"The Brotherhood We Choose"
俺も馨も後戻りは考えていない。量子的AI技術により
完全に移り変わるであろう世の中に、俺達が生きた証を
残すためには前に進むだけだ。
過去に完璧を求める事は無いが、
出来る限りの手を打って集う連中の幸せを祈りたい。
そう、俺らがそれを完璧には出来ない。
あとはそれを求める連中に託す。
「池ちゃんよ。仲間ってのはいいもんだな」
「どどど・・どないしたんですか?」
「フフゥン・・いやな・・池ちゃん仲間ってよ、
どっから何処までが仲間よ」
「そそそ・・それって連れ(友達)とか仕事とか、
範囲によりますよねぇ・・」
「そうよな。俺にとっての仲間ってな、
守ってあげたいと思う奴達なんよ」
「はぁ・・なるほど」
「だからよ。そいつ等がさ、俺のその気持ちを
解ってくれてるって感じた時によ、
マジ仲間なんだなってよ、思う訳さ」
「そうですねぇ。こっちが一方的に守ったりたい
思ても、向こうがそんなもん要らんかったら
甲斐無いですもんねぇ」
「まあ別に見返りを求めてるじゃ無えけどよ、
親しき中にも礼儀ありって良く言ったもんだぜ」
「おおお・・思いやりは大事ですわぁ。
気遣いが大事ですわねぇ!?」
「お!そう思うかぃ?気遣い合って仲間かぃ?」
「いや・・なんとなく・・」
「池ちゃんは俺に気遣い無しかぃ?」
「いや・・あんまりよう分からんので・・
その・・」
「ちたぁ気ぃ遣えやぁー フフゥン」
「ははは・・はい。遣こてるつもりですけど・・」
「お!なら疲れてませんかぁ?
運転代わりましょうかぁとか無えのかぃ?」
「あっ・・すんません・・思てはいたんですけんど
・・こんな車、怖ろしゅうて・・」
「フフゥン冗談だよ冗談」
明日は土曜日、
道場は生徒で溢れかえる日だと思い、
そういえばもう永く土曜だから
日曜だから休みという感覚が無い自分に気付く。
よく聞く『公私混同するな』など縁が無く、
何処どこの役人が私用で公の車に乗っただの、
公の事務所に私用のサウナを置いただのと
いう意味での『公』は、俺らの世界では
『職場』なんだろうが・・
民間でも聞こえてくるそれには可哀そうに
と同情すらする。
時間の使い方が違う筈なのにと。
「おおお・・おはようございますぅ。
今日は手法、教えてもらえますかぁ?」
「おお。何処かで朝めし喰って事務所に行こや」
独りのこの家になってから自炊は数回しか
したことが無く、カオルん家でMaiが作って
くれる飯を喰うか、外メシだ。
朝の殆どは岩屋の栄食堂で喰う物も決まって来る。
今朝も大めしに鯖の煮つけ、納豆と塩辛に山芋とろろ、
いつものみそ玉をかす汁に替えたくらいで
大して変わらない。
「よよよ・・ようさん喰いますねぇ?」
「おかずは取らないのかぃ?腹いっぱい喰いなよ」
「いやぁ。神戸言うたら、ぼっかけでしょう!
これで充分ですわぁ」
事務所に着くと既に道場からはカオルの声が響いていた。
「お!池野くぅん、どないや一緒にぃ」
「いいい・・いえ、遠慮しときますぅ・・」
「ハハハハハあ 運動もしぃよぉー。
まあいつでも相手したるサカイおいでぇー」
「ははは・・はぃ・・」
「時間はたっぷりあるんだからやって来なよ。
若いのに体が鈍ってんだろ」
「いや・・面白そうですけど・・あの人、
徳山さん・・恐いですわ・・」
「ぷっ・・フフゥン。まなぁ」
「あの人が極ヒンさんでしょ・・有名ですもん。
うちの連中から武勇伝を聞きましたわ」
「はぁ?ゴクヒン?・・」
「はい。新川の極ヒンさんって、
俺らは知りませんけど・・中学生の時から
大阪や京都や奈良にまで届いてたって」
「お?そうなのかぃ?俺は知らないわぁ」
<ま ありえるわな>
「そやけど何で極ヒン言うんでしょう?
ヒンってなんでしょう?
お名前は徳山馨さんですよねぇ?」
「ぷっフフゥン。本人に聞いてみなよ」
「いいい・・いや・・やめときますわ・・
それもですけど・・なんですかぁここ?」
道場脇から覗けるうちのデスクを観る池ちゃん。
「うちらの本部事務所よ。まあ入れや」
ステンレスとミラーを強調した、
畳敷きの道場からは想像できない筈の事務所に立ち、
しばらく声を出さなかった池ちゃん。
「どどど・・どこに居っても、モニターが
見えるようになってますねぇ・・エゲツなぁ!」
「ああ。果てはウラジオストックまであちこちと
webミーティングがあるしなぁ」
「なるほど。どのパソコンからも資料が共有できる
んですねぇ。こりゃ単なるトレードオフィスと
ちゃいますわぁー・・エゲツなっ」
「どっかに池ちゃんのPCが来てる筈なんだがよ・・
まあ範くんが来るまで待ってやぁ」
「はぃ?おおお・・おれのPC・・ですかぁ?」
「おう。中国製だがよ。うちの範くんが組み立てんのよ」
「ああ!ここのやつ全部そうなんちゃいますかぁ?
これ全部エゲツないヤツですよぉー」
「おう。俺のノートも奴の自作だ」
「これ多分100万はしますよぉーエゲツなっ!」
「フフゥン。3割ってとこだ」
「ままま・・マジっすかぁ!? ・・」
本題に入る前が長かった。
事務所の装いからPCの1台1台を触れ回る
池ちゃんの体と口が止まらない。
やっと来てくれたランがお紅茶を入れてくれて落ち着いた。
ランのお紅茶は順子のそれに等しく、人の心を虜にする。
「こここ・・こんなぁ旨い紅茶・・はじめてですわぁ」
「そうかぃ。ただの紅茶じゃ無えんだぞ。お紅茶だ」
「はぁ?おおお・・おこうちゃ・・ですかぁ?」
「お紅茶を語ると長くなっからよぉ、始めようやぁ」
池ちゃん用に範くんが組んだPCのハードはピンク色だった。
どうやら池ちゃんと言った俺の言葉から女の子だと
決めて掛かったらしい。
「ももも・・もうちょっと・・いや、
半日ほど時間クダさぁい。
色々とセッチングしたいんですぅ・・」
「そうか。OK。じゃ今日はよぉ、
うちの金商ツール入れて、それも自分でイジッてみなよ。
俺ぁちょい出て来るわ」
一つの事をするには色々と相手の都合が働く
ことは充分に知っている。
そんな合間には、俺は俺の都合をやりくりするだけだ。
往復しても3時間ほどの候補地、養父市へ走った。
ここは20年ほど前に4つの町が合併して1つに
なったのだが、役場の現状として10を超える部署に
40を超える課施設を設けている。
俺らが候補に上げている所は大体こんな感じで、
国の号令で仕組みを変えようが、長い年月を掛けようが、
本質はまったく変わらなく、
利権の保守の部署と課施設を数多く設けているのが特徴だ。
そんなことも含めて、俺らの求める条件にはいいネタで、
スーパーシティに手を挙げる連中も存在
する面白さもいい。加えてここは、
兵庫県内の市の内では1番、
人口が少ないというのも好都合だ。
いつもの様に役所の空き家ネットで情報を拾い、
その場を巡る。帰りには、少し足を延ばして
出石の蕎麦を土産に買込んでからまた高速に乗る。
「お帰りなさぁい!これ簡単過ぎとちゃいますかぁ?」
「お?なにがよ?」
「これ結局、この上下の三角印が売り買い歴なんでしょう!?」
「ああ。チャーとかぃ。そうよ。ツールの組込みは見たかぃ?」
「いや・・ととと・・途中で範さん居らん様になってもて・・」
「ランは?ランも居ねのかぃ?アクセス権もらわずかぃ?」
「はぃ・・おねえさんも一緒に出て行きましたぁ。
何ももろとりませんし・・」
「ったく・・ほらよ。これで入ってみて見なよ。
俺はもうちぃと離れていいかぃ?」
「ははは・・はい。見させてもろときますぅー」
「カオルー ちぃと時間無い?」
今回の養父の往復で思ったこと、俺がチマチマ行き来し
てたんじゃ埒が明かない。
もう次の一手に出るべきと考えた。
「どこ行っとんたんやぁ?ワイもそろそろ
帰ろぉ思とったんやでぇ」
「養父へなぁ。時間余ったからよ」
「おう養父かぁ、蕎麦はぁ?出石は行かずかぁ?」
「あっ・・車ん中だわ・・」
「買うて来たんかぁー ハハハハハあ。
ほな今晩はうちで蕎麦やなぁー」
「ああ。行くわ。ところでさ。そろそろ候補地に人を
送り込もうって思ってんだけど、どう思う」
「エエやんけぇー。急げぇ言うたんはワシやしなぁ。
そらエエけどぉ、人数は揃ろたんかぁ?」
「まあそこそこな。まだまだ足りねえけど
皆んな意識は高けえよ」
「ほなやらんかぁい!・・そやなぁ・・
ワシもそろそろ道場抜けるわぁ」
「そこんとこは任せるわ。ハマの力也と相談だけしてやってくれやぁ」
「ほやな。力も館長やしなぁ。こっちは“すてぇぶ”にやらすわぁ」
「スティーブな・・」
「そうとも言う。 ハハハハハあ」
「・・・・」
「あれやろぉ、銭ぃようさん(沢山)使うんやろぅ」
「ああ。順次だがその都度、予算組するわな。
心配すんなやぁ」
「ちゃうわぃ。心配なんかして無いわぃやぁ。
あん何にぃ銭を使う時は気ぃ付けななぁ。
後々メンドクサぁなるでぇ。
中島先生とかにぃ、よう相談しぃやぁ」
「おう。税理士も弁護士も飛ばさねぇよ。
しっかり打ち合うかんよぉ」
<たまにクソ真面目になりやがる 笑>
「池ちゃんどうよ? そうだ、今晩はカオルん所で蕎麦なぁ」
「ははは・・はぁ・・徳山さんの所でですかぁ・・」
「なんやぁ?うちやったらアカンのかぁ?」
「あ・・あ・・いえ・・」
「おおそうだぁ!カオル、極ヒンって何んよ?」
「はぁ? えらい昔の話しやなぁ。アレ達
やろぉ池ちゃん。お前のとこの奴らやろぉ」
「ははは・・はぃ・・みんな言うてましたぁ・・」
「ハハハハハあ。竜司ぃ、まあ結局ワイが
最強やったんやぁ ハハハハハあ」
「あそ・・んで、今日はMaiは居んの?」
「お前今日は土曜やでぇ。普通は休みやぁー。
まあワイらには関係無いけどなぁ ハハハハハあ」
「だったなぁ・・池ちゃんよぉ、今日はもうやめようぜ。
ランも範くんも半ドンだわ。帰って来ないわぁ」




