーツを組み立てていく。
参考になるのは、自身の過去の読書体験です。
感覚を研ぎ澄まし、新たな読書体験の中でプロの仕掛けを看破してください。
どういう書き方をされており、自身の心はどう動いたのか。
この部分は、小説における「技巧」の分野です。
気付いて、理解してしまえば、一晩で飛躍的に発達させる事も可能です。
ギャンブルの勘だけは、これは天賦ですけどね。そんなに大層な勘は必要じゃないですよ。
マニュアル化出来るくらいに、誰にでも理解可能な分野です。(小説の書き方の一部として)
こうして解説が出来るという事は、すなわち、マニュアル化が可能ってことなんです。
対して、努力では多分どうにもならない分野ってのもあります。
「技巧」に対する「感覚」の分野です。ギャンブル勘もそうですけど。
まず真っ先に出て来るのは「リズム感」ですかね。音楽の才におけるソレとは微妙に違うような気もしますが、大元は同じ才能ではないかなと。
読んだ時に感覚で、文章がおかしいとか、テンポがズレているとかが、解かるんです。
もう一つは「バランス感覚」です。
リズム感と密接な関係があると思いますが、小説をパーツごとに分けた時、それぞれの分量だとかが解かります。なんとなく。
起承転結のそれぞれをパーツ分けしたものだったり、一文における装飾と本体の割合だったり、テンポってのはこの割合の感覚の、最小単位ではないかなと思います。
これらはいずれも「感覚」なので、知識でなんとか出来るモノではありません。
言い換えれば、小説における才能は、感覚に依るところが大きいと思いますね。
努力で埋められるものじゃないというか。だから職業として成立するんでしょう。うん。
シンプルイズベストを極めた文章で小説を作ると、「感覚」がモノを言います。
才能でしか到達出来ない域でしょうね。




