"Beneath the Surface"
丸十当主とは、年2回ほどの贈り物と時節の挨拶ハガキ
での繋がりは在ったが、民民党のパーティーですれ違い
ざまでお逢いしたのが5年ほど前、面と向かって話した
のは順子の葬式以来、もう10年も経っている。でも、
頭も真っ白になり頬もこけたが、ますますご健全で
あった事と、変わりなくソンと呼んでくれ、味方にも
なってくれるという事に感謝しかない。
当主が指宿に出られた後、
「ソンさん、ご無沙汰しました。お元気そうですね」
「急にお邪魔しまして申し訳ございません」
ご長男の忠家さんは丸十の地場産業を継ぎ、
建設土木からリゾート開発、地元工芸品から貿易
まで手広く事業をされている。中でもリゾートと
旅行部門、それに貿易はうち等と
ガッツリ組んでいる。旅行部はカオルのオヤジと
Maiが率いる不動産部隊。貿易は赤石さんが顧問
入りした、うちのオヤジ達とだ。
「父からざっくりとお話は聞きました。
私も可能な限り参加しますが、利治を担当
させますので自由に使ってください」
「ありがとうございます。恐縮です。
今日は利治さんは?」
「あれは昨日から指宿でして、
夜には父と一緒に戻ると思います」
ご三男の利治さんもご次男の義信さん共々、
地場に残られている。詳しくは知らないが、
比較的に手空き時間があるのだろうか。
「今夜の肴じゃけん。オイがさばくけんね」
「あらあらぁ こわ、
くしきんかたっ(串木野魂)じゃ
なか? よかん手に入っやしたぁ
(珍しいね)」
<九州人相手にはやっぱ九州弁なんだわ・・>
当主を追う様に出て行った桜井会長はどうやら、
串木野の漁港に行ったらしく、発泡スチロール
Boxいっぱいの魚と、その?
くしきの魂という珍しい焼酎を
持ち帰って来た。
まだまだ、焼酎を注がれるままにお飲みになる
丸十当主を囲み、芋焼酎にも慣れ始めたのか、
近松も一緒になって鹿児島古来からの遊び
『なんこ』で赤い顔をしている。
ルールは、互いが『なんこ棒』を隠し
持った手の中の
合計を言い当てる単純なものだが、
負けると焼酎を飲むとなると熱が入る。
「松田会長、これって本田さんが言ってた・・
ロンにょ~?っていう?
あれと同じなんですかぁ?」
「そうだなぁ似てるちゃ似てるわ。今それは、
合計の当て合いだろ?
Lớn, nhỏ(ロン、ニョゥ:大小)は、
大きいか小さいかを当てるゲームよ。
その3本の棒じゃ
出来ねえなぁ」
こんな風に焼酎文化が根付くここでは、
伝統重付く大きな屋敷での緊張など感じさせず、
遠慮なく時間が過ぎる。
限のいい『ぢょか(千代香)』が空いた時、
「ソンさん、今日はシャオヒンさんはご一緒
や無かったですか? 俺は何をば、
手伝えばヨカったですか?俺は暇なもんで、
何でも使うてください」
忠家さんは確か十ほど上、義信さんが六つ七つ、
この利治さんだけ俺より1つ下だ。
同年代と言うのはやはり話しやすい。
「利治さん、何をどうこうじゃなくて色々相談
させてくださいなぁ。あと、美鈴はまだ独身
なんで、そっちも世話してあげてくださいや」
「あら!未だ独身なんてぇ ムスっ・・
人を行き損ないみたいに言わないでぇ。怒
私は生涯独身なの。結婚なんて地獄だわぁ」
次の日には、美鈴と近松、それに
三男坊の利治も加わって、西郷どんと共に
志布志に行き、斎藤は沖縄へ、
本田と拓海もそれぞれに帰って行った。
俺は下野を連れ、桜井会長と共に
長崎へ向かった。
「桜井会長確か、技能実習生と仰りましたね?
間違いないですか?」
「んにゃ・・オイも分らんのよぉ・・
そん他に何があるとね?」
「いえ、まあ行けば判りますので、
そん時に考えます」
佐世保に在る、桜井会長の好の、
海鮮食品加工会社が、ベトナム人ワーカーとの
トラブルが続出しているという。
会長が自ら車を飛ばして来てくれた1つの理由
でもあるのだろう。放って置く事は出来ないし、
下野の仕事っぷりを観るいい案件だ。
「下野、ここは任せたぜ」
俺はこっそりと下野の耳元でささやいた。
「はぁ・・もう少し情報がほしいですね・・
食品メーカーだと多分、技能だとは思いますが・・」
「お?下野くん、なんが判ればヨカもんねぇ?」
俺は、会長を煩わす事も無いだろうと
問わなかったのだが、下野の声が届いた様だ。
下野は詳しく話し始めた。
「はい。先ず、お知り合いのメーカー様がその
ベトナム人ワーカーを、どの様にして依頼して、
どこに相談をしたのか?・・・・・・・・」
それが組合や協会などの監理団体であれば、
ワーカーは技能実習生として日本に来ていること、
その他であれば特定技能の人材である事。
また、その監理団体やその他の支援機関が
判ればそこのデータや"噂"を得ることができ、
双方の凡そが視るのだと話した。
「あんどんは、自分たちの組合で呼んだ
技能実習生なごたる」
「なるほど・・パターンです・・」
「なんがパターンとね?下野くん・・」
話しづらいのだろう、下野は俺の顔を見て
助けを求めているが、俺はアゴで
「おまえが話せ」と合図した。
「・・桜井会長のお知り合いには厳しい
お話をしなければならないかもと・・」
「どういうことね? 聞かせてくれんね?」
「はい・・基本はその名の通り、日本の技術を
実習するために来日しているのですがその実態は、
労働にあります。この労働に双方の目的の違い
がある事が、トラブルの起因となっていること
が多いのです」
「じゃろねぇ。こっちのあいらも(あいつ等)
悪いのよ。なんでん問題があっところには、
両方が悪りぃもんじゃ。
言いにくいとこが有れば、オイが言うけん、
まちょっと詳しく教えてくれんねぇ」
「あ・・はい。あくまでもパターンであって、
そこのトラブルがそうとは限りませんが・・
実習生つまり、多くのワーカーの目的は、
技術を学ぶ事では無く労働の対価を稼ぐことが
1番なのです。そしてその対価というモノを
コミュニティーの中で比較して、
1円でも多くの報酬を求めるようになります。
片やお知り合いの様な受け入れ側つまり、
ワーカー雇用側はどうでしょうか・・
おそらくは1円でも安く人件費を抑えたい筈です。
現状として、日本人ワーカーを雇い入れるより、
外国人を使う方が、安上りを謳う社会が日本です。
しかし、現実にはそうはいきません。
実習生を招く前には受入れ機関への負担金や
出し手への準備金、宿舎に通勤環境などなど、
1人当たりに相当な前金を必要とします・・」
「なるほど。金やね。問題はあ・・ふーむ」
「はい。ただそれは何処にでも転がる話で、
ワーカー達も馬鹿ではありません。先ほど対価と
申し上げましたのは、1時間幾らという単純な
モノではなく、人間関係などの働く環境で
あったり、宿舎やオフの生活環境であったりと、
自己都合でそれを評価しています。
そしてトラブルの原因は、
この生活環境にあることが多いのです。
日本の企業です。職場環境はそれなりに
整っているものですので」
「ほーう。そげんもなんやねぇ・・判ったあ」
「多いパターンではありますが、それも憶測です。
その中でも色々な事情が絡み合っている筈です。
トラブルと言うくらいですから・・
互いの我慢を超えてしまっている筈です・・」
「そいばっかりは・・行ってから裁かんなぁね」
「はい。両方とお話をさせてください。ただ・・
桜井会長、極論なのですが・・・・」
「なんねぇ?なんでん言うてくれんねえ」
「はい。企業様に改善を求めようと思っています。
それが互いの為に最善と考えます。
これは企業様にもお話しますが、絶対的にワーカーが
不利なのです。彼ら技術実習生は、
契約した企業さんでその期間を過ごすしか道が無い
のです。弱者救済の意味からもそうしたいのです。
あと、企業側もどうでしょうか?
トラブった彼らが帰国後どうでしょう?
あの会社はダメと。日本はダメ制度がダメと、
後に妨げになる者です。
そうなると送り付機関にも情報が回り、
いい事は1つもありません」
こうして下野の仕事っぷりは初めて観るのだが、
初期的な考えは合格だ。でも・・
現場を観なければいけない。
極論と言い放った裁き方が俺とは異なるからだ。
「下野、向こうの調べに時間が掛っからよ、
送出先の情報だけ、先に貰っときなぁ」
「はぃ・・必要ですか?・・」
うちのGSAでは支援部に所属する下野だが、
受け入れ企業と、既に来日して働く連中との
間には立っている。
日本に来てからの彼らには多く会って来た
のだろうが、彼らのバックグランドを理解
できてこそ、企業にも最善の
アドバイスが打てるってモノ。
互いの妥協点で『我慢』させるのは互いの時間を
繕っただけになる。
互いにとって最善とは、『キレイな別れ方』である
事が、互いの『幸せ』につながる事もある。
そうそれは、男と女の結びの様に。




