表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EQ @バランサー  作者: 院田一平
第1章
8/71

第8話 意図

挿絵(By みてみん)



車のドアが「ドンッ」と閉まる音とともに

駆け上がってくるヒン。

変わらずの大声だが少し様子が違う。

スキップの様な小走りで玄関を跨ぎながら、



「ソン!ロシア行くでぇ~」


まだ靴も履いたまま。


「は?なにしに?誰と?」


<・・まず靴 脱げよ・・俺もおかえりも言わず>


「いいわねぇ。わたしも行きたい」


ヒンの後ろから松田さんの鞄を持った順子さん。


すぐに松田さんが戻られて、


「順子、飯の支度を頼む。30分後に集合だ」


神戸に戻った挨拶もできないまま部屋に入って

パンツを履き替えた。


一晩バスには揺られたが、然程汚れていなかったが

パンツを履き替えた。


<なぜかパンツを変えた方がいいと思った>


紫が目を刺す例のリビングで、

松田さんが気を入れていた。


「ソン君、準備が整い次第、シャオヒンと

ロシアに飛んでくれ」


「はい」


訳が分からなかったが、特別に驚きも

戸惑いも無かった。


黙って大きく目を見開いているヒンを横目に、


「ロシアで何をすれば良いのでしょうか?」


<ロシアがどうのこうのでは無く、俺たちに

出来る仕事なのか?という不安から、

率直に出た言葉だった>


「ロシア産インスリンの販売権を取った。

マカオへ持ち込む。

私は、海外に出れないんだよ(理由不問)。

先方に、契約は私の代理を飛ばせると伝た。

二人で契約を済ませてきて欲しんだ」


インスリンが何なのか?

内容はともかく、用件は簡単そうだった。


「はい。それなら私にもできそうです」


「よっしゃ。わかりましたー!」


ヒン・・このヒンの様子からも、簡単な用事で

モスクワに旅行だ!的なわくわく感が

込み上げてきた。


が・・甘い考えだった・・・・



ロシアのVISAは2日で発行してくれた。

1週間は掛かるだろうと周知されて

いたが何故か早かった。

翌日15:00発のチケットが取れ、ロシア語の

参考書を読んだり、靴下にお札を仕込む

ポケットを縫ったりと、あまり眠れないまま

出発した。

日本とベトナムしか知らなかった俺には、

飛行機の長距離な旅もトランスファーで半日、

空港で過ごすのも全てが興奮の連発だった。

長いフランクフルトでの乗換を経由して、

ドモジェドヴォ空港に着いたのは

26時間が経っていた。

松田さんに言われていた様に、パスポートの間に

1万円札を挟んで、イミグレーションに立った。

日本では無かったが、ベトナム的感覚では、

ある意味当然のルールがここにも有るのだと

理解できた。お陰で

面倒もなく誰よりも早く外に出れた。



到着ゲートを出て直ぐに声が掛かる。


「ヒンさん、ソンさん ですね?」


小太りで小柄で真ん丸のサングラスを掛けたアジア人。


香港から先行した松田さんの友人テイさんだ。


握手を交わしている途中に気付く周りの圧。


8人いや10人居る・・不揃いだが皆がデニムに

ミリタリージャケット姿でとにかく、

イカツイ連中・・ヒンと同じ、いやヒンよりデカい

人もいる・・そんな連中に囲まれながら、外に用意

されたランクル70系の後部シートに乗り込むも、

その緊張感にただ事ではない殺気と、

既に後悔の念も感じていた。


「テイはん、俺ら松田さんの

代わりなんですけんど・・」


ヒンが言いたいこと、聞きたいことは俺と

一致していた。


「松田さんは無口ですからね。 

 ハハハハハあああ!」


前の席のテイさん・・の笑い声・・


今の今までの緊張がスゥーっと取れていくのが判る。


テイさんが続けてキレイな日本語で話をしてくれる。


「今回のモスクワは、リスプロの販売権を

もらいに来たのです」


「リスプロ=インスリン?ですよね?

それは聞いています」


「そうです。 もちろんこの販売権には入札が

あったのですが、松田さんはロビー活動が

少し派手だったのです」


「ロビー・・??」


前の席で今まで前方を見ながら話をしていた

テイさんが、腰を少し上げて後ろの俺たちを

見つめながら、


「目的のために・・この販売権得る為には袖の下や、

必要なら相当の圧力を掛けたり、

飴も鞭もあらゆる事にお金も時間も掛けることです」


「・・・・」 

俺たちはタダ黙って聞くしかなかった。ロビーだの

袖の下だの、飴だのムチだの・・

当時の俺たちに解る筈もなかったからだ。


シートにしっかりと腰を降ろし直して、

テイさんは続ける。


「マカオは“99年(4年後)に、大陸(中国)

が行政を行います。


松田さんの、ロシアと大陸側にLobbying(ロビー活動)

が功を奏して、今日を迎えたのですが、松田さんの

その動きが目立った為に、ポルトガルの医療機関や

保健機関が、ロシア関係者に強力な圧力を掛けたのです。


ポルトガル関係者は、マカオでの自分たちの最後の

売り物(私欲)をそう簡単に渡したく無いのでしょう。


結果、松田さんとポルトガル有力者が今回の入札競合

となり、松田さん側に落ちたのです。」


自分の中で整理しながら言った。何か話した方が

よさそうだったので・・


「松田さんが入札に勝って私たちが契約に

来たのですよね。ロビーというのは目立っては

いけないのですね?

でもその方が勝てたということですね」


「ソンさん、松田さんは天才です。特にLobbyingは

あの人が一番得意とするモノです。

勝てたつまり、落札したことは当たり前ですよ

松田さんには。目立つように派手にした事には、

必ず理由があるはずです。

わざと派手に目立ったのでしょう」


「わざと・・ですか・・?」


「わかりませんが、問題はロシアサイドには

松田派とポルトガル派が存在するという事で

火種が爆発寸前だという現状は確かなことです」


・・・・解らない。言葉が追えず想像もつかない

話の連続で、当時の俺には理解できなかった・・

多分ヒンも。


バックミラー越しにテイさんはそんな

俺たちの顔を見て、


「この運転手や前後の車の連中は、

松田派のロシア人です。

お判りの様に、皆さん銃を携帯しています」


・・そうなのね・・

道理でジャケットが膨らんでいるし、

圧が半端ない・・・・


「逆にあちら側は今回の契約を絶対にさせないと、

我々を狙っているはずですよ。銃でね。

撃たれるか、さらわれるか? 

ハハハハハあああ」


<・・帰り・たい・・>


奴も多分 そう思っているだろうと 

ヒンを横目で見たら・・


怖気づくどころか、腕組みして目ん玉を見開いて、

へんに頷いている・・


1時間半~2時間ほど走っただろうか。

指さし会話帳ロシア語バージョンに載って

あった赤の広場の写真そのものが目の前に。

スゥーと通り過ぎたせいで

「赤い!」という印象しかない、


その真っ赤な大通りを抜けて間も無く、

Paxmahobcknn nepという通りに入り車は止まった。

角々にライフルを持つ警備員?の立つ建物。



小さな門を潜ると薄ヒンクの大きな建物に入ると、

薄暗くなった外同様に暗い。

薄暗くキーンと冷たい空気の長い通路の

突き当りの部屋に入る。


「Жаль, что?заставили Вас ждать」

ロシア語?を話すテイさん。


俺たちを指差しながら話し込んでいる。


しばらくして、テイさんは<ドスゥン>と机を

叩いて口調を荒げた。


「Чёрт!  Обалдеть!」

捨て台詞の様な大声の後、俺たちを庇う様にドアの

外に出た。すぐにあのイカツイ連中が我々の周りを

囲い込み、銃に手をやっている。


只事ではないことは判ったし、姿形は違うがテイさん

もやっぱり松田さんの類人なんだとも判った。

ライフルを持つ警備員が来た時と同じ様子で凛と

まっすぐに立っているのが見えて、

少し安心はした。早かった心拍をゆっくりと打つ心臓の音

にかわってゆくのを感じた。外へ向けての視野が

広がるほど、然程の慌ただしさが無い風景が見え、

うちらのイカツイ連中以外の人気も無い様子。

外に立た時には緊張がない自分を確認できた。


キュキュキュっと音を立てて止まったランクルを

目指して早歩きをし、

イカツイ連中のOKサインとともに車へ乗り込むも・・

ヒンがいない!?



「最後尾 いじょうぅ無しぃ~」



手で敬礼のしぐさをして車に乗って来た・・


ひと角を曲がったあたりだったか、ヒンが口を開いた。


「テイさん、契約はオジャンですかぁー?」


「おーじゃん??」


流石のテイさんもヒン語は理解できない。


「契約は、お終い?破棄になったんですかぁ?」


「おーーー!それ おーじゃん?言うのですね。

もう覚えましたよ!」


「ちゃいますやん。。ハハハハハあぁー」


右耳の鼓膜が。。。


「ハハハハハあぁー!」


テイさん・・・


運転手さんは顔が強張ってるし、先導の車も行きより

かなり早く走って緊張が伝わるのに・・

何?この2人・・


「大丈夫ですよ」


とテイさんがまったく動揺もなく続ける、


「今日の相手は小物です。ただの事務員です。

代理人では契約ができないとか、

約束の時間を過ぎたとか、自分の権限を

大きく見せたいのですよ。俺は偉いぞってね。」


「ほうですかぁー!

ほなオジャンやないいう事ですねぇ!」


「そうです。おーじゃんではありません。

いいじゃんです」


「ハハハハハあぁーーー!」


そこハモル2人・・・


「では契約は別の方と?場所はあそこですか?」


<誰といつ何処で?と気になる俺>


「はい。そうですね。彼はもう私に会いたく

無いでしょうから。彼ではないかもしれません。

でもまだ分りません。明日にでも調整します」


ロシア式なのか?テイさん式?なのか、

とにかくスゥーっと身体から力が抜けた。


「んでテイはん、もう戦闘態勢はいらんのかなぁー?

そろそろ腹筋が痛とうなってきたわ。」


<何いってんだろうヒン・・>


「おぉ!リラックスしてください」


<普通に返すテイさんも・・>


「今からホビスの家に行きます。私達は今日から

そこで過ごします。ホテルじゃなくてすみません。

その代わりに、料理は最高ですよ」


「おおお!腹 減りましたわーー   

ハハハハハあぁー」


確かにお腹が減っているし、今頃になって

時差ボケ感も出てきた・・




緊張感を保ったまま走る3台の車






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ