第10話「キスでつなぐ、これから」
春の終わり。
桜の花びらが舞い散る校庭で、遥香は卒業アルバムのクラス写真を整理していた。
新学期を迎える前の静かな時間――
教師として、母として、そして妻として過ごしてきたこの2年間が、静かに胸に積もっていた。
「……やっぱり、私は“先生”でよかった」
そこに、こっそりと職員室に湊が顔を出した。
サングラスを外し、誰もいないのを見計らって言う。
「迎えにきた。久々に、2人だけでランチでもどう?」
「いいけど……大丈夫? 今日、オフなの?」
「うん。実はね――」
湊はそっと、小さな箱を取り出した。
中には、ペアの指輪。
「結婚してから、ちゃんとしたペアリングって持ってなかったでしょ。
今日、3年目の“キス記念日”なんだって」
遥香はくすっと笑いながら、湊の手を握った。
「そんな記念日まで覚えてるの、あなただけよ」
「俺にとっては、人生が変わった日だからね」
* * *
ランチのあと、2人は双子の小学校へ迎えに向かう。
校門の前で、奏翔と結咲が駆け寄ってきた。
「ママ! パパ! 今日ね、図工で“家族の絵”描いたんだよー!」
「あと、将来の夢発表もあったよ!」
遥香が聞き返す。
「それで? 2人は何になりたいの?」
「僕は、パパみたいな俳優! でも、ママの授業も好きだから迷う!」
「私はね、ママみたいな先生になって……毎朝、大好きな人に“いってらっしゃいキス”する!」
「……あら、それ私たちの見てるのね、完全に」
湊が笑いながら遥香の肩を抱く。
「じゃあ、君たちの前でも見せておくか」
「えっ!? ちょ、ちょっと!」
遥香が慌てるより先に、
湊は彼女の額に軽くキスを落とし、次に唇にそっと触れた。
校門のそばで、家族の笑い声が風に溶けていく。
それは日常であり、特別であり、
ふたりが築いた“いま”をつなぐキスだった。
【エピローグ】
夜、子どもたちが寝静まったあと。
リビングのソファで、湊は遥香を抱き寄せながら言った。
「ねえ、これからも、毎朝キスしよう。
毎晩、おやすみのキスも。
言葉にできない時も、伝えるためにさ」
遥香はそっと頷いて、目を閉じた。
「うん。あなたが“俳優”である限り、私も“妻”でい続ける。
でもね――キスする瞬間だけは、ただの“恋人”でいたい」
「それ、ずっと守るよ」
2人は静かに唇を重ねた。
未来も不安も、そして希望も。
このキスが、すべてを包み込んでくれるから。
――完
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