第7話「パパ、人気投票1位」
ある金曜日、結咲がにこにこしながら紙を差し出した。
「ママ〜! 今日学校で“理想のパパ投票”やったんだよ!」
「へぇ〜。それって、全学年で?」
「そう! でね……なんと! パパ、1位だったの!」
「……え、ちょっと待って。投票対象、保護者でしょ? 湊が1位って……!」
「ふふっ、だってクラスのみんな、“かっこいい!”“ドラマ出てる!”“送り迎えしてるの見た!”って大騒ぎだったんだもん!」
(うわ……完全にバレてる……)
後日、保護者会のプリントにもそれとなく記載された“理想のパパ結果発表”。
《第1位:一之瀬湊さん(双子・結咲&奏翔の父)》
《2位以下省略》の文字に、思わず吹き出した遥香。
保護者会の雑談でも、何人かの母親がさりげなく話を振ってくる。
「一之瀬さんって……あの一之瀬湊さんですよね?
お迎えのとき、サングラスしててもオーラが違うなって思ってました〜」
「いつも笑顔で、お子さんの靴脱がせてあげてて、優しそうですよね〜」
(……褒められてるのに、なんか、複雑……)
ある夜、リビングで湊にぽつりとこぼした。
「ねぇ……あなた、理想のパパ1位らしいわよ。おめでとう」
「えっ、ほんとに? やったぁ〜! …って、顔が全然おめでたくなさそうだけど?」
「……だって、うちの夫がモテすぎるんだもん。正直ちょっと、落ち着かない」
湊はにやりと笑って、遥香の肩を引き寄せた。
「……じゃあ、証明する? 君だけのパパだって」
「証明って何を――」
言い終わる前に、唇を塞がれる。
キッチンの電気がまだついたままの、いつものリビング。
それでも、確かに愛を伝える“ふたりだけの時間”。
「……ほんと、ズルい男ね。そんなキスされたら、何も言えなくなるじゃない」
「でしょ? 理想のパパって、そういうもんなんだよ」
遥香はあきれつつも微笑んだ。
「……まったく、しょうがない夫ね。でも、それが私の夫だから」
その夜、寝室で交わされたキスは、
いつもより少しだけ長く、ちょっとだけ誇らしげだった。
次回:
第8話「朝のキスがない朝」
いつもの“行ってらっしゃいキス”がなかった、ある朝――
それだけで遥香の心が乱れてしまう。
「毎朝のキスって、ただの習慣じゃない。……心の約束なんだよ」