"Where Ideals Collide"
大分空港へは一人、候補地首長選挙のキーマンも
呼んでいた。 沖縄からの便で来る彼より、
先に到着した俺らは2階のラウンジに入った。
「松田会長、先ほどは下野さんと何に興奮
していたのですかぁ?」
「いや・・俺は興奮なんかしてませんし・・
会長を宥めてただけなのよぉ・・」
「悪りぃなぁ・・つい大きな声が出たわな・・」
「両方に相乗りさせるぅーってハッキリと聞こえ
ましたが、誰と誰を何に相乗りをさせるという
お話だったんですかぁ?」
「おぉ・・おぅ・・瞳ちゃん、
多分お前さんも政治活動の為にここに来た
と思ってるんだろ?」
「はい。そう思っていました。でも、所々お二人
のお話が聞こえていましたので、特に国政に出
ないという事とか、備えの為だとかって、
でも後ろの席って聞こえづらくて・・」
「そうかぃ・・」
沖縄便を待つ間に今度は近松を相手に同じ様な
繰り返しをした。そして、
「わかりました。でも具体的に、そこの住民に与えられる
メリットであったり、そもそもお仲間が市長や村長選に
勝って、本当に首長に座れるのでしょうか?」
「おうよ。皆が幸せってのが売りだからな。
そこのところの細かい話は、一緒に廻ってりゃ判るからよ。
選挙だけど、俺らの計算じゃ勝てるのよ。
まぁこれも直ぐに視えて来るわなぁ」
「会長、今お待ちの斎藤様というのは、もしかして、
Juneの斎藤さんですか?」
「おぅ。なんだ?下野君は知ってるんかぃ?」
「はい。なるほどぉー!はい。ホーチミンで、いや・・
June Vietnamの立ち上げには私も参加させて
いただいたのと、Juneのグループにはうちの紹介で
相当数のVNエンジニアが行ってますのでぇ」
「そうなのかぃ!いやな、斎藤がジューンを上場させた
のはよーく知ってるが、そのJuneが何をしてるかは
俺ぁ知らないんだわ」
「えぇ!?・・そうなんですね・・」
俺らの伊丹便より1時間遅れで着いた斎藤、
「ソン、待たせたなぁ悪りぃ悪りぃー」
「時間通りじゃねぇかぃ。また太ったなぁ」
「斎藤さん、GSAの下野です。ご無沙汰しました」
「おっ!そうかぁー。ソン期待のバランサーってのは、
正雄くんだったのかぁい!そりゃいいわ」
「・・バランサー・・ですか・・?」
「斎藤、こっちが近松瞳だ。紹介は後にして出ようぜ。
もう迎えが待ってるだろうしよ」
九州でのうちらの候補地は、
・福岡県北九州市
・熊本県人吉市
・宮崎県延岡市
で、この九州エリアに限らずだが、
俺らの強力な支援者がここ九州にもいる。
「おーい竜ちゃーん、こっちこっちー」
「桜井会長すみません、会長自ら迎えに
出向かせてしまいました」
この桜井達夫も元は極道で松田のオヤジの朋友だった。
商いも達者で、昔からピンキリの商売を手掛けていたが、
中でも水産関連では有名な人物だ。
「竜ちゃん、今日の集合場所、勝手に変えさせて
もらったば。皆には連絡したのでヨカろうもん?」
「はぁ・・そりゃお手間をお掛けしました。
ハナッから会長にお願いすりゃ良かったんですが・・」
「ヨカよかぁ。どうせ喰うならよ、
旨か魚を喰わんならねぇ!」
何か喋ろうとした近松を宥め、車に任せるまま国道10号
を北上し、別府に入って直ぐに海辺へ折れ、海岸が
目の前に広がる2階建て木造の旅館で停まった。
何台か車が並ぶ駐車場には大きく、
本日貸切と貼ってある。
「さあどうぞどうぞぉ。我が家と思えばヨカけん」
宿の中には既に3人が来ていた。
小倉で産まれ、親御さんの海外出張に付き周り、
現在では東京の弁護士事務所に務める中村拓海。
人吉に広大な山林を所有する祖父を持つ本田智則は、
東大出の某省現役のキャリア官僚だ。
中山美鈴は、京大からモスクワ大に行き、
ホビス寮で2年を過ごした後、
丸十製作所で研究員をしている。
「よう!みんな早ぇなぁ。ここで知らない顔は・・
この2人だなぁ?」
「皆様、メールばかりの連絡で失礼致しました。
下野です。こちらが近松です。
よろしくお願いいたします」
「松田さん、皆がお会いするのは2年ぶりですよ。
もう少し、月一くらいは
こういう場を設けてくださいねぇ」
「ん?美鈴、そんなに会って無かったかぁ?」
「ハハハぁ 私らと同じでチャットばかりで、
それで逢った気になっているのでしょう」
「拓海さんもそうなんですねぇ。本田さんも?」
「いえ。私は・・」
「本田君はお前さん達の様にいか無えよ。
お前さん達もチィたぁ気遣えやぁ」
「はいはい。キャリアは不自由ですもんねぇ」
「そうだなぁ、本田君は斎藤とは初めてだったか・・」
「いえ。先週に斎藤さんに出向いていただきました。
私の資料は全てお預けしました」
「ソン、そこんところは任せてよ。
俺は本田さんの事も解ってるって」
「そうだな。すまねぇ頼むわぁ。おぉ、
お前さんらも斎藤に資料は渡したのかぃ?」
「はぁぃ。ママの母乳を飲む写真から
習い事に趣味、パンティーの色まで全部
渡しましたぁ」
「おお!今日はなん色ね?美鈴んパンツはよ」
「もぅ!ホントエロじじぃ」
「おまえさぁ・・桜井会長つかまえて、
そんな事言えるの・・美鈴くれぇだぜぇ・・」
普段の連絡とは違い、膝を突き合わせる今回の大事さは
皆が理解している。各々が日々の暮らしの中で思考を
養うのだろうが、この集まりの大きな目的の一つは
志向の再確認と共有にある。
志し(こころざし)に変化があるのも人。
目指すモノさえ同じであれば、互いの思考が
ぶつかっても、いや、本音でぶつかるからこそ、
本当の調和が生れる。
俺は『和』を見極めることで個々の志を
再確認する責務にある。
部屋割りも無く、六つ在る部屋を自由に使えとの事だが、
大広間に男5人が全員入り、露店の風呂が備えてある
部屋を女2人が使う事になった。
日が落ち始め、醤油の香ばしい香りに誘われ、
漁師の主人と女将が夕飯を仕込む食堂に集まった。
「こん港に揚がるヒラメも鯖も旨かば、
五島んウチワエビ、有明からは竹崎カニも
運ばせたもんで、あがぃやんせ(召し上がれ)」
旨いメシというモノはこの上なく人を幸せにしてくれる。
そこには笑顔と笑い声が響く。
「桜井さん、この肝ですか?すごく甘くて美味しいぃ。
これは何の肝ですか?」
「お!ひとみちゃんじゃったな?フグん肝は初めてか?」
「ああー!これが河豚の肝なんですねぇ!美味しいぃ」
こんな事でも色んな話が飛び交う。
もうここ(大分)でしか食べれない。
いや、大阪でも神戸でも食べれる。
そんな筈は無い。条例違反だ。営業停止だ。
東京でも会員制の店で・・・・
「おぃおぃ・・埒が明かねぇや。会長、
答えはあるんですかねぇ?俺は肝の出ねぇてっちり屋
には行かねぇから、店には聞いたことあるんですが、
養殖の河豚は大丈夫だって・・」
「はい竜ちゃん。答えはよ、こん大分の養殖場は徹底
して天然が入らんごと管理ばして、餌もなにも
苦労して毒が回らんごとしちょる。
町興しの一環じゃけん、フグ条例にも、
こん大分だけは『良しも悪し』も書いちょらんとよ」
「ほう。なるほど。つまり俺らがあちこちで喰う
フグはこの大分産の養殖ってことですな」
「んにゃ・・それはドゲンか?分からんとぉ。
ここん養殖もよ、そがいに量は無ぃもんじゃけんのぉ。
よその養殖場の物が殆どと考えた方がヨカよ。
まぁ当たるか当たらんか?
運試しみたいなモンじゃ ガハハハぁ」
次から次へと振舞われる料理の話しも、
地元と壱岐の麦焼酎、果てにはプレミアな芋焼酎の
話まで尽きる事無く夜が更けていく。
宮崎の焼酎蔵の話しの折、
「拓海さんが北九州市でしょう。
人吉は本田さん、やっぱり私が延岡市ねぇ?」
と美鈴。
「そう考えてる。だめか?」
「どこでもいいわぁ。このグループに呼ばれた時に
あぁ私は宮崎なんだ。って判ったもの。でも・・」
「なんだぃ自信が無ぇかぃ?地元が良かったかぃ?」
「地元ならそれはいいわ。
でも構想に札幌は入って無いでしょう?
北海道は更別村ですもの・・
私がここに来たって事は、やはり丸十?」
「ああ。出来れば今回のどこかで、
丸十さんと西郷さんには逢いたいと思ってる」
「どうかしらぁ・・
現代日本を創り上げた人たちですよぉ。
私も退職するし・・」
「おん?竜ちゃん、丸十はんに電話はしたんね?」
「いえ未だです。ここが落ち着いたらと考えてます」
「こっちは予定通りに進めんならよ。
じゃけん来週早々で会う段取りを着けんね。
なんならオイ(私)が電話をしよかね?」
「いや・・そうですね。明日ん朝にも連絡してみますよ」
美鈴が言う通り、近代日本の創り上げた立役者たち
の末裔にあたり、現代でも政局に影響力を持つ。
俺らの考えを深く話せば理解は得られる筈。でも、
どこか宣戦布告的な罪悪感で躊躇していたのも事実。
どっちにしろ挨拶は避けれないと腹を決めた。




