第1話「静かなる朝のキス」
第三章より
『先生、あのキスは本気です。―ふたりの時間、未来の約束―』
それでは第三章の開幕――
“キス”から始まる、ふたりの日常の幸せと小さな波紋。
目覚ましが鳴る少し前。
静かな寝室の中で、椎名遥香は、隣で眠る夫・湊の肩に顔を寄せていた。
もう結婚して2年。
双子の結咲と奏翔も9歳になり、小学校生活にも慣れてきた。
それでも、彼の寝顔を見るたび――心がふと、ときめく。
「……起きてるんでしょ?」
遥香が囁くと、湊は目を開けずに唇を少しだけ持ち上げた。
「……先生の気配で、毎朝わかるんだよ」
「まだ“先生”って呼ぶの?」
「一生“俺の先生”だもん」
そう言って、湊は遥香の髪を優しく撫で、ゆっくりとキスをする。
深く、そして長く――朝の日差しがカーテン越しに差し込む中、
2人の唇がしっとりと重なった。
「……んっ……ちょ、待って、まだ子どもたち起きてないでしょ?」
「だから、今のうちに」
もうすっかり慣れたはずなのに、こうしてキスを交わすたびに、
遥香の心臓はドクンと鳴る。
愛されてるってわかるキス。
“本当に夫婦なんだ”って、朝一番に実感させてくれるもの。
ベッドから起き上がると、隣の部屋から小さな声が聞こえた。
「ママー、奏翔がお布団蹴っ飛ばしてたー!」
「うるさーい! 結咲の方が先に起きたくせに!」
遥香は苦笑してリビングへ向かう。
「はいはい、2人とも朝ごはんよ。
今日はご飯と鮭とお味噌汁。あと、果物ね」
キッチンに立つその後ろ姿を見ながら、湊はゆっくりと伸びをする。
「……先生って、ほんとに家庭科の先生でもやれるよね」
「失礼ね。国語教師は何でもできるのよ」
* * *
朝食を食べ終え、制服の準備をする双子たち。
その隙を見て、遥香と湊は玄関でそっと手をつなぐ。
「今日も撮影?」
「うん。2日間泊まりだけど、夜は電話するから」
「……行ってらっしゃいのキス、長めでお願い」
「もちろん」
そうして、家族にバレないように、でも全力で愛を込めて――
長くて、甘いキス。
「……行ってきます、愛してるよ」
「私も……いってらっしゃい」
扉が閉まっても、遥香の胸の奥には、彼の体温がまだ残っていた。
そして、リビングのドアが半開きになって――
「ママとパパ、またチューしてたでしょー!」
「バレバレなんだからー!」
「……ちょっと! あんたたち、見てたの!?」
遥香の頬は真っ赤になった。
でもその日もまた、彼女の“教師としての一日”は、愛に満ちた“妻としての朝”から始まっていた。
第2話「結咲の“好きな人”」
娘・結咲の初恋が遥香に波紋を呼ぶ!?
そして、遥香が初めて語る“湊との恋の始まり”――