姫と宝石
「姫と宝石」
お姫様は、あるとき、何気なく街をあるいて小道にそれてみると、
くらい場所に、派手な宝石店を見つけました。
確かにとても派手なのですが、
こんな薄暗いところにあるので、きらきらかがやくはずのお店が、
元気のないように感じられます。
おひめさまは、興味だけでお店のなかへはいってゆきました。
ちりりん、りりん。
お店のドアについている鈴がなります。
中は、これまた薄暗く、ちいさくて四角い形をしています。
右もひだりも、鮮やかな紫の壁紙、ショーケースには色とりどりの宝石。
入り口の向かいの壁には、ちゃんとレジがあって、
レジの奥につづくへやがあるのか、とびらがあります。
薄暗いお店のなかで、合わせ鏡になっているじぶんを見るのは、
少しこわい気がしました。
ガラスケースのなかの指輪やティアラ、ネックレスなんかはとても綺麗でしたし、
見たことのないような宝石だってあります。
ですが、どれも光があたっていないせいで、くすんでみえます。
なんてほこりっぽいのかしら。
おひめさまがぽつんとつぶやくと、
そのこえを聞いてか聞かずか、おくから青年がでてきました。
こんばんは。はじめまして、お嬢さん!
こんにちは、いかがなさいました?
笑顔のまま、お姫様にトコトコとちかづきます。
明るい茶髪で、ほったらかしたかのように肩まで髪があります。
服は、お姫様があまり見たことのない変わった服でした。
こんにちは、店員さん。
特に用はなかったのだけれども、たまたまみつけたから立ち寄っただけよ。
ここは薄暗いしほこりっぽいし、もうすこし明るいふんいきにしたらどう?
これじゃあ、お客さんも、よってこないわ。
店員は、こまったようなかおをしましたが、
すぐに笑顔になって、声をだしてわらいました。
そうですね、ほんとうに、わたしも商売あがったりなんですよ。
ところで、立ち話もなんですから、奥へ、どうぞ。
お茶とお菓子をお出しいたしますよ。
お姫様は、お茶と聞いてすぐに顔を縦にふりました。
すると店員は、すぐにお店の奥の部屋へ案内しました。
奥の部屋は、お店と変わらない雰囲気です。
薄暗い部屋に、オレンジの光のランプがあります。
部屋は丸い形で、真ん中には複雑な模様のテーブルクロスのかかった
丸いテーブルがあります。
店員は、そのテーブルに設置してあるイスをひいて、
どうぞ、と座るようにうながしました。
お姫様は得意になってイスにすわります。
店員は、棚をあけて、クッキーとティーポットをだすと、
棚の上のお皿にあけたり、ティーカップにそそいだりしています。
棚の上にも、お店にあるような宝石達がたくさんあります。
その間に、お姫様はじっくりと部屋のなかをみまわしました。
部屋は、お姫様が壁伝いに、
30歩もあるけば戻って来れるくらいの広さです。
ですが、棚やらなにやらがあるので、
もっとせまく感じられます。
あなたはここにすんでいるの。
そうですねぇ、お客さんはいつ入ってくるかわかりませんから。
かわった宝石ばかりね。
わたし、たくさんの宝石を見てきたけれども、
ここのお店にあるのはどれも見たことのないものばかりよ。
そうでしょうねぇ。
店員は、ティーカップとクッキーの入ったお皿の乗ったお盆をもってきて、
おひめさまの目の前にあるテーブルに置きます。
お姫様は、香りでジャスミンティーだとわかると、早速口をつけました。
ねえ、あの宝石はどこからきたのかしら。
あんなに綺麗な宝石だったら、みんな絶対買いにくるとおもうの。
そうですか?あんまりひっそり経営しているのでねえ・・・
そうなの。そうよね。
ねえ、あれは、アメジストよね。これはきっとガーネット。
わたし、このオパールが一番すきよ。
すると、店員は、お姫様が指を指していった宝石を手で示して、
これは、老女の憂鬱です。
こっちは、少年の恋。
そして、これは、未来への希望。
と答えました。
なあに、それ。
変わった名前をつけるのね。
実際そうなんですよ。
私の店にあるのは、ここへ訪れた人々の、心なのです。
店員は、ジャスミンティーをひとくち。
お姫様は、なんとなくつられて、ジャスミンティーをひとくち。
ここの店に来る人々は、心になにかがある人々ばかりなんです。
そこで、わたしがその心のおもりを取り去るべく、
宝石にかえて差し上げているというわけです。
そうなの。そんなもの、売れるのかしら。
ひと、というものは、みんな無い物ねだりなのです。
人にあるものばっかりほしがって、じぶんのものはきりすてたがる。
ですから、あるひとにはいらなくても、
他の人から見たらものすごく魅力的なものだったりするのですよ。
そう、ね。わかるわ。
だって人が持っていてじぶんにないなんて、
とってもふこうへいだもの。
おひめさまは、うんうんとうなづいて、
じぶんのまわりにある宝石を手に取って見始めました。
お姫様は、ひとつだけ、見たこともない色の宝石を見つけました。
これは?
手に取ったのは、ブラックオニキスにしてはまっくろで、
かがやかずにふかくふかく闇をたたえている宝石でした。
それは、ある青年が、どうしても一緒に居たくないと、
私に宝石にかえてほしいと、頭を下げてねがったものです。
これは、何の感情なのかしら?
わたし、こんなまっくらなものをみたのは、はじめてよ。
それにわたしは名前をつけることができません。
こんなに真っ黒なものを見たのは、わたしも初めてですから。
この感情は、人に人気の高いものなんですよ。
いつのまにかひとがもっていて、
かつ、手放そうとしない。
そう、そんな素敵な感情なのに、
どうして手放してしまったのかしら?
わたし、これほしい!
店員は、こまったかおをして、
ですがすぐに、ほほえんで、さしあげましょう!といいました。
おひめさまは、おいくら?ときいたのですが、
お代なんていりませんよ、とその石をおひめさまに包みもせずにわたしました。
おひめさまは、それをポケットに入れて、
うれしそうに店員とはなしはじめました。
ずいぶんとおしゃべりしていると、
ティーカップのジャスミンティーがなくなって、
おひめさまは、もう帰るわ、と立ち上がりました。
お嬢さん、その、ポケットの宝石ですが、
おうちにかえってから出したほうがよろしいでしょう。
わかったわ。
では、またね。
おひめさまは、軽いあしどりでお店の外にでました。
そして、お城に帰ろうと、メインストリートをあるいてゆきます。
背中には夕日があかあかともえています。
今日はとてもたのしかった!
おひめさまは、そのままお城へもどりました。
そして、すっかり石のことをわすれて、
夕ご飯も着替えも、お風呂もすませて、
ベットにつきました。
その夜、お姫様の服を整えていたメイドが、
ふくからころりとおちた石をひろいあげました。
彼女は、なにを思ったのか、
それをじぶんのポケットにいれたのです。
『店員さん、俺、感情を売りたいんです。』
『はいはい、どのような感情で?
・・・それを売ってしまうなんてとんでもないですよ。』
『いいんです、いらないです、彼女と一緒に生きていけるなら。』
怒りを、憎悪を、嫉妬を。




