ep.15."The Gathering Storm"
志布志湾が見渡せ、ダグリ岬の脇にある温泉宿の
宴会場に、30名ほどで始まった潮黒酒造の
品評第2次会と言うのか? 急遽の集い。
誰がどの様に声掛けをしたかも判らないのだが、
次から次へと人が増えて来る。
「途中からお越しの方々には何が何だかと
思いますので、もう一度、自己紹介を
させてください。私は、中山美鈴と申します。
丸十製作所で研究内容は明かせませんが研究員を
しております。もし、前に居られる西郷会長の
お許しが有れば、お話いたしますがぁ・・
そしてこちらが本田智則、
こちらが中村拓海と申しまして、
本田が熊本県人吉市で、中村は北九州市にて来季の
市長選に挑むところですぅ。私は・・
私も、できればここ志布志市で私たちの想いを
お伝えしていき、
この志布志で立ちたいと思います」
<・・・・>
「・・・・」
美鈴のこの発言には身内は勿論、西郷どんも
有川当代はじめ、最初からこの場に居た面々は
響動めきと共に、拍手を送る者、
大きな声で喝采を送る者もいた。
「いやぁこれは楽しみが増えました!
よく決心をしてくいやった(してくれた)。
微力ながら私にもお手伝いをさせてください。
ヨカですね? 西郷さん」
田中久議員がここ志布志で、どんな立ち位置で
どんな活動をしているのかは知らない。でも、
西郷どんに近い人物であることは確か。悪くない。
斎藤の表情が表すように、身内の中でも整理が着いて
いないのが見て取れる。でも俺は違った。
「えぇ皆様、少しお話させていただきます。
改めまして松田です。他愛もない話ですので、
どうぞ旨い焼酎なりをお召し上がりいただきながら
お耳をお借りいたします
・・・・・・・・」
簡潔に俺らの構想をハナから話し、
なぜスーパーシティーに手を挙げている延岡を
候補にしているか等を添え、しかしながらその候補地
が絶対では無い理由も付け加えた。そして、
「だからと申しまして、ここ志布志でSSを実現
できるかは正直、真っ白です。
部数がございませんので、お配りできませんが、
この様に延岡での計画書は、ここにいる彼、
斎藤が中心となり、ひと通り作り上げております。
どの資料も足掛け2年ほどを費やした物です。
ただ、こんな物は絵に描いた餅で、
旨い雑煮にも成りましょうが、
カビだらけで腐ってしまうかも知れません。
皆さまどうでしょう?
この中山美鈴にお力添えを頂けませんでしょうか。
皆様と一緒にここ志布志で、
一から創り上げて行きたい」
予想外の展開だった。
三州(薩摩、大隅、日向)で多大の影響力を持つ、
丸十当主や西郷どんに窺いを立て、
延岡での協力を得られれば良いと。
されど現国家政権にも通ずる中で、
俺らの想いに賛同までは無いとも覚悟している。
そんな俺の中の深層心理の頂点にあった
『最高の結末』に光を照らす展開だ。
もしかするともしかするぞと。
話題には事欠かなかったのだろう宴会の場。
代行タクシーの順番に減って行った志布志の方々だが、
西郷どんと有川当代は最後のひとグループを見送り、
俺の前に座った。
「ソン君、もうわい我年寄りは引退じゃ。
心残りはよぉ、正にこん国のことよ。
飛行機を造らんごとなってかぃは、
自動車自動車とよ、そいばっかぃ造っさぃ、
良かった時代も終わりよ。世界の産業が
変わっちょるとに、日本は変われん。
先進国とは名ばかりじゃっど。中山さんの研究も、
年々予算を減しちょぃ。研究してもやっせんもんじね。
世の中に出せないのよ。こん国ではね・・」
「会長、やはり当たり前の申請やルートではその・・
つまり、所轄の省庁では新しいモノの許可が
下りないと言うことですよね?
あれって何んでそうなっちまったんでしょうか?」
「アメリカよ。日本が恐ぇもんやじ、
飛行機も造らせない、あれもダメこれもダメ。
まあ時代背景がそうさせたのかも知れんばってんね。
1989年時によ、世界企業時価総額の
ランキング20の内、14社が日本企業だった。
銀行が中心やったが、それは不動産バブルで
キャッシュが飛び回ったから、
銀行の資産が増えたもんじゃった。
民間が頑張った結果よ。そん金の奪い合いに色々
な仕掛けをしっさえ、
スーパー301以上の半導体が潰され、
企業コンプライアンスだのコーポレートガバナンス、
やれFOX法てなよ、訳の分からないモノを植え込み、
郵政は民営化、個人情報保護法?
まーぁ日本人の、良い日本の文化が崩されたとよ」
「政治も行政も反発しないのですか?
出来ないのですか? しようとしないのですか?」
「うん。少なくてもそれに立ち向かう
政治家は居らんかったとよ」
「敗戦国だからですか?なんで
自分たちの首を自分たちで絞めるようなこと・・」
「ソン君はおい達より詳しいじゃろなもし。
あんたの方が良かん知っとろうがぁ。
そういう話じゃもん・・」
「会長、俺らも潰されますかね?」
「んにゃ。おはんらの考えていることは正解じゃ。
うんにゃ・・じゃばってん・・
気を付けんなら行かん事もあるかもね・・」
宿の通路も半分が消灯されるまでご自分が考えれる
アドバイスをくれた西郷会長との話し。
判ったことは大きい。
この人もこの国を、政治を、行政を、仕組みを、
変えなければならないと考えているという事だ。
午前中しか時間が取れないという丸十さんの
都合もあり、早朝から西郷どんが先導する
車の後を追った。
焼酎の酔いもあったのか、
早々と床に入った皆が顔を合わせた車の中で、
「いやぁー・・美鈴ちゃんの志布志発言には
肝を冷やしたよー・・
データとか俺に振られるんじゃないかと、
こっそり調べ捲くったんだよおー・・」
「ごめんなさぁい・・うん。
なんか質問が有ったら斎藤さんに
投げればいいわぁって思ってましたぁー」
「でもソンさぁ、お前まさか? 心にあったのかよ?」
「いや無えよ。いや、心にか・・有ったかもしれねえ」
「なんだよーそう思ってたんなら先に言えよなぁ・・」
「いや、俺じゃ無えだろよぉ、美鈴に言えよ」
「あらぁまたこっちに戻って来ちゃったぁー・・
なんかぁあの場の空気?あと、海が有って
山が在ってぇ、美味しい焼酎もあって。
志布志がいいなぁってぇ」
「延岡も同じなんですが・・」
「・・・・」
「ところで本当によかったかしら、松田さん。
本当に志布志で決定ぇ?」
「お前ぇが言い出したんだろよ。
自分で責任とれやぁ」
「そう。私が決めていいならそうするわぁ。
志布志ね!」
「おう。いいんじゃねえか。
でもまぁもうチィッとだけ待てやぁ。
今からそれも相談するからよ」
桜島と錦江湾を望む、市内の小高い丘の上に丸十当家は
在った。順子を籍に入れた年に赤石さんに連れられて、
ハマのオヤジとおふくろと家族で1度行ったきりで、
余り覚えて無かったが、見えて来た当家の周りには、
昔と変わらない藩旗の幟が並んでいる。
「すみません。予定が早まってしまって、
西郷さんに連絡しまして・・・・」
「いいんですよおー。いつ来てもらっても居りますよ。
今日は午後からたまたま指宿に出なくてはいけない
だけで。朝早くに呼び出してすみませんねぇ」
桜井会長ともそれなりに時間を掛けて話をして
おられたが、一通り皆を紹介し終えて、
みんなが広い敷地の庭や記念館を廻る間に、
西郷さんと3人で席に着いた。
「志布志にスモールインスモールなる街をお創りになる
そうですね。それにあの中山さんなら若き女性リーダー
として、申し分が無いですね。
いつもながらソンさんの行動には感服しますよ」
昨日の事がもう伝わっていることが判った。
時間も無い。
「当代、我々がしようとする事は丸十を含めて、
地場をいえ、日本を築き上げてきた方々にとって場を
濁す存在になるのでしょうか?」
「ん? それは邪魔になる。と、いう意味ですか?」
「はい。邪魔であったり、目障りであったり」
「そうですねぇ・・良く思わない人も
組織も多いでしょうね。しかしですよ、
それは何事にもある事です。
それを承知で始める事ではないのですか?」
「はい。勿論、承知の上です。つまり、その・・
私がお聞きしたい事は、丸十さんや西郷さんはどうかと。
お二方が、そんなことするな。やめとけ。
とおっしゃるなら・・」
「やめますか?」
「はい。このプランはやめます。
もっと良い方法を探り直します。
『人を幸せに』なんて言う手段です。
もっともっといいアイディアが有るはずですので」
「ソン君、あなた達が熟慮したことに、私が、西郷が、
反対すると思いますか? こうやって筋も通されて。
意見はさせてもらいますよ。
でもそれは一緒に戦う同士としてです」
「と・・いいますと・・それって・・」
「参加させてください。
我々もまだまだ捨てた者じゃないですよ。
まあ、されどももう歳です・・
うちの倅と、数名を預けます。あっ、
今晩はもうお帰りですか?
可能なら一緒に食事をしましょう」
「ソンくん、わい我はロシアん事業も、
モンゴルも内蒙古もベトナムもおはんが居なければ
出来んとですたい。
まちぃと遠慮せずに何でん言わんこちい」
「いえいえ。私なんか・・
いやそれはホビスさんの・・」
「うわっはははぁー 恐ろしか名前ですたい」
「ソン君、ホビスさんや阿貝さんは
この事はご存じですか?」
「はい。いや・・スタートさせることはまだ話して
いません。やることは知ってます」
「ほう。それな、らうち等が参賀することをお伝え
ください。モスクワへはまた挨拶には出向きますので」
<最高の結末の上ってなんだぃ?>
ホビスマネーを嵩に懸けた訳じゃない。
でもそこいらの感覚に期待が無かった訳でもない。
とにかく遠慮なく進めることが出来るということだ。




