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エレガントな紳士、荒廃世界を改革する〜有能すぎて天界を追放されたので、天使たちが嫉妬に狂うほどの楽園を築いて、優雅に紅茶を嗜むことにした〜  作者: 古月
天界編

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第11話 DX推進評議会

 そうして――100年の月日が流れた。



「ルシエルさん、おはようございます!」

「うっす、ルシエルさん」

「今日もエレガントですね」


 毎朝、私が食堂に行くと天使たちが挨拶してくれる。私も微笑んで「おはようございます」と返事をする。


 ときに挨拶というのは基本的に先にした方が有利なものだ。手っ取り早く相手の脳に「いい気分」を与えられる。コストゼロなのに効果は絶大。最強のコミュニケーションツールである。


 逆に周りの方から積極的に挨拶してくれるということは、掛け値なしに私がそれだけの影響力を持っているということだ。


 といっても、不老の天使たちにとって100年など(またた)く間のことだが。それでも私の提案に耳を傾けてくれるくらいの信頼関係は築けたはずだ。


 ところで、メタトロンはこの100年間、手をこまねいて見ているだけだった。私はコツコツと地道に信用を得ていただけで、(とが)められるようなことは何もしていない。それに天使の時間感覚はぶっ飛んでいるから、ご多分(たぶん)にもれずメタトロンものんびり屋なのだろう。


 だがメタトロンの思惑(おもわく)がなんであれ、私は遠慮なく旧人類データのデジタル化を提案しよう。


 そう、すでに準備は万端だ。百人以上の天使たちから署名も貰っており、メタトロン対策もばっちりである。


 そして光魔法の研究も密かに進め、かなり多くのことをできるようになっている。地球に行けばさらに実践的な検証もできるはずだ。これで大規模システムを構築して旧人類滅亡の原因を解析、ゆくゆくはシミュレーション環境で数万パターンを並行テストなんかもできるだろう。


 もちろん、さらに膨大(ぼうだい)な時間がかかるだろうが——


 それでも一歩ずつ着実に物事が進むだけで、これほど楽しいことはない。




   ★★★




 そして翌日――ついに評議会が開かれた。


 天界の最高意思決定機関である評議会は、メタトロンを筆頭とする熾天使(してんし)たちや中級・下級天使の代表者も含め構成されている。私は提案者として、彼らの前に立っていた。


「では、ルシエル。お前の提案を聞こう」


 メタトロンの重厚な声が響く中、私は(うやうや)しく一礼する。


「はい。旧人類データのデジタル化計画について説明させていただきます」


 そうして私は、これまで準備してきた資料を広げた。データベース設計図、作業効率の試算、必要なハードウェアのリスト――もっとも実際は光魔法で構築するから、これはよくできたダミー資料だが。


「現在の手作業では、残り50億人分のデータ整理にさらに約100年を要します」


 ちなみにもう50億人分は分類し終えている。以前の天界なら1億人も終わっていなかったのではないか。分類したとしても、おそらく何かの分析に使える状態にはなっていなかったはずだ。で、結局やり直すはめになる。今の分類も最適とは言えないが、デジタル化する際の土台としては十分に機能してくれる。


 さらに、ジャム改革にも効果はあった。全体の進捗に応じてジャムの種類が増えるので、チームワークも向上したようだ。まさにたかがジャム、されどジャムである。


 さて、私は言葉を続ける。


「しかしデジタル化により、これを50年に短縮可能です」


 その数字を聞いて、セラフィナが身を乗り出した。


「素晴らしい! それほどまでに効率化できるのですか?」

「ええ。控えめに見積もって50年ですが、システムが成熟すればさらなる短縮も可能でしょう。10年で終わるかもしれませんね」

「10年……! 我々が100年かけてきた作業が、たった10年で?」



「ええ、まったく……100年の伝統より、10年の成果の方が神様もお喜びでしょう」



 おっと、いけない。つい悪い癖で、思ったままに皮肉を口にしてしまった。


 その言葉にメタトロンは何か言いかける。でも彼が気の利いた反論を思いつく前に、私は言葉を続けた。


「さらに……検索機能により、パターン分析も飛躍的に向上します。新人類の社会設計に活かせるパターンも瞬時に発見できるでしょう」


 すると下級天使たちからも感嘆の声が上がる。


「ああ! 私達の付けたタグが役に立つのだわ」

「後で楽するために頑張ってきたんだ、俺達は!」


 ところがメタトロンだけは、険しい表情を崩さない。


「うむ……しかし、地球から素材を調達するというのは問題が多すぎる。調査班の報告によれば、放射能汚染の影響で突然変異した猛獣がうろついているそうだ。それに武装天使を長期間派遣すれば、本来の任務に支障が出る。地獄での魂の消滅作業はまだ終わっていないのだぞ。あれを野放しにしておけば宇宙に歪みが生じる。優先順位を考えろ」


「それならば私一人で行きましょう。以前、メタトロン様はこうおっしゃいましたね? 『魔法制御に失敗したのは、肉体と精神の連携が不十分だからだ』と。しかし今の私なら光魔法を習得できるはずです」


「ああ、だが光魔法を使えたとしても危険には変わらん」


「危なくなったらすぐに帰還しますよ。私一人なら静かに行動できますし――」


 そこで武装天使の一人、『悪魔の頭部を素手で引きちぎった』サリーが立ち上がった。


「オレも行くぞ、ルシエル」

「そうっすよ! ルシエルさん一人で危険な場所になんて行かせられません!」


 彼らの熱意に、私は困ったような笑みを浮かべる。一人のほうが都合が良かったからだ。


「ありがたいですが、皆さんには本来の任務が――」

「いえいえ、これも立派な天界の任務っす! 喜んでやらせてもらいます!」


 そんな武装天使たちの様子を見て、メタトロンの顔がさらに険しくなった。明らかに面白くない表情だ。


 そこで私は、ふと疑問に思っていたことを口にする。



「ところで……神様はこのプロジェクトの進捗をどのようにご覧になっているのでしょうか?」



 その瞬間、メタトロンの表情が凍りついた。


「何……?」


「いえ、これほど重要なプロジェクトですから、きっと神様も気にかけていらっしゃるのではないかと思いまして。定期的に進捗を報告されたりするのですか?」


 私の何気ない質問に、メタトロンは明らかに動揺している。ケルビーの話では、神の声を聞くことができるのは天使長だけだという。


「確かに、神様のお考えも(うかが)ってみたいですね」

「ルシエルの提案を神様はどう評価されるでしょうか」


 すると突然、メタトロンが声を荒らげた。


「神聖なる御方のお名前をみだりに口にするとは何事か!」


 その剣幕に、評議会が静まり返る。


「出過ぎたマネを……申し訳ございませんでした」


 私は慌てたように頭を下げるが、内心では『ある仮説』について確信を得ていた。そのために神の名を口にしたのだ。でもこの仮説を明らかにしたら……

 


 間違いなく天界がひっくり返るだろう。だからこの場は黙っておこう。



 そんなことを考えていると、セラフィナが取り成すように言った。


「メタトロン様、ルシエルに悪意はありません。むしろ神様への敬意の現れでしょう」

「う、うむ……そうだな。だが軽々しく言及すべきではない」


 どうにか平静を装おうとするメタトロンだったが、その動揺は隠しきれていない。


 そうして評議会は、私の提案を満場一致で可決した。


 ただし――メタトロンだけは最後まで難色を示していた。

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