『手紙が繋いだ、5年越しの恋 ――過去と現在が重なる夜』
夜の公園。
街灯の下、木々が揺れる音と、遠くで子どもがはしゃぐ声。
私はベンチに座り、カフェオレの紙コップを手にしていた。
横に座るのは、一之瀬湊。かつての教え子、そして今や国民的俳優。
「先生…これ、まだ持ってますか?」
そう言って、彼が差し出したのは、一枚の便箋だった。
私はそれを見て、心臓が跳ねた。
それは5年前、卒業式の日に彼から受け取った“あの手紙”だった。
――《俺、ずっと先生が好きでした》
その文字が、夜風に揺れた光の中で、ふたたび私の胸を刺す。
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(回想)
「読むのは、あとで。先生が、一人になった時に」
卒業式、黒板の前で彼が照れくさそうに言った言葉。
あのとき、私は教師として「大人の余裕」を見せたかった。
けれど、手紙を読み終えたあと、職員室の誰もいないロッカーの陰で泣いた。
教師という立場と、女としての揺れる気持ち。その狭間で、私はただ呆然としていた。
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(現在)
「先生、ちゃんと読んでくれてたんですね」
湊は穏やかに笑った。
だけどその目は、5年前と同じようにまっすぐだった。
「私ね、あの手紙…日記帳に挟んで、ずっと保管してたの」
「え…?」
「教師と生徒。そんな関係を越えちゃいけないって、ずっと思ってた。
でも…湊くんの言葉、私をずっと支えてくれてたのよ」
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(回想)
彼が二年の終わりに提出した感想文。
そこには、こう書いてあった。
《“恋をしてはいけない人に恋をする”って、古典って切ないですね。でも、人を想う気持ちって、きっとどんな形でも尊いんだと思います。》
その一文に、私は不覚にも心を掴まれた。
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(現在)
「先生。あのとき、ちゃんと告白できなかったのは、他の奴が先生に声かけてるの見たからで…悔しかった」
「そうだったの…」
「でも今なら言える。“もう一度、先生に会いたかった”。
“そして、今度こそ先生を幸せにしたい”って」
彼の言葉が、夜の風に溶けていく。
私はそっと目を閉じ、彼の手に触れた。
「ありがとう、湊くん…あのときの気持ち、嘘じゃなかったって、分かって嬉しい」
彼は私の手をぎゅっと握り返し、小さく言った。
「今は、“湊”でいいですよ。――椎名先生、じゃなくて、遥香さん」
そう呼ばれて、心の奥で何かが静かにほどけた。
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(回想)
教室の前で、一人で掃除していた彼に、私は小さな声で言った。
「頑張ってね、湊くん。あなたなら、きっと夢、叶えられるから」
彼がふと顔を上げ、驚いたように笑った。
「先生……今の、“名前呼び”ですか?」
私は顔を赤らめて、黒板消しを持って教室を出た。
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(現在)
「先生が、あの時、名前を呼んでくれたこと、すごく嬉しかった」
「そんな…覚えてたの?」
「全部、覚えてますよ。…好きだったから」
私たちは5年前と同じ位置関係のまま、少しだけ距離を縮めていた。
私は湊の肩に頭を預け、そっと呟いた。
「また手紙、書いてくれる?」
「え?」
「今度は、プロポーズの手紙。ちゃんと、“湊”から“遥香”へ」
彼は笑って、「はい」と小さく答えた。
夜の空に星がひとつ、瞬いた。
教え子と教師という“過去”が、静かに溶けていく。
そして――
恋人としての“今”が、確かにそこに、存在していた。
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