CLUB-N サンシャイン
「真琴、またねー!」
「ばいばーい!」
学校を出て駅で別れた友達に手を振ると、イヤホンをつける。リズムに乗って歩いてるとあっという間に裏路地だ。
暑いのに頑張ってるストリートミュージシャンのギターケースにチョコを入れて、「溶けてるよ」と笑われる。
「今夜は店くる?」
「客来なかったらね」
「あはは、がんばって」
お馴染みの言葉で手を振りながら、あたしは路地の先の青い扉へと向かった。
ここはミュージックCLUB-N。
元ミュージシャンだったお父さんが経営してるから、自然と音楽好きが集まる場所になった。気の向くまま常連さん達がセッションしたり、アマチュアバンドの定期LIVEなんかもやってる。
制服にエプロンをサッと付けると、お父さんがBGMを変えた。さすが、分かってるじゃん。お客さんを向かえるワクワクが、足が浮き立つ。
今日はどんな音楽に出会えるんだろう。
***
店内に入ってきたお客さん達が口々に「生き返った」なんて言ってる。
さっきチョコあげた人なんて、ちゃっかり涼みに来てるから、からかいながら、冷たい水を出した。また演奏しに戻るのはいつものことだしね。
客足が落ち着いて来た頃、常連の八木さんがカウンターに移動してきた。
「お父さん、サンシャイン追加!いつもの~」
「はいよ、ドライめにな」
八木さんは軽く手を上げる。ふざけてウインクするお父さん。もー、あたしが笑っちゃうじゃん。
シャカシャカとリズミカルに振られるシェーカー。この音好きだな、って思いながら店内を巡る。
「真琴ちゃん、手空いた?」
「そろそろ!今日もいっちゃう?」
「いいね」
ギターを持った八木さんが声を掛けてくれた。サッとテーブルを片付けたあたしは先にステージに上がった八木さんに笑顔を向けた。
~♪
弾き語りを始めた常連さん。
あれ?いつもと雰囲気が違う。
「6/8かぁ。エキゾチック。ううん、なんか懐かしい」
「あれはね、八木さんのインディーズ時代のなんだよ」
「へえ!」
聴いたことのない曲だった。優しく降り注ぐ雪解けの太陽みたいだ。包まれて心地よくて、歩く足が、体が、八木さんの奏でる曲に呼応して動く。
プロだった時の八木さんは、V系寄りアイドルだった。その頃のダークさとは声まで違う。
でも、そんなのどうだっていい。
ここに来てくれてる人達は、今を奏でるんだもん。
エプロンを外したあたしは、八木さんの世界の中に溶け込みながらステージ上のドラムの前に座る。
この感じなら、絶対スティックじゃない。あたしブラシを手にした。
よし!上手く乗れた!
気持ちいい!溶けちゃいそうだ。
八木さんがこっちを見て少し笑う。
ああ、今日はすごく気分がいい日なんだね。八木さんの音が教えてくれる。
息を合わせてふわりと終わらせる。
しんと静まり返っていたCLUB内から、遅れて拍手が鳴り出した。
「八木さん!今の何?すごく気持ちよくて天国行きそうになった!」
「ははっ、即興やるつもりだったんだけどね。真琴ちゃんが働いてるの見てたらやりたくなった」
「あたし?いつもと変わんないよ?」
だからだよ。と、八木さんはニッと笑う。
「マスターがいて、みんながいて、そこに太陽みたいな真琴ちゃんの笑顔があるだろ。ああ、ここはやっぱいい所だって思ったらさ、これ弾いてたんだよね」
「いい所なのは八木さんもいるからだよ」
「そっか。じゃあ、今度こそ即興いくか」
「うん!」
話してる間に他のお客さんもステージに上がって来た。
あたしのビートに次々と乗ってくるみんなは、戦うみたいに熱いセッションを始めた。
みんなサイコーにカッコイイよ!てか、八木さん、難しいので攻めてこないでー!
演奏の熱が冷めやらぬままあたしは、カウンター内でキュッキュッとグラスを拭き始めた。
「太陽の精霊」
「それ、もしかして八木さんの?」
「よくわかったな」
「うん、なんかね温かく包まれたんだ」
そっか、とお父さんはおつまみを盛り付ける。
ここは色んな人が来る。
だから、今が一番って思ってくれる瞬間をあたしはこの店で過ごして欲しいの。
きっと八木さんの今日の一番が『太陽の精霊』を奏でてくれた時かもしれない。
勝手な思い込みだけど、誰かのために演奏してた感じだったのだけは伝わったんだ。
ここはミュージックCLUB-N。
みんなの歩いてきた道、これから歩く道が繋がってる場所。
あたしはそう思って、お父さんと店に立ってる。
~完~




