“The Other Side of the Job”
九十九島の島々が見える湾に水産加工場は在った。
その日に揚がる魚を原材料とする魚肉ハムにソーセージ、
蒲鉾などを製造し、製品を直売する店舗も
長崎県内に3か所在るという。従業員はパートを含め
60人ほど居り、男女6名のベトナム人実習生を
受け入れている。
コロナ前に第一弾を計画していたが、延期を図り、
この5名が初めてだと言う。
男4名が工場でハム・ソーセージや板付き蒲鉾の加工を、
女1名は直営店舗の加工場ですり身の揚げ物を担当
させているという社長。
下野の聞き取りが続く、
「5名は同時期の着任ですか?」
「いやあ。4人が昨年の11月からで、
1名は12月からです」
「なるほど。4か月と3か月程ということですね。
では、具体的な着任日を教えてください」
「はぁ・・おい石本!あん子らは、
いつ来たかいなぁ?」
「あの、社長・・
人事のご担当はお留守でしょうか?」
「あー あいは今ベトナムに出てますけん」
「・・それは、人材の件ですか?」
「ですよぉー。こん連中がダメな事なら代わりを
探さないとってよ、2週間で戻るって
出て行ったもんで・・」
「あ・・そうですか・・では、すみません、
石本さま?ですね。その資料もお持ちになって、
こちらに参加してもらえませんか?」
「おお。石本、ここに来んやぁー」
その後も必要と思う情報は一通りヒアリングした。
「石本様つまり、問題はこの3名ですね。
あとは彼ら全員に合わせていただきたいのですが、
今日はお休みですよね?」
「いえ。1名は店の方で勤務でして、今日は
桜井さんが来られるという事でしたので、
後の4人も寮で待機させています」
「この3名は寮ということですね。
お休みのところ待っていただくのはあれですから、
まず寮に行かせていただきます」
「いや・・今呼びますので、ここでお待ちください」
「いえ。出来れば寮に行きたいのですが。
遠いのですか?」
「いや・・直ぐ近くですが・・」
「そうですか!では行かせていただきますよ」
「あれですけん・・狭かですし、
話す場所も無かですよお」
「そうですか。ちなみに、何名部屋ですか?
宿舎の間取りとかもお聞かせいただけますか?」
「はい。6畳一間です。キッチンと風呂もあります」
「そこに1名づつですか?」
「いえ・・2名ですね・・あ、
女んし(人)は1人ですたい」
「そうですか。分かりました。では、恐縮ですが
お呼びいただいてもよろしいでしょうか。
あと、面談の際は社長様も石本様も席を
外していただきたいのです」
雇い主の話しは聞いた。充分な情報だ。
問題だと言う3名は先ず、器用で仕事も早いが、
決められた分量を守らないことや衛生的な指導が多い
ことが共通点で、2人は禁止されている作業時間内で
喫煙をするといい、そのタバコの始末も悪いという。
もう一人は、タバコは吸わないが、2人と共に現場を
離れるという。
そして決まって月曜日に3人揃って病欠が多く、
病院にも行かず、長い時は続けて3,4日の間、
部屋から出て来ないらしい。
一般的な指導はしているモノの、暴力を含む厳しい
しかり方は一切していないとのこと。
下野の聞き取りはツッコんだ問いもせず、
この手の慣れも見て取れた。上出来だ。
この時点で俺の憶測と下野のそれが、どれくらい
合致しているかは判らない。予測のオプションは
多いほど解決策の幅も広がるのだが俺は、
ここの問題は至極一般的な初歩と見立てた。
来る道中に考えた『後腐れなき離婚』を取り持つこと
は不要だろう。でも、
管理組合の役員を兼ねているという人事担当が
気になって仕方ない。ある種の悪いパターンが匂う。
まあそれは俺が当たるか・・ここは、
下野くんに見せてもらいましょ。
「石本さま・・もう彼此、1時間が経ちますが・・」
「いつもですけん。真っ直ぐ来たなら、
30分もあれば来れるとですが・・」
「電車は無いですよね。バスですか?」
「いやいやぁー 自転車ですけん」
憶測は深まる一方だ。声には出せないが、
相思相愛ならぬ、似た者同士と頭の中に活字が走る。
そして彼らがやって来たのは1時間半が過ぎていた。
「はじめまして。下野と申します。
お休みの日に時間を取らせますが、
皆様のお話を聞かせて欲しいのです。
私の日本語は理解できますか?」
「はい大丈夫です」
「ありがとうございます。もし日本語が
分からなければ、分からないと言ってください。
ゆっくりとお話をします。
よろしいですか?」
「はい。大丈夫です」
「ありがとうございます。では先ず、
グエン ホアン タンさんは、どちらですか?」
「はい私です」
「タンさんとお呼びしていいですか?」
「はい大丈夫です」
揃ってやって来た4人の名前は把握している。
下野は、問題アリのひとりからヒアリングを始めた。
「日本はもう慣れましたか?」
「はい。もう慣れました」
「日本の生活はどうですか?」
「はい。ちょっと難しいです・・」
「難しいですか?何が難しいですか?例えば
食事とか、買い物とか?」
「食べ物・・料理が難しいですね・・」
「タンさんは、今、体重は何キロありますか?」
「はい。私の体重は57キログラムです」
「そうだすか。タンさんは、11月16日の体重が
65キロでしたね。8キロ、痩せましたね。
お昼は工場の食堂で食べていますか?」
「はい・・たまに、食べますが最近は食べません」
「朝と夜は、部屋で自炊、自炊はわかりますか?」
「じすいですか?はいあれは・・
私がご飯を作りますに意味ですね。
はい。わかります」
「では、自炊、つまり、自分で朝と夜の食事を
作っているのですね?」
「はい。しかし、それは難しいですね・・」
「Được rồi, đầu tiên, tôi đứng về phía các bạn.
Xin hãy yên tâm.
Từ bây giờ, chúng ta hãy nói tiếng Việt.
(Ok、じゃ今からは、ベトナム語で話しましょう。
私はあなたの味方ですよ。安心してね)」
「!Trời ơi Tuyệt vời. Tiếng Việt của bạn rất tốt.
(まじ? ベトナム語が上手ですね!すごい!)」
「OK,. Trong phòng của anh có bếp ga không?
(部屋にコンロはあるの?)」
「・・Có 1 bếp điện nhỏ.
(小さな電熱コンロが1つです・・)」
なるほど。どうやら下野も解かっている様子だ。
ここは預けて、
俺は社長と出て行った桜井会長に電話を入れた。
「会長、今はどこですか?」
「食堂でコーヒタイムじゃけん、
終わいやったとねえ?」
「いえ未だですが、私はそちらに
行ってもいいですか?」
工場に入って食堂の立て看板の矢印に向かう途中、
30歩ほどの間は魚臭と消毒の匂いがしたが、
2層の扉を抜けると香ばしいさを鼻に感じる。
よく手入れされた器械に器具類、床も清潔だ。
やはり、あれ以上の大きな話は出て来ないと踏んだ。
石本氏の姿は無く、桜井会長と社長が居る。
好都合だ。
「桜井会長、社長、
少し込み入ったお話をしたいのですが、
よろしいですか」
「おう。今も竜ちゃんが話をしとったとば。
座いやんせ。
なんでん話ばしてくれんねえ」
「はい。では遠慮なく。・・社長、こういう事実を
ご存じでしょうか。彼ら実習生は向こうの研修を
受ける際に50万円ほど掛けて日本に来ます。
まあ公に50万円と言われていますが、その実態は
倍ほど掛かっているんです。
彼らのあの日本語がハナッから喋れる子なんて
居ない訳ですし、向こうのブローカーは露骨に
金銭を要求します。金の多い順に受付という実態です。
中には更に多額を借金して来たり、まんま騙されて
金だけが無くなるって話も少なくありません」
「100万ですかあ?それは都会に行く子じゃなか
ですかあ?うちの子は30万程自分に投資をしてえさ、
ここで手取りが160万、家賃控除が2万、
それとおー えーと
生活費じゃ、生活費が3万じゃけ5万の12か月の
60万が無いごとなって、100万を稼いで70万の
儲けで帰るっチュ話じゃけんね。
それでもあんし(彼ら)の国での稼ぎの
20倍じゃってなあ」
「フフゥン・・社長そりゃ本人達の話しですか」
「んにゃあ北川よお。あれがぜーんぶやっとたい」
「ほう。社長は彼らの給料はご存じの様ですが、
彼らの招聘に掛った費用は6人で幾らになりますか」
「それよ・・ひとり50万ばっかり掛っるちゃなあぁ
それでもよ、日本人の確保とくらべればよ、もずーう
(ずっと)公募はしちょるばってん来んたい・・」
「さて社長、給料含む日本入り後の金はともかく、
その50、正確には565,000円なのですが、
監理の観点からチィと高いですよ。あと、
先の話しに戻りますが、奴らの準備金の中からまたは、
送出し機関またはその565,000円の中から、
もしくはその全部から彼ら一人を日本の職に
着けた人物にキックバックが有るのを知ってますか」
「ん?そりゃよそわしか(汚い)話ね。
あん子達にもあったいかねぇ?」
「その話は後ほど、先にこれ、奴らの技能実習計画書
なんですが、加熱乾製品製造しか見当たらないのですが、
蒲鉾も造らせてますよね?」
「さすとお。順番よお」
「なら、なぜ蒲鉾の計画書は無いんですか?」
「さてえ・・そんソーセージをば勉強しちょるかい
じゃなかとですかねえ」
「はい。そうなりますが、悪いとは言いませんが、
そもそも彼らは技術を学びに来ていますんで、
この計画通りに学んで、試験を受けなくてはならない
のです。ゆわば、
この計画書は奴らを合格させるために
計画されていなければならないのですが、
百歩譲って加熱乾製で受けさせるにしても余りにも
薄ッぺらい計画です。まず俺なら、
蒲鉾を受けさせますがね。何故だか分かりますか?」
「んにゃ・・北川が決めたもんじゃけん・・」
「融通性です。蒲鉾は技能検定で組合の要望に添った
場所や日時で試験をしてくれます。
片や技能実習評価試験といい、専門分野で試験実施に
限りもあります。その後の昇級にも差が出ますし、
こっちも奴らも面倒です」
「そりゃどしたもんやろねえ・・」
「社長、人事のキタガワさんは永いのですか?
男ですよね。おいくつですか?」
「あれはまだ四十五か六よ。こんベトナムの話しかぃ
内に来たとですけん、まだ4年ですか。
あれは組合の出向なもんで、そん前まではオイが
人事も何も担当ばしちょたとですば・・ん?
あんし(彼)が何いか悪さばぁ?」
<そんな感じだろうな。さてさて・・
この場ではこれ以上言わない方がいいか・・
調べ事済ませて証拠集めの時間も正直、
面倒だしなあ・・
ここはやっぱ下野に任そお>
「社長、向こうの面談が終わったら、
うちの下野の意見を聞いてやってください。
彼はこの件もよく理解できていますので」




