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エレガントな紳士、荒廃世界を改革する〜有能すぎて天界を追放されたので、天使たちが嫉妬に狂うほどの楽園を築いて、優雅に紅茶を嗜むことにした〜  作者: 古月
天界編

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第0話 荒廃世界へようこそ!

 人類滅亡後、500年――


 荒廃した新宿で奇妙な(うたげ)が開かれていた。



「ヒャッハー! 今夜は野菜パーティだぜえええーー!」

「うおおおお!」


 そう叫びながら、モヒカンの鬼たちが丸々としたラディッシュを天にかかげている。ツギハギだらけの麻の着物を縄で無造作に腰にくくりつけ、引き裂かれたギザギザの袖をなびかせている。


 そこは崩れかけたビルに囲まれた広場。焚き火の炎が夜空を赤く染め、その周囲には淡い金色の光球が浮かんでいる。魔法の光が、瓦礫(がれき)(つた)(おお)われた廃墟を幻想的に照らし出していた。


 そして地面に敷かれた麻の布には新鮮な野菜が並んでいる。


 色鮮やかなラディッシュ。つややかな小松菜。みずみずしい水菜――これらは荒廃した世界では信じられないほど立派に育った野菜たちだ。栄養が行き届き、病害虫の被害もなく、まるで旧世界のスーパーマーケットに並んでいたもののように美しい。


「信じられねえ……ラディッシュってこんなに大きかったっけ?」

「ヒヒッ、マジでうめえ!」



 その喧騒(けんそう)の中心で――


 一人の男が優雅に野菜を口に運んでいた。


 その顔の上半分は白いアイマスクで(おお)われている。艶やかな髪は乱れることなく、マスクの下から覗く口元は上品に微笑みを浮かべている。他の者たちと同じ粗末な麻の着物を身にまとっているはずなのに、その姿からは驚くほどの気品が漂っている。


 そう――まるで仮面舞踏会から抜け出してきたような、エレガントな紳士がそこにいた。


「ふう……皆さん、ずいぶん盛り上がってますね」


 そんなふうに、彼は微笑みを浮かべながら呟く。手元の皿にはラディッシュと小松菜、水菜のサラダ。まるで三ツ星レストランの一品を味わうかのように、フォークで丁寧に口へ運んでいく。


「ねえ! スープも作ってみたんだけど、味見してくれない?」


 そう言いながら、角を生やした女の鬼が焚き火のそばで手招きしている。紳士はにこやかに応じると、陶器の皿によそわれたスープを一口すする。周囲のモヒカンたちが意味もなく「おおおお!」と歓声を上げた。


「うるさいですよ」


 だが、言葉とは裏腹に口調は柔らかい。そして紳士は女の鬼に言った。


「とても美味しいですよ。ごちそうさま」


 その瞬間、女の鬼は頬に手を当ててうっとりと紳士を見つめる。


「ほ、ほんと!? あ、ありがと……」



 その時、美しい白い毛並みのオオカミが二足歩行で近付いてきた。手には陶器のボトルを持っている。


「焼酎だ。飲むか?」

「ふむ、どこで手に入れたのですか?」

「俺が首都にいた時にな。こういう時のために取っておいた」

「おおっ、そんな大事なものを私に?」

「……いいから黙って飲め」

「ええ、ありがたく頂戴(ちょうだい)します」


 そこで2人は焼酎を味わう。白いオオカミがおすわりしながら言った。


「お前はなんというか……ここにふさわしくない。あまりにもその――」

「エレガント」


 そこへ仮面を付けた大男が口を挟んだ。頭には天使の輪っかと翼が生えている。


「そう、それだ。なぜお前みたいなエレガントな紳士が、こんなところに堕ちてきたのか?」

「話すと長くなるのですがね」

「かまわん。今夜はじっくり話そう」



 そして彼は語り始めた。


 なぜこんなエレガントな紳士が、荒廃した新宿の廃墟で、モヒカンの鬼たちや白いオオカミと野菜を食べながら馬鹿騒ぎをしているのか。


 その答えを知るには、少しばかり時を(さかのぼ)る必要がある――


 すべては、天界での出来事から始まった。

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