表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『先生、あのキスは本気です。 ―元教え子は国民的俳優になって帰ってきた。そして今、秘密の恋が始まる。』  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
【第三章続編】『先生、あのキスは本気です。―ふたりの時間、未来の約束―』
26/36

第8話「朝のキスがない朝」



いつもと同じ朝だったはずだった。

目覚ましの音、湊の寝息、子どもたちの騒がしい声。

でも――


「……いってきます」


その一言とともに、湊はキスをせずに家を出ていった。


遥香は一瞬、声をかけようとして、手を止めた。


(……え、今、なかった……)


彼はスーツを着て、台本を確認しながら出て行った。

余裕がなかったのだろう。そう思えば簡単なこと。


けれど、その朝、遥香の心はずっと曇ったままだった。


「……ただのキス、されなかっただけなのに」


職員室での会話、授業中の黒板、帰り道の風――

すべてが、どこか薄く感じた。


放課後、カフェでひとりになった。

メニューも決められず、スマホを見つめる。


(連絡……来ないな)


家に帰っても、子どもたちが「ママ〜今日の音楽でね!」と話しかけてくるが、どこか心ここにあらず。

夕食の味もよくわからなかった。


* * *


夜9時をまわった頃、ようやく玄関のドアが開く音がした。


「ただいま……遅くなってごめん」


「……ううん、お疲れ様」


少し間をおいて、遥香は言った。


「ねえ……今朝、なんでキスしなかったの?」


湊は一瞬きょとんとした顔をしたあと、自分の額を軽く叩いた。


「……あ、うそ、忘れてた。ほんとに、ただのミス。ごめん」


「……うん、わかってる。わかってるけど……」


遥香の声が震えた。


「私にとって、あれはただの“習慣”じゃないの。

“心の確認”なの。あなたが今日も私を愛してくれてるっていう……」


湊はすぐに彼女の腕を引き寄せ、言葉の代わりに長いキスをした。

唇を離すことなく、低く囁いた。


「朝、忘れたぶん。……倍にして返す」


「……まだ足りない。3倍。……いや、10倍」


「……了解。寝室で返済、開始だな」


2人はそのままリビングの灯りを消し、

子どもたちが眠る隣の部屋に気を配りながら――

静かに、深く、何度も唇を重ねた。


“朝のキス”は、もう決して忘れない。

それが2人の愛の“原点”だから。



次回:

第9話「伝わらない気持ち」

ちょっとした言葉のすれ違い。

それが、心に小さなひびを入れる。

けれど、“キス”でしか伝えられない気持ちも、確かにある。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ