第3話 「卒業式前夜、封じた想い」
いよいよ、ふたりの過去に秘められた――“恋のはじまり”が幕を下ろす瞬間。
許されなかった気持ち、
伝えられなかった想い、
そして、未来へとつながる“約束にもならなかった言葉”。
3月。
卒業式の前日、午後6時を回った教室には、夕暮れが差し込んでいた。
全校の準備はほとんど終わり、職員室の明かりもひとつずつ消えていく時間――
3年C組の教室に、椎名遥香はまだひとり残っていた。
黒板に“ありがとう”と書かれた文字。
机に整列された卒業証書。
静まり返る空間の中で、遥香はふと、息をついた。
そのとき、扉がノックされた。
「……先生、まだいたんですね」
「……一之瀬くん?」
制服のままの湊が、黒い封筒を手にして立っていた。
「渡したくて。……これ、手紙です。
最後まで言わないって決めてたけど、やっぱり、伝えておきたいことがあって」
「……でも、それは……」
「読んでくれるだけでいいです。返事はいりません。
俺、明日で生徒じゃなくなるんで」
そう言って、彼は教室の扉の前で深く頭を下げた。
「3年間……ありがとうございました。
俺、先生のこと……本当に好きでした」
それは、涙が出るほど真っすぐで――
だけど、あまりにも“間違っている”想いだった。
(教師として……受け取っちゃいけない)
遥香は、それでも受け取ってしまった。
湊がいなくなった教室で、
静かに手紙の封を切る。
『先生。
卒業してもきっと忘れません。
あの日、図書室で初めて話しかけてくれたときから、
俺は先生の声と、言葉と、目の奥のまっすぐさに惹かれていました。
でも、何度も立場を考えて、引き返して……
それでも気持ちが消えなくて、
最後にこうして文字にすることでしか、伝えられないと思いました。
“いつか、もっと大人になって、
もう一度出会えたら――”
そのときは、先生じゃなくて、
“あなた”として向き合わせてください。』
遥香はその手紙を胸に抱え、ぎゅっと目を閉じた。
(私も――“先生じゃなければ”……)
でも、それを口にすることはなかった。
* * *
翌日。
卒業式で、湊と目が合った瞬間。
彼は何も言わずに、ただ一礼をして去っていった。
人混みに消えるその背中を、遥香はただ見送った。
あの春、咲かなかった想いは、
何年後かの“再会”によって、ふたたび芽吹くことになる。
それが――
「先生、あのキスは本気です。」の、すべての始まりだった。
過去編完結です‼︎
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