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EQ @バランサー  作者: 院田一平
第3章
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第11話 誰も知らない筈の油の話

挿絵(By みてみん)






「高橋教授! 教授もいらしてたんですね!」


「ソン君、お元気そうで。

ご活躍は耳にしていますよぉ!」


「養殖場の開設パーティー以来っすね。

ご無沙汰して申し訳ございません」



深圳に着くと神戸大学の、唐さん陳さんを

ロジック面で支えてこられた高橋教授が居た。



「ソン君、実はあなたをお呼びしたのは私なんですよ。

覚えていますか?ナマズナマズって言いながら、

一王山にやって来た日の事を・・」


<高橋:「そのチャイナマネーは大きく2つの為の投資

だと考えられます。1つは加工を含む食用でもう1つは、

次世代燃料だ。

うちではまだ誰も研究して無いが、次世代というのは

仮称であって、ブラジルの研究グループが1975年に発表

したプロアルコールというサトウキビ由来の

エタノール燃料や、実はわが日本では1945年に戦争下で

東南アジアからの石油販路が絶たれた時にと

研究がされた経緯がある。

中国では現在も盛んにそのような研究がなされている」

俺:「このナマズにそんな価値があるのか・・?」

更に俺:「・・さっぱり訳が分からなかった・・」>



「はい。教授は仰ってましたね!次世代燃料!」



「そうそう。あの日に私は目覚めました。実は

あれ以降、この深圳医药(クスリ)有限公司のご協力で、

エステル交換反応で"脂肪酸メチルエステル"を定義付け

ようとしました。結論から言うと、

厳密な定義が無い世界なのです」


<でたぁ・・相変わらず訳が分からんわ・・>



「はぁ・・つまりその・・」



「えっと・・どうご説明しましょうか・・

そうですね。今のところ粘度においては重油と

等しい精製で進めていますが、ディーゼルエンジンに

対応できるレベルには費用的にも十分に

可能だと結論付けています」


「・・教授・・俺、後で勉強しますが・・」


「はははぁ・・すみませんねぇ。ついつい。

えっと、今、優二さんのグループでは、

パンガシウスの魚油とアブラヤシの精油を

食品加工用に産出していますよね」


「はい。えっ?優二さんって・・あの・・

教授、松田のオヤジと?その・・」


「あぁ!そうです。すっかりお世話に

なっています。ここに来る前の日も御影で

お食事をご一緒させていただきました。

竜司にやらせなさいと・・あっ、竜司さん

なんでしてね!ソン君ソン君って・・」


「ソンでいいっすよ。それより、

オヤジは何を俺に?」


「そそそ・・それは、わわわ・・私から

説明します。現況の魚油とパーム油はそのままの

流通で食品加工へ出す事は変えません。ただし、

振るい出し以降の二次抽出したB油は、新しい

ルートになるバイオディーゼル燃料へと使用します。

つまり、食品油として質の良いモノだけをそのまま

流通させます。この事で、精油の量的単価は5%

ほど上げられますので。そこでです。

魚油やパーム油さらには、コーンや米や菜種などの

"食物"とは相交えない"原材料"を

独自に調達する計画なのです」



「はぁ・・また難しい話っすね・・」


<陳さんのドモリで話が視えないのではなく>


「かかか・・簡単に説明します。

食物つまり、人の口に入る物は値が落ち着きません。

と言うより、今後も高騰し続けることが

明確なのです。

我々のバイオディーゼル燃料を事業化するためには、

原材料コストを低く安定したもので

無くてはなりません。

売値が既存のディーゼル油より安く無くては

成り立ちませんので。ここまで理解できますか?」


「はぁ・・要するに、ナマズじゃ新しい事業は

出来ないと。それは分かりましたが、

その食材と競合しないってモンが有るんですか?」


「はい。痲瘋樹です。学名はJatropha curcasです」


「マァフゥんシュゥ?やとろは?こーけすぅ?」


「えええ・・・えーと、日本語はこれですね・・」


「・・南洋油桐・・ナンヨウあぶら?きり?・・

なんて読むのかなぁ・・」


「ソン君、ナンヨウアブラギリと読みます。

ヤトロファとかジャトロファとかって言います」


「ジャトロファ・・ですか・・んで何でこれが

いいんすかぁ?どこにでもあるんすかぁ?」


「はははあ、何処にでもある訳じゃ無いのですが、

ベトナムにもあります。で、これは毒性が

強くてね、おまけに発がん性も確認されている

ので、食材とは相交わらない物なのですよ」


「毒かぁ、なるほど・・ヴェトナムにあるんだ。

だから俺って事なんすねぇ」


「いえ。ソン君、優二さんが仰っていましたよ。

我が息子ながら勘のいい奴だ。俺の跡は

奴に託すって。

そろそろマネジメントも預けるって。

よっ!ホープ!

あっただ・・女にだらし無ぇのが欠点とも・・」


「あ・・いえ・・えぇー!・・」


<!あんなこんなが・・バレてるぅ?>



その後の10日間を唐さんの代わりに、深圳の工場

で新しく創られた精油抽出マシーンの運転操作の

講習を受け、ジャトロファのこと、食材競合

オイルの事、バイオディーゼル燃料おてゃなどなど

を高橋教授から特別講義を受けた。心構えを

していた神戸への、日本へは戻らずに

越南へ戻った。


その後しばらくは誰に会っても、無理矢理にも

原油話に持って行き、

A重油の比重B重油の比重などと、

鼻高らかに学者の如く話して回った・・俺・・



「もぉええってぇー。またその話しかぁぃやぁ。

お前頭ぁ大丈夫かぁ? それより、来週は

クワンジャニンも来るんやぁ。来週はうちの

道場のオープンやでぇ。

お前も来いよぉ。 ハハハハハあ」


「あっそっかぁ!そうだったね。てか、

カオルも道着がどうのエンブレムがどうのって、

ハップキドーの話しバッかじゃん・・

仕事してんのかよ・・」


「仕事はお前アレやんけぇ、Maiのいう通りに

やっとるがなぁ」


「ほう。例えば?」


「おう。港湾に書類届けたりやなぁ、コンテナに

荷物積んだりぃ、シャオパオのミルクやったりぃ・・

あとは・・えっとぉ・・」


「ふふぅん。分ぁたよ。シャオパオはまた

デカくなった?

今晩は久しぶりにうちでメシどうよ?」


カオルとMaiの子もヨチヨチ歩きが出来そうに

なっていた。流石にカオルの子で大きすぎて

帝王切開で、予定日よりひと月早く誕生していた。


「デカぃらしいわぁ。7か月やぁ言うたら皆、

びっくりしよるわぁー。 ハハハハハあ」


「なぁ。早ぇなぁ。今晩楽しみだわ」



この頃から俺はまた外に出ることが増えた。

ジャトロファの物量を求めて、ヴェトナムでも

南から北へ、インドネシアにマレーシア、そして

タイにも。

そんな折の順子は勿論、カオルやMai達と

過ごす時間は俺の気を休めてくれた。



「やっぱり順子はぁんの飯は旨いわぁー」


「その意味はわかるでぇ。あんた死にたい?」


「・・Mai・・いつの間に関西弁に・・」


「クスクス。マイちゃん、シャオヒンの真似しちゃ

ダメよぉ。彼の日本語は特別なのよぉ。誰も

褒めてくれないよぉ」


「!やっぱりぃ・・はい。ほんなら私、

日本語学校にもう一度行きますわぁ」


「クスクス。そのやっぱりも、やはりの方が

いいわぁ。ホンなら?も、だめぇ」


「Maiの日本語がすっかり毒されてんじゃん・・

まぁカオルに日本語を正せってのもなぁ・・」


「ハハハハハあ。どうでもええやんそんな事ぉ。

そらそうと竜司、その毒のある葉っぱぁ?何ぃ

いうんやったっけ?それは見つかったんかぁ?」


「ああ。そこいら中に有んだわ。でもな、あっ、

ジャトロファって言うんだけどさ、中国語は痲瘋樹

ってんだけど、栽培はされてる様子じゃ無えんだわさ」


「痲瘋かぁ、確かに毒っぽいなぁ。そらぁそんな毒を

栽培したらあかんからやろぉ。ハハハあ、みんな

それから油を取るなんか、知らんねんやろ。

それやったら、

早よやったモン勝ちやんけぇ。

早よせんかぁい」


「うん・・まだ判ん無えんだけど、畜産農家や

家畜を飼ってるとこには必ずっていいほど栽培

しててな。栽培ってか、ほら・・牛とか豚とか

がさ、ジャトロファの毒性を知ってんからさ、

ジャトロファで農耕地の生垣にしてんだわ」


「へぇー。お牛さんたちって賢いんだねぇ。

毒を避けてぇ、そこから出ないんだぁ」


「ハハハハぁ、お牛さんってなんやねん順子はん。

牛、喰らうくせに。まあ有るんやったら何とか

するんやろ?何か手伝う事あるかぁ?

早いモン勝ちとか大好きやぁー」


「そういう問題じゃ無えだろ・・まあ、

何かあったら言うよ」



カオルのこの闘争心と言うか競争心というか・・

それはある種、優れた感覚だった。

利権的開始は早いモノ勝ちでも確かにあると、

俺もその頃は思い込んでいた。ただ、

そういうモノは"時を同じくして"、

強い力が動いているモノでもある。




しかし未だ・・その事に気付かなかった俺らは・・








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