表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
EQ @バランサー  作者: 院田一平
第3章
69/70

第16話 命の値段

挿絵(By みてみん)





正面にHội trường Thống Nhất

(統一会堂)

のある Nguyễn Thị Minh Khai

(グェンティミンカイ)

通りと、Alexandre de Rhodes

(アレキサンドルドゥロード)

の間にはには、フランス統括時代からの

古い建物が多く並んでいる。

その一軒がDungさんとの約束の場だった。


迎えに来てくれたKritさんの車が4月30日公園前に

停まり、運転手を残し2人で通りの先へと歩いた。


戦前から立ち並ぶと言う大きな木々が通りを涼しく

影らしていた。幾つか並ぶCaféの文字を掛ける露店

の一つに5人の男がたむろしていた・・


あっ!?


俺を、タイのATMや銀行に抱きかかえて回った奴だ!

よく見ると、ベトナム語を話すリーダーも、その横

にも見た顔が並んでいる。


俺は思わずkritさんの後ろに隠れていた・・


人通りの多さと、すぐに建物内へ入ったことで

気づかれずにクリアはしたが・・



「Kritさん、今、外に居た連中が俺をタイに

連れ出したのです・・」


「お!間違いないのかい?」


「はい。間違いないです。忘れる筈がありません」


「どこに居た?服装は?人数は?」


と、Kritさんは俺に聞きどこかに電話を入れた。


しばらく入り口で留まったが、約束の時間だからと、

外の連中は後回しにして部屋に入る。



「Em Son、その顔の傷が痛々しいね・・すまないね」

※ベトナム語省略


部屋に入るとDungさんが俺の顔を見るなり

そう気遣ってくれた。


「長い間お会い出来ずに申し訳ございません。

こちらはMr.Kritです。ご存じかと」


「知るも知らないも深い関係だよ。3年ぶりですな」


「ズンさん、長い間お勤めご苦労様でした。

隠居祝いを兼ねて今晩、食事をご一緒しませんか?」


「ありがとうございます。お気持ちは嬉しいのですが、

今晩も孫の手作りの料理が待っていますので・・」



Kritさんは、Dungさん以外にも部屋に居た全員に

挨拶をした。その中に、タイ語でひと際丁寧な挨拶と、

今にもひざまつきそうな詫びを入れる1人がいた。



「Em Ryuji、彼がMinhミン君だ。

Ninh Thuận(ニントゥアン省)の担当官だ」



「Mr.Matsuda・・あなたを傷つける事までは

考えてもいなかったのです・・ただ・・

あなたの情報は私が・・

彼らは、いや彼らが野蛮な奴らだとは

分かっていながら・・本当にすみません。

Kritさんやsếp Dungボスと・・

こんな関係だったとは・・」


「あっ!Minhさん・・外に・・

外に彼らが居ますよね?」


「はい・・関係者は全員呼んでいます・・」


「Em Son、どうしますか?彼らが憎いですか?

あなたと同じ様にしますか?」


「・・いえ。DungさんKritさん、私が、

私のやり方が悪かったのです。逆に彼らに

お詫びして、これからの事を相談できたら

と考えています」


「ははは。ズンさん、どうでしょう? 

あなたはこれで

お帰りいただいては?あなたはこの両者の中に

入るべきでは無い」


「ありがとうKritさん。隠居の身とは言え・・

ありがとう。では私は退散するとして、Minh君、

解かるね」


「はい。あとは私が全ての責任を取ります」


「それなら任せるよ。頼んだよ。それとEm Son、

Minhを許してあげて欲しい。彼の役目なのだよ。

"泥カブリ"というね・・政治も行政もキレイ事では

仕事にならない時が多くある。

彼の様な役割が必要なのだ・・すまないね・・」


「はい。俺、私はそういう事を理解できています。

逆に、Minhさんの様な方を尊敬します。もちろん

Dungさんの事も・・」



俺の肩にそっと手を置き、細めた目をゆっくりと

閉じながらDungさんは裏口から出て行った。



「Chúng tôi nhận được rất nhiều tài trợ từ họ.

(我々は多額の献金を受けているのです)」


Minhさんは俺の前に座りながら続けた。


「農業農村省には国外からの公のファンドなど、

投資資金は入って来ません。これはドイモイ以降、

外資を受け入れる準備に、製造業や不動産業また

銀行など金融に力を入れ過ぎたため、

我々は一手も二手も遅れたのです。

インフラ環境も後回しです・・外資を受けた銀行も

ハノイ政府の意向が強く、南部の農村には

回って来ません。

ご存じの様に政局は圧倒的に北が優位です。

ハノイ(中央)政府に人を送込むにも力と金が必要

なのです。生産性の弱い我々にとって農地買収案件は

重視しているのです・・」

※ベトナム語省略


「はい。その様な事情だろうとは察していました。

私はその大事な田畑や農業用地を荒らしていました・・

さぞかし邪魔だったと・・すみません・・」


「いえいえ。Datは馬鹿ではありません。Mr.Matsuda

からの献金の半分は、こちらに届いていました。

我々にとっても所有者にとっても、未開拓の荒れ地が

お金になり、生産性を上げる事業を行って

もらえることは大賛成です」


「えっ・・MinhさんはDatダット氏を

ご存じでしたか・・それはお恥ずかしい事で・・」


「はい。彼は大学の後輩で、私が1つ年上なのです。

卒業して私は直ぐに農業へ。彼は士官校を経て軍へ

入りました。彼には体力も頭も敵いません。あっ、

Datにはこの件は?」


「知らない筈です。私からは何も話していません」


「そうですか・・Mr.Matsuda、あなたは面白い人ですね。

Datも恐ろしい奴ですよ・・彼のお父様は、ハノイの・・

あっ・・すみません・・とにかくこの件は私からDatには

話をさせてください・・」


「いえ。あ・・はい。お任せいたします。でも、

私は事を荒立てる事は望んでいないと・・

それだけは・・お伝えください」


「ありがとうございます。そう言っていただけると

私も救われます。それでは話を戻しますが、

今言いました通り、我々がMr.Matsudaのビジネスを

遮る道理はありません。しかしながら、彼らには

競合という面で邪魔だったのです。それに・・

そうですね・・少し強引な取引があった様子ですし・・

その折に奴らからあなたの情報を求められたのです・・

申し訳ございません・・

断われない理由も先ほどお話しました通りです・・

彼らが、今回の様に暴力を用いる事も

予想は出来ていましたが・・」


「命って・・安いですものね。

その国々で命の対価は変わりますが、

ベトナムもタイも・・安いですよね・・」


「Em Ryuji、タイはもうそんな事は無いぜ。

例えば交通事故で人を殺めてしまったら、

被害者の一生分の稼ぎを請求される。まあ、

確かにその稼ぎがまだまだ少ないのだがな・・」


「ヴェトナムも同じです。法ではその様に定められて

います。しかし・・はい・・そうです・・

近年にあった事故で、裁判所の出した結論は3000ドルで

した・・下手なバランスを裁判では取り入れたのです。

被害者の生涯報酬は現在の平均として、それは仕方ない

としても、加害者の支払い能力を重んじたのです・・

つまり、稼げない加害者の実質的な支払い能力をです。

うかうか道を歩けません・・」


「3000・・ドルですか・・ふふぅん。とにかく私の命も

彼らとっちゃ・・でも今回の事は自業自得と心から反省

しています。幸いにも生きていますし・・俺・・」



「・・さぁどうでしょう?彼らをここに呼んでも

よろしいでしょうか?」


「はい。外の彼らですね。ぜひ話をさせてください」


「いや待って。大丈夫なのかい?奴らの事は

もう監視させているが・・」


「はい。Mr.Mritご安心ください。彼らのBossは、

この件を私に一任しています。彼らは忠実です」


「そうか。わかった。少し待ってくれ」


Kritさんはそう言って外で待機させていた監視員達に

電話を入れ、次いでMinhさんが電話を飛ばした。



ノックと同時に扉が開き、ぞろぞろと5人に男たちが

入って来て、一人はMinhさんの後ろに立った。

どうやらこの一人はMinhさんの部下なのだろう。

他の4人を俺らの前に座らさせた。

忘れもしない顔が3人、もう一人は見覚えが無い。

皆が下を向いて緊張の様子だった。


Minhさんはタイ語で彼らに話をし、要所要所を

kritさんが俺に伝えてくれた。


奴らが取った行動は犯罪であり、ここベトナムの法で

裁きを受ければ死刑も逃れられない事。

我々行政も今後はあなたがたのBossとは

絶縁となる事などなど。しかしながら俺が、

和解を求めている事。

あなた方のBossは私に処分を一任しているとも。


そんな中、ベトナム語を話すあいつが、


「Anh ta không bán chúng ta cho cảnh sát.

Ngược lại, anh ấy đã cho chúng tôi 5000 USD.

(彼は俺らを警察に突き出さなかった。それに、

5000ドルをくれたんだ)」


「Bạn không nên nói về nó. Bây giờ hãy im lặng.

Sếp của bạn không muốn nghe câu chuyện của bạn.

(だめだめ。その話はしない方がいい。あなたの

ボスはそれを聞きたくない筈だ)」


俺はとっさに奴の口を止めた。



「ほら。どうだい。Mr.matsudaはあなた方の事を気に

掛けている。あなた方がBoss命令を失敗したことにな」

※ベトナム語&タイ語省略


「いいんだ。BOSSは知っている。あの事は

全部報告済みだ。BOSSは笑ってたよ。

日本人てのは腹が座ってるてな」



俺はこういう時に複雑だった・・


いや俺、ベトナム人だし・・いや・・

そうそう俺、日本人。みたいに・・



そして話は進んだ。



30分もした後からは皆が笑顔にもなっていた。



「なあ。あんたらのBossは今どこにいんのよ?俺、

会せてくれないか?」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ