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エレガントな紳士、荒廃世界を改革する〜有能すぎて天界を追放されたので、天使たちが嫉妬に狂うほどの楽園を築いて、優雅に紅茶を嗜むことにした〜  作者: 古月
新宿蛮族編

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第16話 神の声?

 そして――――チン。


 エレベーターが地球に到達したようだ。


 手動式なので自分で格子(こうし)扉を開ける。思ったよりも重くて、ギィィと音を立てながらゆっくりと開いていく。



 そこは――緑に飲み込まれた廃墟だった。


 瓦礫(がれき)が山のように地面を(おお)い、(つた)(こけ)が全てを這い回っている。かつて高層ビルだった建物は、外壁が完全に()がれ落ち、()びた鉄骨の骨格だけが巨木に絡まれて空を突いていた。


 遠くに見える特徴的な双塔――あの(つい)になった構造は、東京都庁だろうか? 片方のタワーは中層部から崩れ落ち、もう片方は骨組みだけが不安定に立っている。核が落ちてから500年――風雨にさらされ、もはや原型を留めているとは言い難いが、その配置と高さから、かつての姿が辛うじて想像できた。



 ということは、ここは新宿か。



 変わり果てた東京の姿に胸を痛めながら、私達はエレベーターから下りる。するとこの場に似つかわしくないレトロなエレベーターは光に包まれて消えてしまった。


 不安定な瓦礫(がれき)の上でバランスを取る。核が落ちたと聞いていたから予想はしていたが、実際、()の当たりにすると何とも言えない気持ちになる。会社でデータ復旧をしていた頃のことは、もう思い出せないくらい昔のことだ。あの時の私は目の前の興味関心に夢中で、未来のことなど考えていなかった。もしこうなることがわかっていたら、何か別のことをしていただろうか。


 いや……淡い郷愁(きょうしゅう)になら、いつでも(ひた)れる。今はこの荒廃した世界でどう生き抜くかを考えねばならない。


 メタトロンの話によると、地獄の奴らが地球になだれ込んだという。慎重に動かないと、よくわからないうちに、よくわからないモンスターに殺されてしまうかもしれない。



 まずは衣食住の確保。そのために何がどうなっているか、探索して確かめてみよう。




【――()ぐ、(なんじ)は『指導者』に選ばれたり】




 そう思って歩き出そうとした時、私の脳内に突然、女性の声が語りかけてくる。まるで聖書に出てくる神のような格調高い喋り方だ。



(なんじ)の信仰力は皆無なり。六つの月を()ずして、千の魂より信仰を集めよ。さもなくば我、(なんじ)を滅ぼさん】



 この失礼な女はいったい何者なのだ? 急に語りかけてきて、私には友達が1人もいないみたいな言い方をしてくる。ケルビーとサリーはその信仰力とやらにカウントされないのか。


「……今の声、聞こえました?」


 試しに尋ねてみると、2人とも顔を見合わせて首を傾げている。


「声って、何のことですか?」


 隠しても仕方がないと思ったので、私は今聞こえた声について話した。


「そ、それってもしかして……神様の声では?」

「うーん、もしくは悪魔の(ささや)きか。女性の声でしたけど、神様って女神なんですかね?」

「神様に性別はないですよ。でもきっと、お美しい姿をしているに違いありません」


 どうりでルシファーやメタトロンが執着するわけだ。あの美声を聞いたら、また聞きたくなるのもわかる気がする。


 待て待て、そんなことよりエレベーターはどこだ? 今すぐ天界に行って「神、いるかもしれませんよ!」と大興奮しながらメタトロンに知らせてあげたい。でも、悲しきかな。天界に戻る方法がわからない。


 するとサリーが口を開く。


「お前、神様に滅ぼされるのか。可哀想にな」

「いや、まだ確定はしてませんよ」

「えっと、【六つの月を経ずして、千の魂より信仰を集めよ】でしたっけ? おそらく6ヶ月以内に、1000人分の信仰力を獲得せよってことかと」


 動画配信者に例えれば、半年でチャンネル登録者数を1000人にしろということか。しかもこの荒廃した世界には動画投稿サイトはおろか、通信インフラもなさそうだ。なかなか厳しいと言わざるを得ない。


「それにしても、信仰を得るにはどうすればいいんでしょうね。私のために祈りを捧げてもらうとか?」

「あ、それならやってみますね」


 そう言うとケルビーは両手を合わせて祈りのポーズを取る。さすが天使だ。様になっている。


「神よ、ルシエルさんがいつまでも健やかに過ごせますように」


 そんなささやかな祈りでよいのだろうか。私の健康を神に祈っているだけだが。

 しかしその時、頭の中に数字が浮かんできた。



【信仰力:0 → 1】



「……増えましたね」

「やったやった!」


「オレもやるぞ」


 大仏のように手を合わせながら、サリーが言う。


「神よ、ルシエルの本気が見たいです。オレなんかじゃ全然相手にならないから、ルシエルが『おっ、これは本気でやらないと』って思うような強敵を送ってください。そしたらオレも勉強になります」


 思ったよりも健気で可愛いやつなのだ、サリーは。ありがた迷惑な祈りだが。



【信仰力:1 → 2】



「……増えましたね」

「よしよし」


 2人とも満足そうにしているけれど、これをあと998人分やらないといけないのだ。さもないと私は神なのか悪魔なのかわからない存在に滅ぼされる。


 あの美声の持ち主は本当に神なのか? 『指導者』とは何なのか? なぜ信仰力を集めさせるのか? 

 謎は多いが、ひとまずはやるべきことをやろう。


 とにかく人がたくさんいるところに行く必要がある。1000人しかいないところで全員から信仰を集めるのは難しいが、1万人のうち1000人なら十分に実現可能だし、多ければ多いほどいい。


 私達は荒廃した新宿の町を歩きながら、情報を整理することにする。


「そう言えば、旧人類は全員、地獄に行って悪魔に転生したんですよね? 彼らは地獄のゲートを通って、また地球に戻ってきたのでしょうか」

「おそらくな。元人間の悪魔たちと、地獄生まれの悪魔たちが混在しているはずだ」


 今さらながらサリーがついてきてくれて良かったと思う。地獄のことなら彼に聞けばいい。


「地獄生まれの悪魔たちと、元人間の悪魔たちを区別する言葉はありますか?」

「ああ、地獄生まれの悪魔たちは『ヘルボーン』。元人間の悪魔たちは『罪人』だ」

「罪人? そのままですね」

「わかりやすいからな」

「ヘルボーンは罪人を()らしめるのが仕事なんですかね?」

「奴らはただ楽しいからやっているのさ。それにみんなルシファーを信奉(しんぽう)している。何せ、ルシファーから生み出された存在だからな。きっとここでも罪人どもをいじめているだろうぜ」


 それを聞きながら、私は「『指導者』に選ばれた」という言葉の意味について考えている。他にも選ばれた者がいるのだろうか? それはヘルボーンか? 罪人か? それともその中に……ルシファーがいるのだろうか?


 楽観的に考えるべきではない。最悪のシナリオを考えておこう。そうすれば、何が起きても動揺せずに対処できる。


 まず、ルシファーは地獄の王だ。地球へのゲートが開いたら、嬉々としてここに来るはずだ。そして彼も『指導者』として信仰力を集めているとしたら……? これが信仰力を獲得する競争で、その行き着く先に何か、世界の主導権を握る的な目的があるとしたら……?


 それが何であれ、ルシファーを野放しにするわけにはいかない。他の指導者たちのことはわからないが、あのメンヘラだけはダメだ。


 やれやれ。こんなにスケールの大きい話になるとは思っていなかったぞ。地球に行ったら、光魔法を使って悠々自適に暮らそうと思っていたのに。


 さらに言えば、しばらくは仙人みたいに引きこもって、ケルビーとサリー以外の知的生命体とは距離を置くつもりだった。天界では自分の立場を優位にしようと常に気を配っていて、正直、疲れてしまったからだ。


 元来、私は内向的な性格なのだ。1日中、人と話さなくても生きていける。むしろ話したくない。


 でも根暗な人間だと思われると舐められるので、いかにも外向的な人間のふりをしている。それがあまりにも板についているものだから、みんなには私が素晴らしく社交的な人間に見えているのだろう。でも、本当は真逆だ。


 ああ……信仰力を獲得するためには、たくさんの人間と関わらねばならないだろう。しかもほとんど強制的に。もし神様がいるとしたら、汚い言葉を承知で言わせてもらいたい。



 くそったれ。

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