"The Unreturnable Journey"
熊本に入り人吉では、斎藤のプランにデータと共に候補
としてピックアップされた場も在ったが、既に大規模な
エネルギー源も備わり、天然温泉も出る本田の祖父
所有地を中心に組み立てた。また本田プランでは、
豊かな山林素材を活かした循環型建築、田畑周囲に
ジャトロファ栽培、広大な私有地の中で近隣対策不要
とする家畜糞を利用したバイオマスなどが
纏められており、これらも進行中であるという。
現場に立つとその図面化されたプランが現実味を増す。
「あの両サイドの小川に面してぐるりとジャトロファ
を植えるのですかぁ。凄い。
暴風壁にもなりそうですねぇ」
「ここは風が通らないのです。
山頂から山頂へ抜けますので。
なのでかぜを防ぐということは考えていません。
それにおそらく、ここで育つ幹は3メートルが
限界だと考えています。害虫対策と若干の
バイオ燃料が目的ですが、
冬季を乗り切る品種を作ってみたいと、
実験的な面もあります」
「そうか!そもそも温暖な土地でしか栽培して
いませんよね?日本では確か、沖縄とか?」
「はい。内地ではハウスを用いたJIRCASなどの
試験場くらいかと。
うちが初めての試みになるでしょう」
「でも・・この辺りも冬は氷点下の時も
ありますよね、育ちますか?」
「このエリアに限り氷点下は稀です。
理由は地熱ですが、この図面の通り、
これです。この点線はパイプラインを表しています。
40度の源泉を流します。
これだけでは不十分なのですが、
バイオマスによる熱も導線に加える計画です。
あとは先ほど言いました通り、
ここにも根付く品種をつくりたいと考えています」
「ヤトロファには詳しいんだぜ本田。
俺と本田のキューピットみたいなモンだしな」
「ヤトロファ?じゃトロファ?キューピット?・・
会長と本田さんの仲人役ってことですか?」
「なぁーんだぁ。お二人って人材派遣の
お仕事しか松田さんを知らないのねぇ」
「はぁ・・派遣というか・・コンサルでして・・」
「私も拓海さんも、ジャトロファとかアブラヤシ
とかぁ、インシュリンとか漢方なんかも。
ぜーんぶ付き合わされたのよぉ。
陳さんはご存じぃ?」
「チンさんですか・・?」
「美鈴、お前さん達と下野も瞳ちゃんもよ、
知合い方も時期も違うべよ。
何でもかんでも一緒にすんなや」
「まぁそうよねぇ・・でも陳さんは会った方
がいいわよぉー面白いからぁー」
「松田さんに初めてお逢いしたのはベトナムの
ニントン省でした。いえ、正確にはホーチミン
市内の焼鳥店でした。私は休学して2年間、
JICAの海外協力隊へ入ったのですが、
行き先がそこだったのです。まさに、
バイオマスの多益性気候変動緩和策プロジェクト
のジャトロファ栽培研究だったのですが、
ある日、管轄の役人と軍が来て、ここは閉鎖だ。
直ぐに立ち去れって。
この土地の爆弾処理をするとかって。
JICAのプログラムですよー・・
1週間たってもひと月経っても土地が返されず、
我々はホーチミンまで撤退しました。
私はひとりで宿舎の近くに在った
その焼鳥屋に入ったのですが・・ふふふふぅ
・・ふぁっふふふふぅ・・」
「・・本田さん・・しゃっくり笑い・・」
「おいおい・・あんでそこ笑うかねぇ。
そこからいよいよ俺の出番じゃねえかよー」
「ふぅ・・はい。お店に入っら・・ふぁっっぷ・・
ふふふふふぅ・・すみません・・
長いカウンターに黒尽くめの女性たち
囲まれた裸の松田さんがいたのです。
ふぁっぷぅふふふ・・」
「・・本田さん・・そんなに面白い
お話しですか・・?」
「ああ、すみません・・確かに・・
その時は私も単に、場所を間違えたかと、
外の看板を見直しましたので・・
ロンにょーってゲームでして、
サイコロ振って大きいか小さいかという簡単な
ゲームでして。いつの間にか私もパンツまで
剥がされて・・プぁっふ ふふふぅ・・
負けたら、あっ、その黒服の女性たちはお店の
スタッフでして、焼鳥屋ですよ。
20人くらい居るんです。
その女の子を相手に負ければ一揆吞みか脱ぐかで、
いやぁー楽しかったなぁー・・
私の人生の始まりの日です・・・・」
「はぁ・・そうだったのですね・・にしても・・」
「あー失礼しました。落ちなんですが。
落ちがあるのですこの話し。あのニントンの
ジャトロファーを全部、研究用だけではなく、
長年あそこで栽培された全部を、松田さんが
買い取ったというのです。真っ裸で真顔で。
しかも政府を動かしたって。
話の内容から冗談では無い事くらい分りましたし。
いやぁー楽しかったなぁー」
「それって・・遣り兼ねないから判りますが・・
本田さんは?JICAにそれを?」
「いえ。松田さんに口止めされましたし、
面倒も嫌だったように想い出します。
何度となく所轄と折衝したJICAの報告書も見ましたが、
結局は軍事機密が隔たりとして、完全撤退です。
駆け出しの下っ端の私だけが真実を知る者
という優越感がありました」
「なあ本田ぁ、これだけは言っとく。
ニントンじゃ無え、ニントゥアン(Ninh Thuận)だぁ」
「・・・・」
「じゃ私たちがベトナム見せてもらったジャトロファ
は、もともと本田さん達の研究材料だったってことね。
横取りしたんだぁ。酷いわねぇ」
「まったく違うねぇ。本田達のなんざ、区画外よ。
それに、あん時の本当の目的は、
あじのもとさんが探してたサトウキビよ」
「まぁたぁ判らない話ぃ・・」
「味の素・・ですか?サトウキビ?」
「おう。大きな声じゃ言え無ぇがぁ っ」
「小さな声では聞こえないとかやめてくださいよ?」
「あっぁ ちくしょぅ・・」
大事な集まりに、事情も情報も持たない奴が入った時、
そいつに今までのそれを語る時間は惜しくない
。中心の連中には反復にもなるし、
カタルシスの効果ってのも期待できるらしい。
しかし、そうそう無関係の連中を頼る訳に行かない。
居なくなる人間をプロジェクトの頭数には入れられない。
「なぁ本田よ。拓海も美鈴もさ。
もう人も金もぶち込むからよ。
無駄遣いと思わ無えで、どんどん使おうや」
「無駄はダメよぉ。キチンと計画通り進めれば
無駄は省けるわぁ。それにやっぱり首長あって
のSSよねぇ。選挙に負ければ無駄になるわぁ」
「美鈴、俺はそうは思わねえぜ。ん?
本田は?拓海はどうよそこんところ?」
「初期の資金計画ではすべて回収できる計算ですし、
まあエリアによってですが・・斎藤さん、
この試算は選挙結果って反映されます?」
「それは中村君の小倉の試算で、門司の場合はまず、
土地の買収から組み立てが変わります。
払いが増えれば入りを増やさなければいけませんね」
「私のプランは規模の割に回収は早いですよ。
もちろん私が選ばれればの計算ですが・・
そうですね・・私ももう人吉に入ります。
私も辞め時です」
「いや。ちょっと待てや本田ぁ。
俺はお前さんはギリギリまで東京に残って省内で黙認
まで築き上げて欲しいと思ってる。
人吉は次の2031でもいいと考えてんだ」
「えつ・・いや・・私は早くやりたくて・・」
「SS創りだろう?遣りてぇ事はよ?」
「はぁ・・まあ・・」
「それは進めろよ。
サッキも言うたやん!はよやりなはれぇー」
「・・だからなんで関西弁・・」
「斎藤よぉ、出口をよ、あの資料をみんなに
配ってくれや。もう全部、出しチまいなよ。
でもみんな、勘違いはし無ねぇでくれな」
元より、志し同じくして始めるとこではあるが、
成るべくは『人の幸せ』とう抽象的にも
過ぎる集まり。
手段としてこれら仮称SSというモデルを築くのだが、
その先の『人の幸せ』とう抽象度が上がるに連れ、
大阪の様な道に至るのではないかと想像する。
それも有りかとも考えるが、確実に変わり行く
社会に、その先を託す。いや、変えようとする力に
託した俺らには、答えが間違っていた時の
準備も必要だった。
つまり、変わらぬ社会には俺らの産物など不要と
結論付けている。
そして、社会が、日本が、
世の中が、変わらないと・・
変えようとする力が負けたと・・判断した時の
後始末に用意した『帰らぬ旅』と題した資料。
「会長、目次のこの4項目、ヤドカリって・・」
「おう。まあゆっくり中身も見て見なよ。
ヤドカリはやどかりじゃねえかよ」
「転売ですね。造っては売る創っては売るで、
殻を替えていくのですね! なるほど!」
「俺らのSSは面白れぇ物に成る筈だ。
面白いモノには相当の対価が付くモンよ。
大小造って売っ払っちまえばいいのよ」
「でもこれ・・売却先の想定・・
日本人や企業らしき名前じゃ無いですよね?・・」
「おう。この資料は変わらない日本の結果だ。
相手は中国含む海外さ」
「これは何ぃ!?最後の項目ぅ・・独立行政国?」
「おう。あり得ないかぃ? SSまたはスモールシティー
を独立させるのよ。一つ二つじゃ話になら無えが、
散りばって数が纏まりゃ、国と地公体との関係を
謳った自治法くれぇ変えれるだろよ。
後には多数派を取ってやりゃいいじゃないか」
「エェー・・本当にそう言う内容なのですか!?
ちょっとぉ・・いや・・よく読ませてください。
もう少し時間をください・・」
「まあ内容はちょっと チャうけどなぁ だいたい
そんなモンやぁ~。まあよう見てみなはれぇー」
「ちょっとぉー関西弁で茶化さないでくださぃよぉ・・
大事な事ですよぉ・・」
「冗談だぃ。そんな逃げ道なんかよ。
そん時に考えりゃいいじゃ無えかぁ」
『帰らぬ旅』を見つめながら、人生変えて先頭に立とう
とする本人たち、本田、拓海、美鈴の目の輝きを視て、
茶化すくらいしかその場を収められなかった。
『必ず変わる』と信じながら。




