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地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます  作者: 久遠翠


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第07話「輝きと、忍び寄る影」

 海外プロジェクトの大成功は、私とホライゾン・テクノロジーズの名を、一気に業界のトップへと押し上げた。

 テレビの経済番組から特集取材のオファーが舞い込み、私は蓮と共に、会社の顔として出演することになった。


「相沢アドバイザー。その驚異的な分析力は、まさに未来予知だと業界で話題ですが、ご自身ではどうお考えですか?」


 テレビカメラの前で、アナウンサーからそう質問される。

 昔の私なら、緊張で声も出なかっただろう。しかし、蓮の隣にいる今は、不思議と落ち着いていられた。


「私は未来を予知しているわけではありません。ただ、データという過去と現在の事実を積み重ね、その延長線上にある、最も可能性の高い未来を提示しているだけです」


 私がそう答えると、スタジオからは感嘆の声が漏れた。

 隣に座る蓮が、誇らしげな、そして愛おしさに満ちた眼差しで私を見つめている。その視線が、私に何よりの自信を与えてくれた。


 番組が放送されると、大きな反響があった。

 SNSでは「ホライゾンの相沢さんって人、めちゃくちゃ知的でクール!」「一条社長とのコンビ、最強すぎる」といったコメントが溢れ、私の名前はビジネス界隈だけでなく、一般の人々にも知られるようになった。


 街を歩けば、「テレビで見ました」と声をかけられることもある。

 地味なOLだった私が、一夜にして時代の寵児となったのだ。会社の業績も絶好調で、新たなプロジェクトが次々と立ち上がる。その中心には、いつも私と蓮がいた。


 仕事が充実すればするほど、蓮との絆も深まっていった。

 私たちは、互いにとってなくてはならない存在になっていた。仕事の最高のパートナーであり、プライベートでは誰よりも深く理解し合える恋人。そんな完璧な日々に、私は満たされた幸福を感じていた。


 しかし、光が強ければ、影もまた濃くなる。


 その日、仕事を終えた私が会社のビルを出ると、見慣れた人影が私の前に立ちはだかった。

 痩せて、どこか憔悴した様子のその男は、信じられないという目つきで私を見つめていた。


「……美月、なのか?」


 その声の主は、高遠彰だった。


 彼との再会は、あまりにも突然だった。

 高級ブランドのスーツを着こなし、自信に満ち溢れていたかつての彼の姿は、どこにもなかった。くたびれたスーツに、覇気のない表情。私と別れてから、彼に何があったのだろうか。


「久しぶりね、高遠」


 私は、努めて冷静に言った。

 もう、この男に対して、何の感情も揺さぶられない。あるのは、過去の遺物に対する、わずかな憐れみだけだった。


「テレビで見た。信じられなかったよ。あの地味だった君が、まさか、あんな……」


 彼は言葉を失い、今の私と、彼の記憶の中にある過去の私とを、見比べているようだった。


「何の用? 私、急いでるんだけど」


「待ってくれ! 話があるんだ」


 彼は必死の形相で私の腕を掴んだ。その力強さに、思わず顔をしかめる。


「頼む、美月。もう一度、俺とやり直してくれないか」


「……は?」


 彼の言葉が、理解できなかった。何を言っているんだ、この人は。


「君を捨てたこと、ずっと後悔していた。俺は、君という才能の原石を、自分の手で手放してしまったんだ。今ならわかる。君こそが、俺にとって最高のパートナーだった」


 その言葉に、私は怒りを通り越して、呆れてしまった。

 彼は、私がホライゾン・テクノロジーズで成功したから、手のひらを返したにすぎない。結局、彼は何も変わっていない。私のことを見ているのではなく、私の持つ「価値」を見ているだけ。


「お断りするわ。あなたのキャリアにとって、今の私はプラスになるかもしれないけれど、私にとって、あなたはもう必要ないの」


 私が“K”として彼らの会社を分析するまでもない。明誠商事の業績が悪化しているという噂は、私の耳にも届いていた。時代遅れの経営方針、そして私という分析能力者を失ったことで、彼らの未来が明るくないことは、容易に想像がついた。


「そんなこと言わないでくれ! 東邦銀行の令嬢との話も、会社の業績が傾いたせいで、破談になってしまったんだ。俺は、すべてを失った……。頼れるのは、もう君しかいないんだ!」


 彼がみっともなく私の足元にすがりつこうとする。その時だった。


「彼女に、何をしている」


 低く、静かだが、有無を言わせぬ迫力のある声が響いた。

 振り返ると、そこには、冷たい怒りを瞳に宿した蓮が立っていた。

 彼は私の腕を掴む彰の手を乱暴に振り払うと、私を自分の後ろに庇うように立った。


「一条……蓮……。ホライゾン・テクノロジーズの……」


 彰は、突然現れた業界の寵児に、完全に気圧されていた。


「僕の大切な人に、二度と馴れ馴れしく触れないでいただきたい。お引き取りを」


 蓮の言葉は、絶対的な王者の風格を漂わせていた。

 彰は何も言い返すことができず、悔しそうに唇を噛み締めると、すごすごと夜の闇に消えていった。


「……大丈夫だった、美月?」


 蓮は、心配そうに私の肩を抱いた。

 私は彼の胸に顔をうずめ、小さくうなずいた。彰との再会は不快だったけれど、蓮が守ってくれたことで、心は不思議と穏やかだった。


「ありがとう、蓮さん」


「当たり前だろ。君は、僕が一生かけて守ると決めた人なんだから」


 彼の力強い腕の中で、私は改めて実感していた。

 私はもう、一人じゃない。この人がいれば、どんな困難も乗り越えていける。


 しかし、この時の私はまだ知らなかった。

 彰の出現が、私たちの輝かしい未来に暗い影を落とす、ほんの序章に過ぎないということを。そして、彼の歪んだ執着が、やがて私たちを、思いもよらない窮地へと追い込んでいくことになるのを。

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