"Between Honor and Hustle"
無事に昇級昇段イベントを終えた道場では、
恒例の地域住民との交流パーティーが行われていた。
日本パップキドー協会理事長としての挨拶や、
普段触れ合うことが少ない幼児の部の道場生に
その親御さんとの一時は、
俺にとって大事な場だ。
予期せぬ客となった川崎会長の相手をする間が
無かったのだが。
「勝手にお邪魔して、つまみや酒までヨバレて
ますんやサカイに、
ワイらに きい使わんと(気を遣わず)
いておくんなはれよー」
と、至ってまともな人で救われた。
佐久間本部長も、その顔から想像もつかない笑顔で
カオルとジャレ合っていた。
程よくして会長から、
「お邪魔しました!今日はこの辺で
先においとましますー」
「あ!もうお帰りですか?すみません。
バタバタとしてお相手も出来ず申し訳ございません」
「おやじからキツく言われてますんで、
今後はひとつヨロしゅうにお頼み申し上げますぅ」
「こちらこそ。会長、明日はお時間がありますか?」
「はい。いつでも暇にしてますんで」
「じゃ明日、事務所に上がらせて頂きます。
10時でどうでしょう?」
「10時でんな!わかりました。
お待ちしておりますぅ」
俺たちはハマで軽貨物の組合を興していたので、
流れは把握している。
そして連中がそこで何ができるかも心得ている。
知りたかったのは人材だ。
翌朝もいつもの様に仏壇の前で禅を組み、
カオルと共に難波に向かった。
「川崎はん、チョンジュ(全州市:韓国)
いうとこで腹刺されてもうチョっとで
撃たれかけてた時にクワンジャニンらが相手を
ケチョンけちょんにいわした(倒した)
らしいねん。
すっちゃえーしょんは知らんけんどぉ」
「シチュエーションな・・」
「そうとも言う」
「そうとしか言わねぇの」
「どうでもええやんけぇ!とにかくその後ぉ、
日本でテコンドーの大会の時に
偶然に合おたらしいわ」
「あぁ。テコンドーやら韓国事に精通してる
らしいぜぇ。んで?
昨日は佐久間さんと何話してたんよ?」
「ああ。あの人は俺らの3つ先輩やぁ。
京都の悪やぁ」
「3つ!? 3つ上だけぇ?」
<あんだよあの貫禄・・>
「そや。佐久間はウソ名や。
孫兄弟いうてなぁ宇治では有名やぁ」
「ソンさんか・・中国人?韓国人?」
「知らんけんどどっちかやろぉ」
<ま・・多いわな>
30分も早く文楽の裏手を示すナビの場へ着いた時、
道端には大勢のイカツい方々が並んでいた。
「ご苦労さんです」
<・・いまどき・・>
車をもう一台買おうと改めて決心した。
佐久間さんの出迎えで上がった難波極東会の事務所は、
神戸の岸田会長の事務所とは
比べられないほど広かった。
半分ほどはPCとモニターで埋め尽くされ、
もう半分には大きなテーブルとソファーがあり、
人もザっと20人、その奥に通されたのだが、
応接室に4人居て、
更に奥に会長室だろうか部屋が見える。
「きの(昨日)はスンマセンでしたなぁ。
まあ掛けてください」
今日も渋いスーツ姿の会長。
「いえ。
こちらこそ愛想無しで申し訳ございませんでした」
「どないです?アホ面ばっかしでっしゃろぉ」
「はあ。いえいえ。正直、感心してます。
あのパソコン部隊は何をやってるんですか?」
「あ!企業秘密だす。ふむっつ
プワッはははぁーウソだです。
公営賭博は馬からボートやバイクまで全部
あれで管理してますねん。
あと、先物も株も為替もやらしてますねん」
「なるほど。景気はどうですか?かなり儲けて
るんじゃないですか?」
「あかん。あっちが良かったらこっちがあかん。
こっちがええ感じになったらあっちがアカン・・
て、上手い事行かへんもんですわぁ」
「川崎会長、お願いがあるのですが
聞いてもらえますか」
「お?はいな。何でも言うてくださいよぉ」
「俺らとの話に盛った話も謙遜した話も無しで
お願いできませんか。」
「・・そやな。そうでんな!
よっしゃ分かりました。そやけど・・
何から話ししまひょ?」
「ありがとう御座います。
じゃ先ず聞かせてください」
真正直な会長は、俺にとって聞きたくない
極道家業なことも話されたがそこはスルーしながら、
適材適所を当たっていた。
モニターの陰に隠れてまったく目立たなかったが、
その目を真っ赤にして我武者羅に
PCと向き合うジャージ姿の彼が気になった。
「あの人は?」
「ああ池野ですわ。おーい池ぇチョットおいでぇー」
「あああ・・あの、いいい、今・・ててて、
手が離せません・・」
<おお!?ドモリ!>
「フアッファファファー。
すんませんなぁーあいつドモリでんねん」
「いえ」
俺は彼の横に座れせてもらい、
「池野さん、少し見ていてもいいですか?」
「ははは・・はいどうぞ」
テキストエディタをポンポンと打込むそれはうちの
ランには及ばないが悪くはない。
「そのソースは何用?」
「トレードのインジケータをUPさせています」
<ほう・・ドモらないね!>
「あの競馬画面に連動したデータやあっちの
チャートなんかも池野さんが作った?」
「はい。こここ・・公営競技は10年分のデートを
基本に毎日更新されます。
ローソクはサインが出る仕組みだけで、
あまり手を加えられていません。
確立した手法に悩んでいます・・」
「ほう?トレードスタイルは、ごめん。
株なんかも池野さんが仕切ってるの?」
「はい。みみみ・・みんなにはかなりの時間を
使って1から教えたのですが、
無理でした。今は私しか取引していません」
「稼げてる?」
「ままま・・負けが込んでます。
その穴埋めはしていますが・・」
「一日中ここに座ってんじゃないのぉ?」
「ははは・・はい・・ややや・・
やることが多くて・・」
組合組織での人的役割分担を探りに来たのだが、
この池野君にはもっと違うことをやらせて
あげたいと思った。
「会長、俺が口出す事じゃないのですが、
少し池野さんを休ませてあげた方が
効率が上がりますよ」
「お?池ぇ、お前休み取ってないんかぁ?
ホンマやなぁー疲れた顔しとるやないかぁー」
「ははは・・はい。だだだ・・大丈夫です・・」
「会長、うちの連中を何人か
ここに寄こしてもいいですか?
彼の作業分担位なら出来ますんで」
「ほうかあ?ホンマに頼んでもええかぃなぁ?」
「いやいや。
こっちがそうさせてくれと頼んでますので」
「なんやスマンなぁ・・あれが稼ぎ頭やねん・・
うちも頭がおったら何とかやり繰り出来てたん
やけんどな」
「あ。そう言やぁ頭さんは?」
「勤め中やぁ・・まだ10年は出られへん・・」
今の世の中で、岸田さんの配下では得意な本業が
遣り難いのがしみじみと解かる。
「竜司、まだ居るやろぉ?
ワシら下の道場行ってくるわぁー」
<そういやテコンドーの看板あったな!>
「おう。まだ居るつもりよ」
よそん家だというのに先頭で階段を降りる
カオルの後ろには、佐久間さんがぞろぞろと多くを
従えて続いて行った。
「竜司はん、弁当取るつもりやねんけど
昼飯はここでよろしいかぁ?」
「あっすみません。いただきます」
会長に夕方までお付き合いいただく承諾を得、
ラン以下、うちのデスクの中枢を呼んだ。
彼らを待つ間に、ベトナムで送込み機関に
深く携わるうちらが直接、
新たな組合を興す事で特にベトナム人ワーカーを
受ける際の弊害を説明して、
表に立つ代表から理事役員など、すべてのポジションの
人選を川崎会長に託した。
まずは建設業とサービス業だ。
1時間ほどでランが3人を連れて来た。
「お!話には聞いとったけどホンマに
ベッピンさんやなぁー。あんたベトナム人やてなぁ」
「はい。私はベトナム人です。
彼は香港人、彼と彼はインド人です」
「なんや・・日本人、ひとっりも居らへんのやなぁ」
<笑い・・そう思うわな>
「うちの神戸は居ないんですよ。
横浜の主力は日本人ばっかりなんですがね」
「まあ、うちらも日本国籍は少ないねんけんどなぁ。
フアッファファファー」
「ん?会長は日本人じゃ無いのですか?」
「ワシも한국 사람(ハングク サラム)やねん」
ランに池野君を紹介し、俺と会長は韓国で
ルーカスクワンジャニムと出逢った時の
ことなどの世間話をした。
大きな笑い声と共にカオルたちが戻って来た時、
池野君の横に座るランが、
「もう解りました。後はどうしますか?」
「お!そうね。池野君、まずは池野君がひと月ほど
そこに座らなくてもいい様にするには、
どうしたらいいと思いますか?」
「ははは・・はい。無理です・・」
「いやいや。池野くん・・例えば、
彼らがその席で代わりは出来ませんか?
または、・・」
「はい。おおお、お話をしていて分かります。
この人たちの誰でもこの席の仕事はできます。
ででで・・でも・・」
「でも? 何か問題ですか?」
「ははは・・はい・・一つはトレードです・・
ももも、もう一つは・・
稼がないと・・その・・」
「・・うむ。じゃもう少し聞かせてよ。
トレードの何が問題?」
「はい。ととと・・トレードは、私の・・
さささ・・裁量でやってますので、わわわ・・
私が居ないと・・」
「なるほど。じゃー、もとい。
でもそのトレードって負けが込んでるでしょ?」
「はい・・最近恐くて・・
途中で切ってばかりで・・」
「あるね。俺はよく知ってるよ。ごめん、
もう一つ。んでさ、稼ぐってのは?どゆ意味?」
「ああ・・つまりその・・ととと、トレードの
穴埋めに色々・・ややや、やってます・・」
「ごめん。ホントにごめんね。会長、池野君は
いくら稼がないといけないのですか?
元手は幾らですか?」
「500くらいかぁ池ぇ?
先月もそれくらい入れてくれたなぁ?
元々なんぼやったかいなぁ」
<・・トホホ・・>
「ははは、はい・・」
「池ちゃん、ちょっとトレードの履歴、
見せてくれない?」
「あ・・はい・・かかか・・会長、よよよ・・
よろしいですか?」
「なにをや?なんでも全部オープンにせえよぉー
竜司はんが言うことは嘘隠し無しやぁー。
皆も覚えときぃ」
証券口座の歴では判らないとこも多かったが、
しっかりと付けられていた帳簿で
かなり視えて来た。
「会長、元は2年前のこの1000万ですね?」
「おうそやったと思うわぁ・・
こいつその月から毎月毎月ぃ1000万以上入れて
くれよったんやけどなぁ。半年前位からかぁ?
半分になってもたなぁ」
「会長・・そりゃ酷ってもんですよ。
率にすりゃ優秀が過ぎますよ池ちゃん」
「そやろ!よう稼いでくれるねん。こいつはぁ」
「池ちゃん、
現状を会長に理解してもれっていいかな?」
「ははは、はい。おおお・・お願いします」
先ず現状の元金が200ほどであること。
競馬を含む公営賭博の予想サイトの収益が
300~400であること。
ECサイトの上りが100程を維持している事。
株と先物は半年前に決済し、現状は為替だけを
瞬時の取引をして
取引口座の残高を減らしていることなどを伝えた。
「池ちゃん、当初はFXで儲けてたんだね。
その間に予想サイトとかECとか作ったんだね」
「ははは・・はい」
「ラン、予想サイトへのマーケテイング
ぶち込んだら延びるくナイ?」
「SNSは駆使しているみたい。それで、
これだけ捕まえたんだからぁ潜在能力のある品ねぇ」
「どう?池ちゃん」
「はい。半月に30万円くらいの予算が組めれば、
1年後には10倍は行くと考えています。
でも・・」
「フん。30万が辛いわなぁ。OK」
「あと池ちゃん、トレードは俺の手法でやってみなよ。
もともとは4時間のスウィングだったのかな?
にしても疲れるだろよ。
そんなことやってるからファンダメンタルに喰われたり、
運任せな博打になんだよ。
日に1度、チャート見れば十分な手法で倍は稼げるさ。
チャートチャート。チャートは裏切らねぇ」
「はい。そうさせてください。
よろしくお願いいたします」
「会長、池ちゃんをうちで預からせてください。
その間500はうちから入れますのでどうでしょう?」
「はぁ・・そやけんど池ぇ持って行かれたらぁ・・」
「うちにクダサイって訳じゃないですよ。
彼にはうちの別のノウハウを教えて返しますので」
「かかか・・会長。すすす、すみません。
もう既に破綻しているんす・・
来月はもう・・どうなるか・・」
「なんや?もうアカンかったんかぁ?
んなら早よ言えよぉ・・
そら苦労かけたなぁ・・スマンのぉ池ぇ」




